X線管の中では、電子がターゲットに衝突することでX線が発生しています。
でも、そのとき電子が持っていたエネルギーのうち、どれくらいが本当にX線に変わっているのかを意識したことはあるでしょうか。
実は、X線として利用できるエネルギーはごくわずかで、ほとんどは別の形に変わってしまいます。
この割合を数式で整理したものが、X線の発生効率です。
この記事では、まず電子がターゲットに持ち込むエネルギーと、そこから発生するX線の強度を式で整理し、発生効率がどのように決まるのかを順を追って確認していきます。
さらに、タングステンターゲットを例に、実際の数値計算も行います。
計算の結果を見れば、なぜX線管に冷却が必要なのか、なぜ発生効率が1%にも満たないのかが、数式と現実の両方からはっきり見えてきます。
制動放射によるX線発生効率とは何か
X線管では、加速された電子がターゲットに衝突することでX線が発生します。
ただし、ここで重要なのは「X線が出る」という事実そのものではなく、電子が持っていたエネルギーのうち、どれだけがX線に変換されたのかという点です。
この割合を表したものが、X線の発生効率です。
X線は電子エネルギーの何%が変換されたものか
発生効率とは、ターゲットに入射した電子の全エネルギーに対して、そこから発生したX線の全エネルギーがどの程度の割合を占めているかを示す量です。
言い換えると、「電子が持ち込んだエネルギーのうち、X線として取り出せた分はどれくらいか」を数値で表したものになります。
この考え方を式で表すと、発生効率は
X線のエネルギー ÷ 電子のエネルギー
という形で定義されます。
ここで、用いる記号を整理しておきましょう。
- η:X線発生効率
- IX:ターゲットから発生したX線の全エネルギー
- Ie:ターゲットに入射した電子の全エネルギー
これらを用いると、X線発生効率は次の文字式で表されます。
$$η=\frac{I_X}{I_e}$$
この式は、X線発生効率の基本的な定義式であり、
このあと電子のエネルギーやX線の強度を具体的に整理していくための出発点になります。
ターゲットに入射する電子の全エネルギー
X線発生効率を考えるためには、まず分母にあたる電子がターゲットに持ち込むエネルギーをはっきりさせておく必要があります。
ここでは、X線管において電子がどれだけのエネルギーを運んできているのかを、式を使って整理していきます。
管電流・管電圧・照射時間から電子エネルギーを求める
線発生効率を考えるためには、まず
電子がターゲットにどれだけのエネルギーを持ち込んでいるのか
を明確にする必要があります。
X線管では、電子は管電圧によって加速され、
管電流と照射時間によって、その数が決まります。
つまり、電子がターゲットに持ち込む全エネルギーは、
- 1個の電子が持つエネルギー
- ターゲットに到達した電子の数
の両方を考えることで求められます。
この考え方を言葉の式で表すと、
電子の全エネルギーは
管電圧 × 管電流 × 照射時間
で決まることになります。
ここで、用いる記号を整理しておきましょう。
- Iₑ:ターゲットに入射した電子の全エネルギー
- i:管電流
- V:管電圧
- t:照射時間
これらを用いると、電子の全エネルギーは次の文字式で表されます。
$$\color{#B22222}{I_e = iVt}$$
この式は、
電力(電圧×電流)×時間=エネルギー
という基本的な物理関係を、そのままX線管に当てはめたものです。
つまり、この式が示しているのは、
「その撮影条件で、ターゲットにどれだけの電子エネルギーが投入されたか」
という点になります。
この Iₑ が、X線発生効率を求めるときの分母にあたる量になります。
ターゲットから発生するX線の全強度
電子がターゲットに入射すると、そのエネルギーの一部がX線として放出されます。
ここで考えたいのは、「どれくらいのX線が発生したのか」という量の問題です。
このX線の量は、撮影条件やターゲットの性質によって変化します。
制動放射の強度を決める因子
電子がターゲットに入射すると、そのエネルギーの一部が制動放射としてX線に変換されます。
ここで考えたいのは、「どれくらいの強さのX線が発生するのか」という点です。
制動放射によるX線の強度は、主に次の要因に依存します。
まず影響するのが、ターゲットの原子番号です。
原子番号が大きいほど、電子は原子核の強いクーロン力を受け、減速が大きくなります。
その結果、制動放射は強くなります。
次に重要なのが管電圧です。
管電圧が高いほど、電子は大きなエネルギーを持ってターゲットに衝突し、制動放射が起こりやすくなります。
さらに、管電流と照射時間も関係します。
これらはターゲットに入射する電子の数を決める量であり、電子の数が多いほど、発生するX線の総量も増加します。
