C09 X線の最大エネルギーと特性X線の特徴

X線管から発生するX線は、すべてが同じエネルギーを持っているわけではありません。
連続したエネルギー分布の中には上限となる最大エネルギーがあり、さらに決まったエネルギーの位置には特性X線が現れます。

今回は、X線の最大エネルギーが何によって決まるのか、そしてKα線やKβ線がエネルギースペクトル上でどのように現れるのかを見ていきましょう。

X線の最大エネルギー

X線管から発生するX線には、さまざまなエネルギーのX線が含まれています。
ただし、エネルギーには上限があります。

この上限を最大エネルギーといいます。

最大エネルギーは管電圧で決まる

陰極から飛び出した電子は、陰極と陽極の間にかけられた管電圧によって加速されます。
このとき電子が得る運動エネルギーは、管電圧が高いほど大きくなります。

詳細はA02:放射線物理に必要な物理単位まとめ|速度・圧力・電気など16個を簡単整理で説明しています。

$ E=qV $ でしたね。
qは電子の電荷、Vは管電圧です。
つまり、電子の運動エネルギーEは管電圧で決まります。

加速された電子がターゲットに衝突すると、その運動エネルギーの一部がX線へ変換されます。
もし1個の電子が持つ運動エネルギーのすべてが、1個のX線光子のエネルギーに変換されたとすると、そのX線が持つエネルギーが最大になります。

したがって、X線の最大エネルギーは管電圧によって決まります。

管電圧[kV]と最大エネルギー[keV]の関係

電子が電位差1 Vで加速されたときに得るエネルギーは1 eVです。
そのため、管電圧が1 kVなら電子が得る最大の運動エネルギーは1 keVとなります。

つまり、数値だけを見ると、

管電圧[kV]=X線の最大エネルギー[keV]

という関係になります。

たとえば、管電圧が100 kVであれば、発生するX線の最大エネルギーは100 keVです。
120 kVであれば最大エネルギーは120 keVとなります。

管電圧を高くするとX線の最大エネルギーも高くなるため、エネルギースペクトルは高エネルギー側まで広がっていきます。

特性X線のエネルギースペクトル

X線管から発生するX線のエネルギースペクトルを見ると、
制動X線による連続した分布の中に、鋭く突き出した部分が見られます。
下図のKαやKβの部分です。
この部分が特性X線です。

特性X線は、ターゲット原子の内側の電子が電離したあと、外側の軌道から電子が遷移するときに発生するものでしたね。
お忘れの場合はC02:特性X線の発生原理と種類でご確認ください。
そのエネルギーは電子が遷移する軌道によって決まるため、制動X線のように連続した分布にはなりません。

Kα線とKβ線のエネルギー

K殻にできた空位へ電子が遷移すると、K系列の特性X線が発生します。

L殻からK殻へ電子が遷移するとKα、M殻からK殻へ遷移するとKβが発生します。

Kβ線ではM殻からK殻へ遷移するため、L殻からK殻へ遷移するKα線よりも大きなエネルギー差があります。
したがって、

Kα線のエネルギー < Kβ線のエネルギー

となります。

エネルギースペクトルでは、Kα線が低エネルギー側(グラフでは左側)、Kβ線が高エネルギー側(グラフでは右側)に現れます。

Kα線とKβ線の強度

Kα線とKβ線では、発生する量も同じではありません。

K殻に空位ができたあと、M殻からK殻への遷移よりもL殻からK殻への遷移のほうが起こりやすいため、Kα線のほうが多く発生します。

そのため、エネルギースペクトルに現れるピークの高さは、

Kα線の強度 > Kβ線の強度

となります。

つまり、Kα線はKβ線よりもエネルギーは低いものの、強度は大きいという特徴があります。

もし、特性X線のピークが一つしか示されていない場合、それはKαになります。

L系列の特性X線はろ過される

ターゲットではK系列だけでなく、L殻に空位ができることでL系列の特性X線も発生します。

ただし、L系列の特性X線はK系列よりもエネルギーが低いため、X線管の固有ろ過や付加ろ過によって吸収されやすくなります。
そのため、X線管から外へ出てくるX線では、低エネルギーのL系列の特性X線はほとんど除去されています。

実際のエネルギースペクトルでは、Kα線やKβ線のピークが目立って現れることになります。

管電圧と特性X線の割合

X線管から発生するX線には、制動X線と特性X線が含まれています。
この2つの割合は一定ではなく、管電圧によって変化します。

タングステンターゲットでは、管電圧を高くするほど特性X線の割合が増えていきます。

管電圧が高くなると特性X線の割合が増える

特性X線を発生させるためには、入射電子によってターゲット原子の内殻電子を電離させる必要があります。

管電圧を高くすると、ターゲット原子のK殻電子を電離できる入射電子が増え、K殻に空位が生じやすくなります。
K殻に空位ができると、外側にあるL殻などの電子がK殻へ遷移します。
特にL殻からK殻への遷移は起こりやすく、このときKα線が発生します。

