「エネルギー準位ってマイナスになるんだって……え、どういう意味?」
「結合エネルギーとどう違うのか、イマイチはっきりしない」
授業やワークを進めていると、こんなモヤモヤを感じる人は多いはずです。
特に初めて学ぶときはなりがちです。
この記事では、その2つをスッキリ整理してみます。
井戸のイメージや水素原子の数値を例にしながら、
- どうして準位はマイナスで表されるのか
- 結合エネルギーとどう関係しているのか
を順番にたどっていきましょう。
ここが分かると、「電子はなぜ原子核に縛られているのか」がイメージしやすくなります。
医療放射線の勉強でも役立つところなので、一緒に確認していきましょう。
エネルギー準位と結合エネルギー?
軌道電子のエネルギー準位と結合エネルギーの間には、それはそれは深い関係性があります。
同じものを表しているのですが、どこから見るかによってちょっと変わるんです。
では、まずはそれぞれ見ていきましょう。
エネルギー準位とは?
原子の中にいる電子は、どこにでも好き勝手に存在できるわけではありません。
決まった位置、決まったエネルギーの「段」にしか存在できず、その段ごとにエネルギーの値が定まっています。
このとき、電子がどの段にいるかを表したものが エネルギー準位 です。
ここから先では、
「なぜエネルギー準位はマイナスの値で表されるのか」
「自由電子と何が違うのか」
を順番に整理していきます。
電子はなぜマイナスの値になるのか

エネルギーのグラフを見て、「マイナスってどういうこと?」と感じる人は多いと思います。
でも、これは「軌道電子が原子核に縛られている」ことを表しているだけなんです。
原子核や原子(軌道電子)は量子力学的に離散的な値しかとることができません。
そのエネルギー値をエネルギー準位といい、束縛の程度を表しています。
自由電子は、エネルギーを 0 eV として基準にして考えていきます。
そこから見て、原子の中にとどまっている電子は「外へ飛び出すのにエネルギーが足りない」状態となります。
だから値がマイナスで表されます。
たとえば、深い井戸の底にいるようなものです。
地面(0 eV)より下にいるから、プラスのエネルギーを加えないと外には出られません。
この「井戸の底にいる=マイナスの値」という考え方が、エネルギー準位の基本なんです。
したがって、最も原子核に近いK殻が一番エネルギー準位が低いことになります。
そして、このエネルギー準位が最も低い状態を基底状態と言います。
自由電子とのちがい
「束縛されていない電子」――これを自由電子と呼びます。
エネルギーを基準に考えると、自由電子は 0 eV ちょうどに置かれます。
一方、原子の中にいる電子はマイナスの値。つまり、外の世界に出るには追加のエネルギーをもらわないといけない立場です。
自由電子と束縛された電子を比べると、
- 自由電子:好きに動き回れる状態(エネルギー 0 eV)
- 束縛された電子:原子核にくっついていて抜け出せない状態(エネルギーはマイナス)
という違いになります。
要するに、エネルギー準位がマイナスかゼロかで「つかまっているのか、自由なのか」が決まるわけです。
蟻地獄モデルでイメージしてみよう
エネルギー準位をイメージするには蟻地獄を想像してみてください。

エネルギー準位を目に見える形で考えるときに便利なのが、「蟻地獄」のイメージです。
アリジゴク(原子核)に近いアリ(電子)ほど逃げ場がなく束縛されています。
これは自由度の低い状況。
それに対して、アリジゴク(原子核)に遠いアリ(電子)ほど束縛は緩やかです。
これが自由度の高い状況。
そして、蟻地獄に陥っていないアリは全く束縛されず、自由気ままに行動できます。
電子も原子核に束縛されていない自由電子は自由に動き回ることができます。
つまり、エネルギー準位とは、電子の自由度を示したものと捉えると分かりやすいかと思います。
その自由電子の自由度を 0 とします。
自由電子は原子核からの束縛を受けていませんから、自由度0です。
そして、エネルギー準位も 0 とします。
次いで、K殻の軌道電子の自由度を考えます。
自由電子が最も自由で、その自由度を0としましたから、K殻の自由度はマイナスの概念になります。
当然、エネルギー準位もマイナスの概念となります。
水素原子の場合、K殻軌道電子の自由度は -13.6eV です。
したがって、エネルギー準位も -13.6eV となります。
結合エネルギーとは?