このように、制動放射の強度はターゲットの性質と撮影条件の両方によって決まります。
制動放射によるX線強度の式
先ほど整理した関係をまとめると、制動放射によるX線の全強度は、
- ターゲットの原子番号
- 管電圧
- 管電流
- 照射時間
に依存していることがわかります。
この考え方を言葉の式で表すと、制動放射によるX線の強度は
原子番号 × 管電流 × 管電圧² × 照射時間
に比例します。
ここで、用いる記号を整理しておきましょう。
- Iₓ:制動放射によって発生したX線の全強度
- Z:ターゲットの原子番号
- i:管電流
- V:管電圧
- t:照射時間
- k:比例定数
これらを用いると、制動放射によるX線強度は次の文字式で表されます。
$$\color{#B22222}{I_X=kZiV^2t}$$
この式から、管電流や照射時間はX線の量を変化させるパラメータであり、管電圧はX線の質を変化させるパラメータであると同時に、制動放射の起こりやすさにも関与していることが読み取れます。
この Iₓ が、X線発生効率を求めるときの分子にあたる量になります。
X線発生効率の式を導く
ここまでで、
- ターゲットに入射する電子の全エネルギー
- ターゲットから発生するX線の全強度
を、それぞれ整理してきました。
ここでは、この2つを比の形でまとめ、X線発生効率の式を導いていきます。
発生効率はX線エネルギーと電子エネルギーの比
ここで扱う η(イータ) は、
X線発生効率を表す記号です。
X線発生効率とは、
ターゲットに入射した電子の全エネルギーのうち、どれだけがX線として取り出せたか
を表した割合です。
言葉で書くと、X線発生効率は
X線の全エネルギー ÷ 電子の全エネルギー
として定義されます。
以後、このX線発生効率を η で表していきます。
発生効率の式を整理すると何が残るか
ここでは、X線発生効率 η(イータ) を、式の形で順番に整理していきます。
ゴールは「発生効率が何に依存して決まるのか」を、式変形で自分の目で確認できるようにすることです。
まず、X線発生効率の定義式は次の通りです。
- η:X線発生効率
- Iₓ:制動放射によって発生したX線の全強度
- Iₑ:ターゲットに入射した電子の全エネルギー
$$η=\frac{I_X}{I_e}$$
次に、これまで整理した2つの式を思い出します。
- 電子の全エネルギー $I_e=iVt$
- 制動放射によるX線の全強度 $I_X=kZiV^2t$
ここからは、ηの式に代入して整理していきます。
まず、定義式に Iₓ と Iₑ を代入します。
$$\color{#B22222}{\begin{aligned}
η&=\frac{I_X}{I_e}\\[6pt]
&=\frac{kZiV^2t}{iVt}
\end{aligned}}$$
分子と分母に同じ形で入っているものを約分すると、
- i(管電流) が消える
- t(照射時間) が消える
- V は 2乗と1乗が残って V になる
という形になります。
$$\color{#B22222}{\begin{aligned}
η&=\frac{I_X}{I_e}\\[6pt]
&=\frac{kZiV^2t}{iVt}\\[6pt]
&=kZV
\end{aligned}}$$
つまり、X線発生効率は
- Z(ターゲットの原子番号)
- V(管電圧)
で決まり、管電流 i と 照射時間 t には依存しない、ということになります。
ここで、この結果を撮影条件の感覚と結び付けておきましょう。
- 管電流 i と 照射時間 t は、X線の量を変化させるパラメータです。
ただし、i と t は Iₓ と Iₑ の両方に同じように効くため、比を取ると打ち消し合います。 - 管電圧 V は、X線の質を変化させるパラメータです。
そしてこの式変形から分かるように、管電圧は発生効率にも関与するため、結果としてX線の量にも影響を及ぼします。
このように、式を順に整理していくと、「どの条件が効率を変え、どの条件が効率を変えないのか」がはっきり見えてきます。
タングステンターゲットで発生効率を計算してみよう
ここまでで、X線発生効率が
$$η=kZV$$
で表されることを整理しました。
ここでは、実際のX線管でよく用いられるタングステンターゲットを例に、X線発生効率がどの程度の値になるのかを、具体的な数値で確認してみましょう。
計算条件の整理
今回の計算では、次の条件を用います。
- Z:タングステンの原子番号(74)
- V:管電圧(100 kV)
- k:比例定数(10⁻⁹)
ここで η(イータ) は、X線発生効率を表す量であり、電子の全エネルギーのうち、X線に変換された割合を意味します。
計算結果とその意味
これらの値を発生効率の式に代入すると、
$$
\color{#B22222}{
\begin{aligned}
η&=kZV\\[6pt]