さらに、L殻の電子がK殻へ遷移すると、今度はL殻に空位ができます。
すると、その空位を埋めるためにM殻など、さらに外側の電子が遷移します。

このように、内側の軌道に空位ができると、その空位を埋める電子の遷移が次々と起こります。

つまり、

管電圧が高くなる → K殻電子の電離が起こりやすくなる → K殻の空位が増える → 外側から内側への電子の遷移が次々と起こる → 特性X線が多く発生する

という流れです。

このため、管電圧を高くすると、放出されるX線の中で特性X線が占める割合も増えていきます。

タングステンターゲットにおける特性X線の割合

タングステンターゲットでは、管電圧によって制動X線と特性X線の割合が次のように変化します。

管電圧[kV]制動X線[%]特性X線[%]
809010
1008119
1207624
1507228

※固有フィルタのみの三相12ピーク整流回路の場合の数値です。

管電圧80 kVでは特性X線の割合は10%ですが、150 kVでは28%まで増えています。

ここで大切なのは、細かな数値をすべて覚えることよりも、

管電圧が高くなるほど、特性X線の割合が増える

という傾向を押さえておくことです。

なお、この割合はターゲット材料やX線装置の条件などによって変化します。
表の数値は、タングステンターゲットにおける一例として捉えておきましょう。

実際に出題された過去問を見てみよう

最近、X線管球のエネルギースペクトルの問題は良く見かけます。
2023年2月に実施された第75回AM71を見てみましょう。

X線管から発生したエネルギースペクトルを図に示す。
正しいのはどれか。

  1. 管電圧は100kVである。
  2. 付加フィルタの吸収端が観察される。
  3. K特性X線とL特性X線が観察される。
  4. タングステンターゲットから発生したX線である。
  5. 連続スペクトルより線スペクトルの発生した割合が多い。
答えを確認する。

正解は 4 です。

できましたか?

  1. 管電圧は80kVです。グラフから読み取ります。
  2. エネルギースペクトルのカーブがなだらかなので、付加フィルタの吸収端は確認できません。
    付加フィルタが入ると、フィルタの材質に依存したエネルギーでグラフがガクッと変動します。
  3. L特性X線は観察されません。
    4の説明と前後しますが、タングステンのL殻結合エネルギーは10.9keV程度です。
    この数字は覚えておいた方が良いでしょう。
    グラフでは固有・付加フィルタによってろ過されて、観察されていません。
  4. 特性X線のエネルギーからターゲットの材質はタングステンと判断できます。
    Kα:約59keV、Kβ:70keVです。
  5. グラフから、成分の大半は連続スペクトルの制動放射線であることが読み取れます。

医療現場でのかかわり

診療放射線技師がX線撮影を行うとき、管電圧は画像の見え方や患者さんの被ばくに関わる重要な撮影条件です。

管電圧を高くすると、発生するX線の最大エネルギーが高くなり、X線のエネルギースペクトルも高エネルギー側へ広がります。
その結果、X線は人体を透過しやすくなります。

また、診断用X線では制動X線だけでなく、ターゲットから発生する特性X線も含まれています。
特にタングステンターゲットでは、管電圧が高くなるにつれてK系列の特性X線が発生しやすくなり、X線スペクトルに占める割合も増えていきます。

普段の撮影では管電圧を「何kVに設定するか」に目が向きがちですが、その数字の裏では、X線の最大エネルギーやエネルギー分布そのものが変化していることも意識しておきましょう。

まとめ

今回は、X線の最大エネルギーと特性X線の特徴について見てきました。
最後に、今回のポイントを振り返ってまとめていきましょう。

  • 制動X線の最大エネルギーは管電圧によって決まる
  • 管電圧[kV]とX線の最大エネルギー[keV]は、数値として同じになる
  • Kα線はKβ線よりも低エネルギー側に現れる
  • Kα線はKβ線よりも強度が大きい
  • 特性X線のピークが1つだけ示されている場合は、Kα線と考える
  • 低エネルギーのL系列の特性X線は、固有ろ過や付加ろ過によって吸収される
  • 管電圧が高くなるとK殻電子を電離できる入射電子が増え、K系列の特性X線が発生しやすくなる
  • タングステンターゲットでは、管電圧が高くなるほど特性X線の割合が増える

スペクトルの形だけでなく、どの部分が何を表しているのかまで読めるようにしておこう!!

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次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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