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Home » ワークブック解答 » E10 混同注意!電子線とβ線の飛程の違い まとめ

みなさん、こんにちは! たなまるです。

学生さんから良くもらう質問にこんなのがあります。

電子線とβ線って、同じ電子なのに何が違うの?

「そういえばよく分からないかも・・・」となってしまった方は、是非最後までお付き合いください。

似て非なるものである電子線とβ線。その違いに触れつつ、「飛程」について重点的にご紹介していきます。

違いを一覧表のようにまとめると理解しやすくなりますので参考にしてみて下さい。

600人の放射線技師を育成した放物の学習法、伝授していきます。

さっそく解答例

「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 E10 の穴埋め解答例と解説です。
先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

E10 電子線とβ線の飛程 の解答

解説

結論から先にお伝えしておきましょう。

  • 電子線とβ線、正体は共に電子
  • 電子線は線スペクトルでβ線は連続スペクトル
  • 電子線は外挿飛程でβ線は最大飛程
  • 外挿飛程も最大飛程も質量飛程で定義された式を用いる
  • 線飛程と質量飛程の違い

このあたりがポイントになります。

それぞれ見ていきましょう。

電子線とβ線の正体

電子線とβ線

電子線もβ線もその正体は 電子 で同じです。

発生の仕方、させ方が異なるので、「性質」が若干変わってきます。

電子線の発生

X線管球も言うなれば電子線

電子線は電子銃などによって作り出された電子をリニアックなどの加速器で加速したものです。

これをもっと超端的・簡単に言うと、「電子に電圧をかけて飛ばしたもの」となります。

X線管球の中で陽極めがけて飛んでいる最中の電子も電子線の一種といえます。

図のプロセスはこうです。

  1. フィラメントを加熱して熱電子を発生させる。
  2. 管電圧を印加して、熱電子を陽極に向かって飛ばす。
  3. このとき飛んで行っている熱電子は電子線と言える。

つまり電子線は

装置によって電気的に発生させた電子

のことを指します。

β線の発生

ベータ線の発生

今度はβ線の発生も確認していきましょう。

β線は電子線と違い、装置で発生させるものではありません。

放射性物質から飛び出した電子のことを指します。

β壊変が起こると、原子核から電子が放出されます。

β壊変であれば陰電子、β+壊変であれば陽電子が放出されます。

つまりβ線は

放射性壊変によって放出された電子

のことを指しています。

スペクトルによる違い

電子線とβ線のスペクトルの違いも認識しておきましょう。

同じ電子とはいえ、その違いはエネルギースペクトルにも表れてきます。

電子線のエネルギースペクトル

機械的に発生させる電子線の場合、そのエネルギーEは電子の電荷をq、加速の電圧をVとすると

E=qV

で表されます。

電子の電荷の大きさ(電荷の絶対値)は1.6×10-19 Cでしたね。

そこに設定した電圧を乗じることで電子線の運動エネルギーが求められます。

つまり、電子の運動エネルギーは設定する電圧の値によって決まり、その値は1つに定まりますので線スペクトルであることが言えます。

また、1つの電子を加速するというシチュエーションでは電子以外のものが同時に放出されることはありません。したがって、こちらからも電子線は線スペクトルであることが言えます。

複数本の電子線が飛んで行ったとしても、それは同じ性質の電子が何個も飛んで行ったことになります。

電子線群

ベータ線のエネルギースペクトル

放射性物質から発生するβ線は単独で放出されるわけではなく、ニュートリノと同時に放出されます。

β壊変であれば反ニュートリノ、β壊変であればニュートリノが同時放出されます。

β線は必ずニュートリノとセットです。

よって、壊変エネルギーはニュートリノと分け合うことになります。

そして、この分け合い方(分配比率)が毎回異なるので、β線は様々な値をとることになります。

したがって、β線は連続スペクトルになります。

複数本のβ線が飛んでいけば、それらのエネルギーはそれぞれで異なる値になります。
※たまたま同じ数値になるものは存在します。

ベータ線群

スペクトルの違いをイメージしてみると

さて、単独発生と同時発生でスペクトルが変わるという話をしましたが、こうイメージしてみてはいかがでしょう?

親戚のおじさんからお年玉をもらいました。

「親戚のおじさんからお年玉をもらった」

なんてシチュエーションはどなたでも経験あるのではないでしょうか?

