
先生、陽子と中性子って電荷が違うのに、
どうして同じようにくっつけるんですか?

そんなもん、オレとたまのすけみたいなもんやろ。
性格バラバラでも、何やかんや一緒におるやんけ!


ふぉっふぉ。
性格なんぞ違うほうがかえって惹かれ合うもんじゃて。
のぉ、たなまるんとこもカミさんとそうじゃろ?

(うわっ!コッチ飛んできちゃったよ)
はいはい。
実は核力には“荷電独立性”っていう性質があってね。
今日はそこを解説していこう。
原子核の中では、陽子と中性子がぎゅっとまとまっています。
でも陽子は同じ正の電荷を持っているはず。普通ならクーロン力で反発しあってバラバラになりそうなのに、なぜ原子核は崩れないのでしょうか?
この記事では、原子核をまとめる「核力」の正体と、その特徴のひとつである「荷電独立性」についてわかりやすく解説します。
陽子同士、陽子と中性子、中性子同士 ― どんな組み合わせでも同じように働く核力。その性質を図や実際の試験問題を交えて整理していきます。
核力には「強い力」という特別な役割があり、電荷に関係なく核子を結びつける仕組みがあります。この性質を理解することで、原子核が安定する理由や試験で問われるポイントがスッキリと見えてきます。
さっそく解答例
「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A18 の穴埋め解答例と解説です。
先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

核力とは?
4つの力の中の「強い力」
私たちの世界に働く力は、大きく4種類に分けられます。
- 重力
- 電磁気力(クーロン力など)
- 強い力(核力)
- 弱い力
このうち「核力」は、陽子や中性子などの核子どうしを結びつける特別な力です。
「4つの力」を覚えていますか?
忘れてしまった方はコチラで復習を。
原子核の中の話ですから、関係するのは「陽子」と「中性子」ですね。
ときどき軌道電子が原子核の中にあると思い込んでいる方を見かけますが、軌道電子は原子核の周りを周回している電子ですから、原子核の中には存在しませんので、ご注意を。
核子(陽子・中性子)の組み合わせは3通り
核子は、電荷をもつ「陽子」と、電荷をもたない「中性子」の2種類があります。
それぞれの組み合わせは次の3通り:
- 陽子どうし
- 陽子と中性子
- 中性子どうし
そして驚くことに、どの組み合わせでも核力はほぼ同じ強さで働くのです。これが後で学ぶ「荷電独立性」につながっていきます。
陽子と中性子の組み合わせを見てみよう
核子には陽子と中性子があり、組み合わせは3通り考えられます。
ここでは、それぞれの場合に働く力を整理してみましょう。
陽子と陽子の組み合わせ

陽子同士の結合の場合、お互いに引き合う「核力」(図中の白矢印)のほかに離れあおうとする電磁気力の一種である「クーロン斥力」(図中の黒玉矢印)が働きます。
それでも原子核の中でバラバラにならないのは、核力がクーロン斥力を上回るほど強く働くからです。
陽子と中性子の組み合わせ

片方は電荷をもち、もう片方は電荷をもたない組み合わせです。
このときはクーロン力の影響はなく、純粋に核力だけが2つを結びつける役割を果たします。
つまり、陽子と中性子の結合の場合は「核力」のみが働きます。
中性子と中性子の組み合わせ

中性子は電荷をもたないため、クーロン力は働きません。
しかし核力はしっかり作用し、中性子どうしでも強く引き寄せ合うことができます。
つまり、中性子同士の結合の場合も「核力」のみが働きます。
荷電独立性とは?
どの組み合わせでも核力の強さは同じ
陽子どうし、陽子と中性子、中性子どうし――。
電荷の有無や組み合わせが違っても、核力の強さはほぼ同じです。
この「電荷に依存しない性質」を 荷電独立性(charge independence) と呼びます。
つまり核力は「陽子だから強い/中性子だから弱い」といった区別をせず、平等に働いているのです。
クーロン力とのちがいに注意
ここで混同しやすいのがクーロン力です。
クーロン力は電荷が同じなら反発し、異なれば引き合うというように、電荷に依存して変化する力です。
一方で核力は、電荷を気にせず核子を結びつける力。
この違いをしっかりと整理しておけば、試験問題でも迷わうことも少なくなります。

クーロン力は電荷に依存するけど、核力は電荷に依存せずに独立しているんだよ。
核力の有効範囲
近づけば強く、離れれば急激に弱まる
核力は「強い力」と呼ばれますが、無限に働くわけではありません。
実際には ごく近い距離(およそ1フェムトメートル=10⁻¹⁵m程度)で強く作用し、離れると急激に弱まる のが特徴です。
つまり、核子どうしが十分近づいたときだけ強い結びつきが生まれるのです。
有効範囲を超えると「ゼロ」になる

核力には有効範囲があります。
その特徴も少し変わっています。
クーロン力であれば、近ければ強く、離れれば弱くなります。
X線の線量も同様です。
距離の逆二乗則でしたね。
核力の場合は、大げさな図で示したように、近いとそんなに強く働きません。
遠いほうが強く働きます。
この時点でクーロン力などとは逆の性質を持っています。
さらに、核力には有効範囲が設定されています。
有効範囲を超えてしまうと、途端に「0」になってしまいます。
つまり、「核力は有効範囲内では離れるほど強くなり、有効範囲を超えるとゼロになる。」という特徴があります。
このように核力が核子をまとめると、その結合のエネルギーが質量の減少として現れます。これを質量欠損と呼び、核力の存在を裏づける大切な現象です。(詳しくはA15の記事で解説します)
実際の問題を見ていきましょう。

ちょっと古い問題ですが、いかがでしょうか?
解答を確認する。
答えは 4 です。
解説
クーロン力とは異なる性質の力でしたね。
有効範囲の有無などを考えてもらうと、違う性質であることが分かるかと思います。
また、クーロン力は電荷に依存し、核力は電荷に依存せず独立していましたね。
医療現場でこの知識がどう役立つの?
現場では関係ないと思いきや、核力や荷電独立性の性質は、放射線治療の分野に関係があります。
たとえば 陽子線治療や重粒子線治療 では、原子核の中に閉じ込められた陽子や中性子を取り出して高速で飛ばし、がん細胞を狙って照射します。
このとき核子が安定して存在できるのは、まさに 核力が陽子・中性子を強く結びつけているから です。
また、荷電独立性によって陽子や中性子が区別なくまとまるため、原子核は安定し、その安定性を利用して高エネルギーの粒子線を医療に応用することができます。
つまり、核力の性質を理解することは、「なぜ粒子線治療が成り立つのか」 を物理学的に裏づけることにもつながるのです。
直接的に核力や荷電独立性を意識して仕事をすることはありませんけどね。
まとめ
- 核力は、陽子や中性子を原子核の中で結びつける「強い力」。
- 組み合わせに関係なく同じ強さで働く性質を 荷電独立性 という。
- 有効範囲は約1 fmと非常に短く、範囲を超えるとほとんど作用しない。
- クーロン力との違いを押さえておくことが、試験対策でも重要。

核力って、原子核を形づくるための“見えないのり”みたいなものなんだよ。
荷電独立性までしっかり理解しておけば、国家試験は安心です。
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核力の短距離での性質をやさしく説明
高エネルギー加速器研究機構(KEK)のプレスリリース「クォーク間の『芯』をとらえた —物質が安定して存在できる理由」
https://www.kek.jp/ja/press/2022090500?utm_source=chatgpt.com
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