エネルギー準位が「電子がどの位置にいるか」を表しているのに対して、
結合エネルギーは「そこから外に出るのに、どれだけのエネルギーが必要か」を表した量です。
言いかえると、
電子が原子核にどれほど強く引きつけられているかを、外へ引きはがす視点で見たものが結合エネルギーです。
ここでは、エネルギー準位との関係を意識しながら、結合エネルギーの意味を整理していきます。
束縛の強さを表すエネルギー
結合エネルギーとは、その名のとおり「どれだけ強く原子核に結びつけられているか」を数字で表したものです。
電子が原子から飛び出すには、外の世界(0 eV)に届くまでエネルギーをもらわなければなりません。
つまり結合エネルギーとは、「電子を引きはがすのに必要なエネルギー」と言い換えられます。
- K殻の電子 → 原子核にいちばん近く、強く引き寄せられている → 結合エネルギーが大きい
- 外側の電子 → 引きつけは弱い → 結合エネルギーは小さい
この関係をイメージすると、エネルギー準位が深くマイナスになっているほど、結合エネルギーが大きいと分かります。
エネルギー準位との関係
エネルギー準位と結合エネルギーは、実はコインの表と裏のような関係です。
- エネルギー準位は「電子が今どこにいるか」を示す目印。値はマイナスで表されます。
- 結合エネルギーは「そこから外に出るのに必要な力」のこと。プラスの値で表されます。
たとえば、ある電子の準位が –50 eV なら、その電子を自由にするには +50 eV の結合エネルギーが必要、ということです。
要するに、
「マイナスの深さ」=「抜け出すためのエネルギーの大きさ」
という対応関係になっています。
こう整理すると、マイナスとプラスがごっちゃになっていたモヤモヤがスッキリしてくるはずです。
「腹の減り具合とごはんの盛り加減」と同じ関係やな。
腹の減り具合はマイナス。ごはんの盛りはプラスや。


つまり、どれだけマイナスかを見れば、どれだけエネルギーを足せばいいかが分かる、ってことだね。
水素原子を例に考えてみる
一番シンプルな原子である水素を使うと、エネルギー準位と結合エネルギーの関係がよく見えてきます。
水素原子の電子は、原子核(陽子)に一つだけ束縛されています。
この電子の基底状態(K殻)のエネルギー準位は –13.6 eV。
つまり、
- エネルギー準位:–13.6 eV
- 結合エネルギー:+13.6 eV
となります。
この数字は「電子を外に飛び出させるために、13.6 eV 分のエネルギーを与えなければならない」という意味です。
もし外から光子などが 13.6 eV 以上のエネルギーを与えれば、電子は自由になり、エネルギー0 eVの世界(自由電子)に移ることができます。
このシンプルな例を頭に入れておくと、もっと複雑な多電子原子を学ぶときも理解しやすくなります。
水素原子で考えてみると・・・
水素原子でエネルギー準位と結合エネルギーを考えてみましょう。
K殻に軌道電子がある場合、
エネルギー準位は -13.6eV となり、
結合エネルギーは 13.6eV になります。
L殻に軌道電子がある場合は、
エネルギー準位が -3.4eV となり、
結合エネルギーが 3.4eV になります。
エネルギー準位と結合エネルギーの整理
ここまでで、エネルギー準位と結合エネルギーがまったく別のものではなく、同じ状態を違う見方で表していることが見えてきたと思います。
このセクションでは、これまでの内容を一度整理して、
「どちらを聞かれているのか」
「プラスなのか、マイナスなのか」
を迷わず判断できるようにまとめていきます。
2つの視点のちがいを表にまとめる
ここまでの話を整理すると、エネルギー準位と結合エネルギーは「同じ現象を別の角度から見ている」ことがわかります。
| 視点 | 値の表し方 | 意味 | 例(水素の基底状態) |
|---|---|---|---|
