翌年からフォーマットが変更になるということで、旧フォーマットの最終年です。
さっそく見ていきましょう。
目次
AM
さて、今年はどんな問題からスタートするんでしょうか。
毎年、学生が解きやすい問題が出題されますように!って願ってます。
AM70

これはいきなりドキッとする問題ですね。
落ち着いて考えれば分かると思いますが、慌てると、ふと誤答枝に食いついてしまいそうです。
解説を見る。
答えは 1 ですね。
原子核の半径と質量数の関係、半径と体積の関係、この2点から導くことができます。
各文字を以下のように定義します。
- r:原子核の半径
- A:原子核の質量数
- V:原子核の体積
- π:円周率
すると、原子核の半径 r と質量数 A の間にはこんな関係がありましたね。

原子核の半径は質量数の1/3乗に比例します。
なおかつ、原子核は球体構造なので、体積はこう表します。

この2つを組み合わせると、原子核の体積と質量数の関係性が見えてきます。

原子核の体積は質量数に比例することが分かりますね。
忘れちゃってたら、コチラをチェック!

AM71

炭素ビームの総合エネルギーを問う出題ですね。
1GeVを単純に J 換算しても答えになりませんから、注意してください。
単位を元に立式してみましょう。
解説を見る。
答えは 3 ですね。
文字の定義は以下の通り。
- E:加速粒子1個分のエネルギー
- q:加速粒子の電荷
- e:素電荷量
- V:加速電圧
- I:電流
- t:照射時間
- Et:総エネルギー
また、電流の単位[ A ]は[C/s]に変換できることと、[CV]が[ J ]になることも利用します。
まず、1GeVの炭素線ということから、加速電圧を求めましょう。

加速電圧が分かれば、エネルギーの J を算出することができます。

電流の[ A ]を[C/s]とし、そこに照射時間の[ s ]を乗じることで電荷[ C ]にします。
電荷[ C ]に電圧[ V ]を乗じるとエネルギー[ J ]になることを利用して解いていきます。
忘れてしまった方はコチラもチェックしてください。

AM72

この問題、難問です。
想定の解き方から外れると、ドツボにハマることになります。
解説を見る。
答えは 4 です。
この問題、私としては、4 or 5 の複数解だと思っていました。
しかし、考え方のアプローチを変えると、正解の 4 にたどり着きます。
では考え方を見ていきましょう。
最初に誤った解法をご紹介します。
この落とし穴にはまる方、いるんじゃないでしょうか?
まず、グラフから陽子線の質量阻止能を読み取ります。

10MeVの陽子線の質量阻止能は45MeV・cm2・g-1と読み取れます。
質量阻止能(厳密には質量衝突阻止能)は下記の式に比例します。

この式を覚えていますか?
各文字の定義はこちら。
- (S/ρ)col 質量衝突阻止能
- m 粒子の質量
- zi 粒子の電荷数
- E 粒子のエネルギー
- v 粒子の速度
陽子線と重陽子線の阻止能比を把握しましょう。

重陽子の質量阻止能(青い文字)は陽子(赤い文字)の2倍であることが分かります。
グラフから読み取った値を2倍すると、10MeVの重陽子線の質量阻止能は約90MeV・cm2・g-1と求められます。
したがって選択肢は90の・・・・・・ない!?
そうなんです。選択肢に90がないんです。
80?100??
何度グラフを見てみても、陽子線の質量阻止能は45MeV・cm2・g-1と読み取れます。
近しい値にしようとも、80も100も同じだけ離れています。
ナニコレ?
この方法はダメということですね。
では、正解が導けるアプロ―チをご紹介。
最初に陽子線と重陽子線の阻止能比を把握します。
先ほどのとおり、重陽子線の質量阻止能は陽子線の2倍です。
ということは、10MeVの陽子線と同じ質量阻止能を得るのに、重陽子線は5MeVでOKと考えることもできます。
グラフを読み取ってみましょう。

この方法なら80MeV・cm2・g-1と読み取ることができます。
ちょっと意地悪な問題でしたね。
二度と出題して欲しくないと思います。
こういう回答が割れる可能性がある問題は国家試験の問題としては相応しくないと思います。
誰もが知っている・思いつく解法で正解が導ける問題が良いと思うのですが、どうでしょうか?
わざわざ受験生に頭を抱えさせなくても良いんじゃないでしょうか・・・
気を取り直して、次!
AM73

