ご存知の通り、原子核の中には陽子と中性子がギュッと詰まっています。
その中の陽子はすべて同じ正の電荷を持っています。
普通ならクーロン力で反発しあってバラバラになりそうなのに、なぜ原子核は崩れないのでしょうか?
この記事では、原子核をまとめる「核力」の正体と、その特徴のひとつである「荷電独立性」についてわかりやすく解説します。
陽子同士、陽子と中性子、中性子同士 ― どんな組み合わせでも同じように働く核力。
その性質を図や実際の試験問題を交えて整理していきます。
核力には「強い力」という特別な役割があり、電荷に関係なく核子を結びつける仕組みがあります。
この性質を理解することで、原子核が安定する理由や試験で問われるポイントがスッキリと見えてきます。
核力とは?
原子核の中では、陽子と中性子が非常に強く結びついています。
その結びつきを生み出しているのが「核力」と呼ばれる力です。
4つの力の中の「強い力」
私たちの世界に働く力は、大きく4種類に分けられます。
- 重力
- 電磁気力(クーロン力など)
- 強い力(核力)
- 弱い力
このうち「核力」は、陽子や中性子などの核子どうしを結びつける特別な力です。
「4つの力」を覚えていますか?
忘れてしまった方は4つの力:強い力・弱い力・電磁気力・重力って何?自然界の4つの力まとめで復習を。

原子核の中の話ですから、関係するのは「陽子」と「中性子」ですね。
ときどき軌道電子が原子核の中にあると思い込んでいる方を見かけますが、軌道電子はたまたま原子核の中に存在するタイミングはあっても、常駐している訳ではありませんのでご注意を。
核子(陽子・中性子)の組み合わせは3通り
核子は、電荷をもつ「陽子」と、電荷をもたない「中性子」の2種類があります。
それぞれの組み合わせは次の3通り:
- 陽子どうし
- 陽子と中性子
- 中性子どうし
そして驚くことに、どの組み合わせでも核力はほぼ同じ強さで働くのです。これが後で学ぶ「荷電独立性」につながっていきます。
陽子と中性子の組み合わせを見てみよう
核子には陽子と中性子があり、組み合わせは3通り考えられます。
ここでは、それぞれの場合に働く力を整理してみましょう。
陽子と陽子の組み合わせ

陽子同士の結合の場合、お互いに引き合う「核力」(図中の白矢印)のほかに離れあおうとする電磁気力の一種である「クーロン斥力」(図中の黒玉矢印)が働きます。
それでも原子核の中でバラバラにならないのは、核力がクーロン斥力を上回るほど強く働くからです。
陽子と中性子の組み合わせ

片方は電荷をもち、もう片方は電荷をもたない組み合わせです。
このときはクーロン力の影響はなく、純粋に核力だけが2つを結びつける役割を果たします。
つまり、陽子と中性子の結合の場合は「核力」のみが働きます。
中性子と中性子の組み合わせ

中性子は電荷をもたないため、クーロン力は働きません。
しかし核力はしっかり作用し、中性子どうしでも強く引き寄せ合うことができます。
つまり、中性子同士の結合の場合も「核力」のみが働きます。
荷電独立性とは?
核子間には、どんな組み合わせでも結合するために核力が働いていました。
次はその核力の大きさを見ていきましょう。
どの組み合わせでも核力の強さは同じ
陽子どうし、陽子と中性子、中性子どうし――。
電荷の有無や組み合わせが違っても、核力の強さはほぼ同じです。
この「電荷に依存しない性質」を 荷電独立性(charge independence) と呼びます。
つまり核力は「陽子だから強い/中性子だから弱い」といった区別をせず、平等に働いているのです。
クーロン力とのちがいに注意
ここで混同しやすいのがクーロン力です。
クーロン力は電荷が同じなら反発し、異なれば引き合うというように、電荷に依存して変化する力です。
一方で核力は、電荷を気にせず核子を結びつける力。
この違いをしっかりと整理しておけば、試験問題でも迷わうことも少なくなります。
核力の有効範囲
核力はとても強い力ですが、どこまでも働くわけではありません。
また、核子どうしの距離によって、力の向きや強さも変化します。
ここでは、核力がどのように働くのかを見ていきましょう。

ここは要注意部分です。
物理的に正確な表記と国試で採用される表記とを分けて説明しますね。
実は核力は距離によって引力にも斥力にもなる
核力は、陽子や中性子を結びつける力ですが、核子どうしが近づけば近づくほど強く引き合うわけではありません。
実は、核力は核子間距離によって複雑に変化するという特徴があります。
核子どうしが非常に近づくと、互いに押し返す「斥力」として働きます。
一方、適度な距離では、核子どうしを引き寄せる「引力」として働きます。

分かんで!人間関係と一緒や!
近すぎると仲悪くなるんや。
離れると他人や!
うまくやるには適度な距離感っちゅうもんが大事なんや!