| エネルギー準位 | マイナスで表す | 電子が井戸の底にいることを示す | –13.6 eV |
| 結合エネルギー | プラスで表す | 井戸の底から外に出すのに必要なエネルギー | +13.6 eV |
言いかえると、
- エネルギー準位:電子が“どこにいるか”の位置情報
- 結合エネルギー:そこから“抜け出すのに必要なエネルギー”
この対応さえ押さえておけば、「マイナスとプラスがごちゃごちゃになる問題」はほとんど解消できます。
実際の問題を見ていきましょう。
第63回 2011年 問45
制動X線で正しいのはどれか。2つ選べ。
- 連続エネルギースペクトルを示す。
- 発生効率はターゲット物質の密度に比例する。
- 発生効率は電子の運動エネルギーに反比例する。
- 電子が原子核のクーロン場で減速されて発生する。
- 最大エネルギーは軌道電子のエネルギー準位に依存する。
解答を確認する。
正解は 1と4 です。
これまた、エネルギー準位と結合エネルギーに特化した出題はありませんでした。
「エネルギー準位」は原子核のものを問われるケースの方が多いようでした。
- 正しい。制動X線は入射電子が連続的に減速されることで発生するため、X線のエネルギーは連続分布をとります。
- 誤り。制動X線の発生効率は 原子番号 Z² に比例 します。密度とは直接関係ありません。
- 誤り。電子のエネルギーが高いほど発生効率も上がります。反比例ではなく、むしろ正比例的な関係です。
- 正しい。制動X線は原子核の正電荷によって入射電子が曲げられ、減速されるときに発生します。
- 誤り。最大エネルギーは「入射電子の運動エネルギー」によって決まります。軌道電子の準位は関係なく、これは特性X線の話。
医療現場でこの知識はどう役立つの?
エネルギー準位や結合エネルギーの話は、教科書の中だけでは終わりません。
医療の現場では、実際に撮影や治療の線質を考えるときに深く関わってきます。
たとえば X線撮影やCT。
- X線管のターゲット物質(タングステンなど)の結合エネルギーに応じて、特性X線が発生します。
- 同時に、電子が原子核のクーロン場で減速されることで 制動X線が生じます。
このとき「最大エネルギーは電子の運動エネルギー依存」「特性X線は電子の結合エネルギー依存」という区別を理解しておくと、スペクトルの成り立ちを正しくイメージできます。
特性X線はマンモグラフィでとても大切な成分ですから、結合エネルギーとの関りも強い検査といえますね。
さらに、X線吸収端の知識は被写体側にも役立ちます。
造影剤にヨードやバリウムを使う理由は、それぞれの元素のK殻結合エネルギーに近いエネルギーのX線がよく吸収されるから。
結合エネルギーの理解が、そのまま撮影の画質やコントラスト改善に直結するんです。
つまり、エネルギー準位や結合エネルギーを学ぶことは、ただの数式暗記ではなく、実際に臨床で使う「線」をどう選び、どう使うかにつながっていきます。
まとめ
この記事では、エネルギー準位と結合エネルギーの関係を整理してきました。
エネルギー準位は、電子が原子核にどれだけ深く束縛されているかを表す量で、マイナスの値で示されます。
一方、結合エネルギーは、その電子を原子の外へ引きはがすために必要なエネルギーで、プラスの値として表されます。
この2つは別々の概念ではなく、
「どこにいるか」と「どれだけ出すか」という同じ状態を別の視点から見たものです。
準位が深くマイナスになるほど、外に出すための結合エネルギーは大きくなります。
この整理ができていれば、制動X線や特性X線、さらには吸収端の理解まで、ひとつながりで考えられるようになります。

マイナスとかプラスとかで混乱しやすいけど、“どこにいるか”がエネルギー準位、“どれだけ出すか”が結合エネルギー。
この整理さえできれば、国試問題もスッキリ解けるようになりますよ。
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