幾度となく出題されるパターンですね。
これは必ず得点しなきゃならない問題ですね。
解説を見る。
答は 3と4 です。
- 電磁波(X線やガンマ線)は横波でしたね。縦波は超音波です。
- 電磁波は電荷を有しません。したがって、電場や磁場中で直進するんでしたね。
- 電磁波のエネルギーEは振動数をν、波長をλ、プランク定数をh、速度をcとすると以下(選択枝5のあと)のように表します。
- 速度c、波長λ、振動νには以下の関係性があります(択枝5のあと)。単位を添えて考えるとわかりやすいかと思います。
- 周波数は紫外線の方が高いですね。マイクロ波が1mm程度、紫外線が100~400nm程度です。


AM74

解説を見る。
答えは 4 です。
- LETの単位は J/m です。
- LETは線エネルギー付与と言いますが、別名は限定線衝突阻止能です。したがって、阻止能が電荷の2条に比例することから、LETも電荷の2条に比例します。質量衝突阻止能の関係式を後に示します。質量阻止能は線阻止能を密度で除したもので、電荷やエネルギーの比例関係に変化はない。
- 2同様、運動エネルギーは反比例の関係にある。
- 正しい記載です。覚えましょう。線衝突阻止能のエネルギー範囲を限定的にしたものがLETです。そのエネルギー制限を開放し無限大にすれば、線衝突阻止能と同義になります。
- 「単位長さ当たり」である。

- (S/ρ)col 質量衝突阻止能
- m 粒子の質量
- zi 粒子の電荷数
- E 粒子のエネルギー
- v 粒子の速度
PM
引き続き、午後も見ていきましょう。
PM70

電子配置の問題ですね。
これ、苦手な方、結構多いんじゃないでしょうか?
一度覚えてしまえば、簡単にできるようになりますから、覚悟を決めて覚えちゃいましょう。
解説を見る。
答えは 3 です。
まずはSrの原子番号を確認しましょう。

Srの原子番号は38番です。
したがって、軌道電子の数も38個となります。
では、その38個の軌道電子がどのように配列されるのか考えていきます。
それぞれの電子軌道に入る電子数を確認しておきましょう。
K殻には1s軌道があり、2個の軌道電子が入ります。
L殻には2s軌道と2p軌道があり、2s軌道に2個、2p軌道に6個でL殻全体としては8個の軌道電子が入ります。
M殻には3s軌道、3p軌道、3d軌道があり、3s軌道に2個、3p軌道に6個、3d軌道に10個でM殻全体としては18個の軌道電子が入ります。
N殻には・・・キリがないので表にまとめます。

これで各軌道にいくつの軌道電子が配置されるかは分かりました。
今回必要になるのはもう一つ外側のO殻までです。
表の続きを書いてみましょう。
そして、もう一つ把握しておかなければならないのが、配置の順番です。

1番の矢印から順を追って見ていきます。
まずは1番矢印。
1s軌道に2つ配置されます。
次いで2番矢印。
2s軌道に2つ。
ここまでで4個の軌道電子が配置されました。
原子番号4番までですね。
続けます。
3番矢印行きます。
2p軌道に6つ。
3s軌道に2つ。
ここまでで10個の軌道電子が配置されています。原子番号10番まで。
4番矢印で変化が生じます。
ここまではK殻→L殻→M殻とすべてきれいに埋まってから外側の軌道に移ってきましたが、3pと3dの間で単純な規則性は破綻します。
見ていきます。
3p軌道に6つ。
3dに行きたいところですが、先に4sに2つ。
そして5番矢印の3dに10個配置されます。
4pに6つ。そして3dのときと同様に先に5s。
5sに2つ入ったところで、38個の軌道電子が配置されたことになります。
模式図的にSrの電子配置を図示してみましょう。

最外殻には31番目と32番目に配置された2つの軌道電子が存在します。
O殻(主量子数が5)のs軌道に2つ配置されているので、 5s2 となります。
どうでしょうか?やり方を覚えれば解けそうな気になってきませんか?
PM71