意外と的を得てるな。
つまり、核力には距離によって引力と斥力の両方が現れるという特徴があるのです。
引力的核力と斥力的核力とでも言いましょうか・・・
そんなイメージですね。

いまのところ、国試では核力は引力としてしか扱われていないよ。
紛らわしいのが嫌な場合は、核力は「引き合う引力」とだけ覚えていいよ。
なお、この斥力的核力は陽子どうしに働くクーロン力とは別のものです。
電荷をもたない中性子どうしにも、核力による斥力は働きます。
核力はごく短い距離でしか働かない
核力は、非常に近い距離の核子間のみに働く「短距離力」です。
その働き方を模式図で確認してみましょう。

この図は、横軸が核子間距離、縦軸が核力を表しています。
縦軸のゼロより上が引力、下が斥力です。
核子どうしが非常に近い距離では強い斥力が働き、少し離れると引力に変わります。
さらに距離が大きくなると、引力は急激に弱まり、ほとんどゼロになります。
核力が働く距離は、およそ1 fm(フェムトメートル)程度という非常に短い範囲です。
クーロン力が遠く離れた電荷の間にも働くのに対し、核力はごく近い核子間でしか強く働きません。
なお、この図は核力の向きと強さをイメージするための模式図です。
実際の核力の働き方は核子の状態によって異なりますが、まずは「近距離では斥力、適度な距離では引力、遠距離ではほとんど働かない」という特徴を覚えておきましょう。

複雑なんやな~。

そうなんだ。
核力は、核子どうしが近すぎると斥力として働くけど、適度に離れると引力として働くんだね。
でも、国試では核力を核子どうしを結びつける引力として考えることが大切だよ。
まずは「核力は非常に短い距離で働く強い引力」という特徴を覚えておこう!
ちょっと難解な方向に行ってしまいましたね。
国試対策として、上図の「引力が最大になるまでの距離」を核力が作用する距離に注目すると、「核子間距離が離れるほど核力は強くなる」という解釈になります。
ただ、物理的には、さらに離れても核力の作用が無くなる訳ではありませんので、「核子間距離によって複雑に変化する」とするのが正しいです。

よう分からんなったで。

ではこうしよう。
国試では
・核力は引き合う力。
・作用区間内では離れるほど強い。
正確な物理表現は
・核力には引力と斥力がある。
・作用区間内では距離によって複雑に大きさと向きを変える。
このように、核力によって核子が結びつくと、原子核はバラバラの核子よりもエネルギーの低い状態になります。
このエネルギーの差が「結合エネルギー」です。
また、エネルギーと質量には関係があるため、結合した原子核の質量は、結合前の核子の質量の合計よりも小さくなります。
この質量の差を「質量欠損」と呼びます。
(詳しくはA15:原子核の結合エネルギーと質量欠損の記事で解説しています)

核力はどう生まれる?中間子と交換力の話
さらに、核力にはもう一つ重要な視点があります。
それは、核子同士が 中間子 をやり取りすることで結びつく、という仕組みです。
この「中間子の交換」によって力が生じるため、核力は交換力と呼ばれることがあります。
より深いレベルでは、中間子の内部に含まれる グルーオン という粒子が、核子どうしの結びつきを媒介しています。
このような核力の成り立ちを最初に理論的に示したのが 湯川秀樹博士 で、博士はこの研究により日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞しました。

実際の問題を見ていきましょう。
ちょっと古い問題ですが、いかがでしょうか?
第57回 2005年 PM41
核力について誤っているのはどれか。
- 陽子を中性子に変える。
- 中性子間でも働く力である。
- 電子の質量欠損と関連がある。
- クーロン力と同じ性質の力である。
- 核子の種類にかかわらす荷電独立性がある。
解答を確認する。
答えは 4 です。
クーロン力とは異なる性質の力でしたね。
有効範囲の有無などを考えてもらうと、違う性質であることが分かるかと思います。
また、クーロン力は電荷に依存し、核力は電荷に依存せず独立していましたね。
医療現場でこの知識がどう役立つの?
現場では関係ないと思いきや、核力や荷電独立性の性質は、放射線治療の分野に関係があります。
たとえば 陽子線治療や重粒子線治療 では、原子核の中に閉じ込められた陽子や中性子を取り出して高速で飛ばし、がん細胞を狙って照射します。
このとき核子が安定して存在できるのは、まさに 核力が陽子・中性子を強く結びつけているから です。
また、荷電独立性によって陽子や中性子が区別なくまとまるため、原子核は安定し、その安定性を利用して高エネルギーの粒子線を医療に応用することができます。
つまり、核力の性質を理解することは、「なぜ粒子線治療が成り立つのか」 を物理学的に裏づけることにもつながるのです。
直接的に核力や荷電独立性を意識して仕事をすることはありませんけどね。
まとめ
今回は、原子核を支える「核力」と、その重要な性質である「荷電独立性」について学びました。
核力は核子どうしを結びつける力ですが、核子間距離によって複雑に変化するという特徴もありましたね。
それでは、今回のポイントを振り返っておきましょう。
- 核力は、陽子や中性子(核子)どうしを結びつける非常に強い力である。
- 核力は陽子どうし、陽子と中性子、中性子どうしのいずれにもほぼ同じ強さで働く。この性質を「荷電独立性」という。
- 核力を正確な物理表現で表すと「核子間距離によって複雑に変化し、非常に近い距離では斥力、適度な距離では引力として働く。」
- 核力を国試に特化した表現で表すと「有効区間内では、核力は引力であり、核子間距離が離れるほど強くなる。」
- 核力は非常に短い距離でしか働かず、核子間距離が大きくなると急激に弱まる。
- 核力によって核子が結びつくと結合エネルギーが生じ、そのエネルギーに対応する質量の差が「質量欠損」となる。

核力は、ただ強く引っ張るだけの力じゃないんだね。
でも国試では引力的な側面だけが問われるね。
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有



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