&=10^{-9}\times74\times100\times10^3
\end{aligned}}$$
となり、計算結果は
$$\color{#B22222}{η ≈ 0.74 \mathrm{ [\%]}}$$
です。
つまり、タングステンターゲットを用いた場合でも、電子が持っていたエネルギーのうち、X線として利用できるのは1 %にも満たないということになります。
この数値は、X線がいかに効率の悪い形で発生しているかを示しています。
そして、この事実が次の話題である「なぜX線管では冷却が必要なのか」につながっていきます。
なぜX線管は冷却が必要なのか
前のセクションで見たように、タングステンターゲットを用いた場合でも、X線として利用できるエネルギーは 1 %にも満たない という結果になりました。
では、残りのエネルギーはどこへ行っているのでしょうか。
ほとんどのエネルギーは熱になる
電子がターゲットに衝突したとき、そのエネルギーの大部分は原子の振動エネルギーとして失われます。
これが、ターゲット内部で発生する熱です。
X線発生効率 η が 1 %未満ということは、言い換えれば、99 %以上のエネルギーが熱に変換されているということになります。
このため、ターゲットは短時間で非常に高温になります。
もしこの熱を適切に逃がすことができなければ、ターゲットやX線管そのものが損傷してしまいます。
X線管構造と冷却の必要性
X線管では、この大量の熱に対応するために、さまざまな冷却対策が取られています。
例えば、
- ターゲットを回転させて熱を分散させる
- X線管全体を油で満たして熱を逃がす
といった構造が採用されています。
このような冷却機構は、X線の発生効率が低いという物理的な性質から、必然的に必要となった工夫だと言えます。
X線管の冷却は、単なる装置の都合ではなく、X線発生の本質的な性質に根ざしたものなのです。
実際の過去問を見てみよう。
発生効率関係の過去問は探すのに苦労しません。
それほど頻繁に出題されるジャンルなのです。
第73回 2021年 AM71
X線管での制動X線の発生で正しいのはどれか。
- 発生効率は管電流に比例する。
- 全強度は管電流の2乗に比例する。
- 発生効率は管電圧の2乗に比例する。
- 全強度はターゲット物質の原子番号に比例する。
- 発生効率はターゲット物質の温度に反比例する。
答えを確認する。
正解は 4 です。
できましたか?
- 管電流は発生効率には関与しない。
- 全強度は管電流に比例する。2乗に比例は管電圧。
- 発生効率は管電圧に比例する。2乗に比例は全強度のとき。
- OK
- ターゲット物質の温度は発生効率とは無関係。
医療現場でのかかわり

X線発生効率が 1 %にも満たないという事実は、医療現場で日常的に使っているX線装置の設計や運用に、直接関係しています。
診断用X線装置では、十分なX線量を確保するために、管電流や照射時間を調整して撮影を行います。
しかし、その裏側では、投入したエネルギーのほとんどが熱として陽極に蓄積されています。
そのため、連続撮影や透視、高管電圧・高管電流条件での撮影では、X線管の過熱が大きな問題になります。
実際の装置では、回転陽極や油冷却などの仕組みによって、この熱を効率よく逃がす工夫が施されています。
つまり、私たちが日常的に目にしている管球の冷却構造や使用条件の制限は、X線発生効率が低いという物理的な性質を前提として設計されたものです。
発生効率の式を理解することは、単なる計算問題ではなく、なぜこの装置構造なのか、なぜ使用条件に制限があるのかを理解することにもつながります。

かつて大学病院で働いていたころ、職員健診で撮影していたら、照射筒がアッツアツになってしまいましたね。

連続してパンパカ撮影してるとそうなるわなぁ。
まとめ
この記事では、X線管で発生する制動X線の発生効率について、式の意味から装置構造までを整理してきました。
ここまでの内容を振り返りながら、ポイントをまとめていきましょう。
- X線発生効率 η とは、入射した電子の全エネルギーのうち、X線に変換された割合を表す量である。
- 発生効率は η = Iₓ / Iₑ と定義され、式を整理すると η = k Z V となる。
- 管電流や照射時間はX線の量を変化させるパラメータだが、発生効率には影響しない。
- 管電圧はX線の質を変化させるパラメータであると同時に、発生効率にも関与する。
- 発生効率は 1 %にも満たず、投入されたエネルギーのほとんどは熱として陽極に蓄積される。

発生効率の式は、ただの計算式ではありません。
なぜX線管に冷却が必要なのか、なぜ使用条件に制限があるのかを、物理の言葉で説明できるようになるための式なんですよ。
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