これはAM72に引き続き、難問ですね。
どちらかといえば、こちらの方が難しいかもしれないです・・・
解説を見る。
答は 5 です。
コンプトン効果の寄与率に関する問題ですね。
光子のエネルギーによって主に生じる相互作用は変化していきます。
図を参照してください。

物質が水の場合、30keV~30MeVの範囲では主にコンプトン効果が起こることが分かります。
60keVの光子の場合もコンプトンが主といえます。
そうしますと、選択枝は 3 or 4 or 5 となります。
私は最初、ここから先の判断に迷ってしまいました。
光子エネルギーと質量減弱係数の関係を示したグラフを参考にしようと、教科書や参考書の類を色々と探しました。
鉛やアルミニウムのグラフは見つかったものの、水のグラフがなかなか見つからなかったからです。
選択枝に50%以上のものを1つにするか、エネルギーを1MeVにしていただかないと、選びきれないと思いました。
で、過去問を漁ってみたところ、ありました。
第74回 PM72
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp220421-06b_01.pdf 厚生労働省HPより
このグラフから60keVの質量減弱係数を参考にコンプトン効果の寄与率を検証していきます(オレンジ線)。

コンプトン効果に比べて、光電効果や干渉性散乱の寄与は極僅かであることが読み取れます。
したがって、コンプトン効果の寄与率は85%の選択枝 5 が妥当だと判断できます。
過去問として出題されたグラフが参考になるなんて・・・
やっぱり過去問で勉強するのが良さそうですね。
PM72

解説を見る。
答えは 2 です。
- 中性子はβ–壊変する。β+壊変は陽子が中性子に代わる壊変。
- 陽子の質量は電子の1836倍、中性子の質量は電子の1839倍。したがって、正しい枝である。
- 熱中性子のエネルギーの最確値(最頻値)は 0.025eV 、速度に換算すると 2200m/s である。
- 熱中性子の捕獲断面積は速度に反比例する。これを1/v法則といいます。エネルギーの場合はエネルギーの平方根に反比例する。
- 散乱前の8/9に相当する。以下の式を参照してください。

各文字の定義はこちら
- ER:反跳原子核の運動エネルギー(入射中性子の失うエネルギー)
- En:入射中性子の運動エネルギー
- A:標的核(今は重陽子)の質量(質量数で代用して考える)
- cosθ:入射中性子の散乱角
失うエネルギーが最大になるということは、ERが最も大きくなるように計算すれば良いということ。
Aに重陽子の質量数の2を代入。
散乱角は180度。
これで計算すると、

今年の問題の中では比較的スムーズに解けましたね。
PM73

解説を見る。
答えは 2と3 です。
- 特性X線のエネルギーは核種によって固定値であるため、管電圧には左右されない。
- 正しい枝です。制動X線の全強度は管電圧の2条に比例します。したがって、管電圧を2倍にすれば、全強度は22倍で4倍になります。
- 正しい枝です。モリブデンのKα線のエネルギーは 17.5keV、タングステンのKα線のエネルギーは59keVです。
- 制動X線の最大エネルギーは管電圧のみで決まります。
- 逆である。K特性X線は、軌道電子がK殻に遷移してくる際に放出する特性X線である。つまり、K殻に空位を生じさせる必要がある。そのためにはK殻軌道電子を電離することが条件になる。したがって、入射電子のエネルギーはK殻結合エネルギーより大きくなければならない。
PM74

解説を見る。
答えは 5 です。
これは核融合の内容ですが、統一原子質量単位を使ったよく出題されるパターンですね。
統一原子質量単位で計算し、それをエネルギーに換算するという流れで簡単に解くことができます。

いかがですか?
小数点以下の桁を間違えなければ、比較的簡単な計算問題です。
第76回 放物 総評
いかがだったでしょうか。
今年は結構難易度の高い出題が目立ちましたね。
出題されているテーマ自体はよく見かけるものでしたが、選択枝に泣かされました。
次年度以降はもう少し選びやすい選択枝だと良いですね。
それと、CT、MRI、超音波といった医療物理の出題がありませんでしたね。