こんなに露骨にお札丸出しで渡してくることはないでしょうが、1万円をもらったことにしましょう。

毎年1万円のお年玉をくれる親戚のおじさんです。

一人っ子の女子学生

もしあなたが一人っ子なら、いただいたお年玉の1万円は全額あなたのものです。

来年のお年玉1万円も丸ごとあなたのもの。

これが線スペクトル。

女子学生の姉弟

あなたに弟がいる場合は事情が変わってきます。

1万円を2人で分け合わなくてはなりません。

パターンはいろいろとありますよね。

一番平和的な方法は5千円ずつ半分にすること。

弟を生意気に思っている場合は、自分が8千円いただいて、残りの2千円を弟にあげるかもしれません。

弟が可愛くて仕方ない場合は、新しいオモチャが買えるように弟に7千円あげて、自分は3千円で我慢するかもしれません。

こんな感じで毎回分け合う額が変動します。

これが連続スペクトルです。

まとめると、

独り占めは線スペクトル、シェアする場合は連続スペクトル

となります。
※「消滅放射線」などの例外もあります。

飛程による違い

電子線とβ線では飛程にも違いが出てきます。

その違い・使い分けは2点。

  1. 外挿飛程か最大飛程か
  2. 線飛程か質量飛程か

単に一口に「飛程」と言っても、その裏に隠された設定を紐解かなくては最適な解答に結び付きません。

見極めのポイントをご紹介します。

外挿飛程か最大飛程か

外挿飛程と最大飛程

電子線・β線の飛程には「外挿飛程」と「最大飛程」があります。

電子線は外挿飛程・最大飛程の両方がありますが、実はあまり差はありませんので、混同してしまってもさほど問題はありません。β線は最大飛程が適応される傾向があります。

それぞれ、よく使われる式を見ていきましょう。

まずは、電子線の外挿飛程を表す式はこちらです。

電子線の外挿飛程の式

エネルギー領域 5MeV<E<50MeV の電子線に対して適応できる式です。

続いてβ線の最大飛程を表す式です。

ベータ線の最大飛程

エネルギー領域 0.8MeV<E<3MeV のβ線に対して適応される式です。

両者似ているのですが、数字の部分が若干異なります。

線飛程か質量飛程か

飛程には単純に飛んだ距離を示す「線飛程」R[cm]と線飛程に密度ρ[g/cm3]を乗じて物質の種類に依存しない次元の「質量飛程」Rm[g/cm2]があります。

その関係性としてはこうなります。

質量飛程は線飛程に密度を乗じて求める。

これは、電子線・β線ともに当てはまります。

問題となるのは国家試験も主任者試験も明確に「線飛程」や「質量飛程」と明記してくれないことです。

問題文中では「飛程」としか書いてくれていません。

自分で飛程の単位をチェックして線飛程か質量飛程かを判断する必要があります。

慣れないうちは結構引っ掛かります。

問題文をよく読んで、最終的に問われているのが線飛程なのか質量飛程なのかを確認する癖をつけてください。

違いをまとめてみると

これまでの違いを表にまとめて一覧化していきましょう。

電子線β 線
正 体電 子電 子
発生過程電気的に発生放射性壊変
エネルギースペクトル線スペクトル連続スペクトル
適応される飛程外挿飛程最大飛程
できた!

こんな感じで手応えを感じてくれると嬉しいです。

実際の問題を見ていきましょう

第74回 2022年 AM72の問題

今回は2022年に実施された第74回国家試験からの1題です。

解答を確認する。

正解は 2 です。

まず、求めなければならないものを確認しましょう。

cm単位の飛程ですから、「アルミニウム中の線飛程」ですね。

電子線ですから、Rp=0.52E-0.3の式で求められそうですね。

第74回 AM72 数式

医療現場での関わり

医療と電子線

電子線やβ線はすべての放射線技師が直接的に扱うものではありませんが、放射線治療では電子線が欠かせませんし、核医学であればβ壊変との関りが出てきます。

また、X線を出すには電子線が必要です。

管球の中で電子を飛ばしてますから、ときには装置の中での出来事に想いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

まとめ

たなまる
たなまる

・電子線もβ線も正体は電子で同じものです。
・電子線は機械で発生させて、β線は放射性壊変に伴って発生します。
・電子線は外挿飛程、β線は最大飛程が適応されます。
・計算で求める場合はともに質量飛程です。
・飛程は単位で線飛程か質量飛程かを判断します。

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By たなまる

1984年生まれの放射線技師です。 放射線技師養成校で核医学・物理・電気の講義を担当しています。 放射線技師の割に、不思議なことに現場科目より基礎科目の方を多く持っています。そのせいか、学生からは技師じゃないと思われている節があります。 専門知識よりは、学生が理解しやすい表現を心がけています。

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