Home » ワークブック解答 » A10 光速に近づくとエネルギーはどうなる?ローレンツ因子で計算しよう!

オレ、いま宇宙船乗っててんけどな、どんどんスピード上げたら、
なんか…エネルギーがめちゃくちゃ増えてきてん。体感的に!

牛助
牛助

体感で相対論的エネルギーを語らないで下さいよ…。
それ、ローレンツ因子ってやつが関係してるんじゃないですか?

たまのすけ
たまのすけ
たなまる
たなまる

そうだね。
光速に近づくほど、エネルギーは異常に増えるんだ。
普通の『E=mc²』だけじゃ追いつかないんだよね。

はぁ!? なんでやねん。
オレ、ちゃんとE=mc²のTシャツ着てたのに…!

牛助
牛助
たなまる
たなまる

物理法則はファッションじゃ変わらないからね。
それじゃ、今回は“ローレンツ因子を使ったエネルギーの計算”をやさしく解説していくよ!

こんにちは。たなまるです。

学生から稀にもらう質問でこんなのがあります。

「E=mc²でエネルギーが出せるって話は知ってるけど、光速に近づくとエネルギーが異常に増えるってどういうこと?」
そう、「普通に増える」のではなく、「異常に増える」のです。

この記事では、ローレンツ因子(γ)を使ったエネルギーの計算方法を、基礎から丁寧に解説します。

式の意味や使い方をわかりやすく整理しながら、実際に数値を使って「どれくらいエネルギーが増えるのか」体感できるような計算も紹介します。

国家試験では「ローレンツ因子を使ったエネルギー計算」がよく問われますし、放射線治療など医療現場でも相対論的な考え方が役立ちます。
しっかり理解して、確実に得点できるようにしていきましょう!

これまで600人以上の学生を診療放射線技師へと導いた経験から、わかりやすくお伝えしていきます。

さっそく解答例

 「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A10 の穴埋め解答例と解説です。
 先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A10 の穴埋め解答例と解説です。ローレンツ因子の計算問題が解けるようになります。

解説

いきなり問題を解く前にまずはかるーくローレンツ因子を思い出してから計算問題にトライしていきましょう。

ローレンツ因子って、どう使うの?

ローレンツ因子(γ)の意味や成り立ちについては、前の記事(A08A09)で詳しく紹介しました。
ここでは、計算に必要な最低限のポイントだけ簡単におさらいしておきましょう。

ローレンツ因子の式はこれ!

ローレンツ因子(γ)の式「γ = 1 / √(1 - (v/c)²)」。ここで、vは物体の速度、cは光速を表す。
  • v:物体の速度
  • c:光の速度(約3.0 × 10⁸ m/s)

この式を見ると分かるように、v が c に近づくほど分母が小さくなり、γ が大きくなっていきます。

つまりどうなる?

 速度が遅いとき(v ≪ c)→ γ ≒ 1(ほぼ影響なし)

 速度が速いとき(v → c)→ γ は急激に増大!

この「γ の増大」が、エネルギーが異常に増える正体なのです。
だから「E = mc² だけでは足りない」って話になるんですね。

ローレンツ因子を用いた計算問題は出題傾向は高くないものの、コンスタントに見かける問題です。
ポイントは、国試でローレンツ因子を使うシチュエーションは、電子を扱ったときだけということ。

相対論領域の速度で運動する電子はローレンツ因子を用いて考えなければなりません。

次はこのローレンツ因子を使って、実際にエネルギーの値を計算してみましょう!

ローレンツ因子を使ったエネルギーの式

なんかちょっと難しそうな予感がします・・・

たまのすけ
たまのすけ
たなまる
たなまる

大丈夫。
ひとつずつおさえていこう。
それに出題はパターン化してるから、流れをしっかり覚えれば怖くないよ。

相対論的なエネルギーの式はこれ!

相対論的エネルギーの式「E = γmc² = mc² / √(1 - (v/c)²)」。ここで、γはローレンツ因子、mは質量、vは速度、cは光速を表す。

E:相対論的なエネルギー(=速さの影響を含めたエネルギー)
m:静止質量
c:光の速度
γ:ローレンツ因子(速度によって変わる)
v:粒子の速度

「E = mc²」は γ = 1 のときだけ!

ローレンツ因子 γ が 1 のとき、つまり 物体が止まっているときに限って
  E=mc2
 になります。

でも物体が光速に近づいて動いているときは、γ > 1 なので
  E=γmc2
 になるというわけです!

どんなときに差が出る?

速度が遅いとき(たとえば 1000 m/s)は、γ ≒ 1なのでほぼ差は出ません。

速度が光速の90%、99%、99.9%…となっていくと、γ はどんどん大きくなり、
 E は mc² をはるかに超える値になります!

たなまる
たなまる

速度が速ければ速いほど、差が付いてくるということですね。

試験に出る!ローレンツ因子を使った計算の解き方

光速の80%(v = 0.8c)のとき

ワタクシたなまるの講義では、このパターンで練習していただいてます。
その理由は・・・

たなまる
たなまる

手計算でもスッキリした値になるから。

へぇ~。意外と考えてるんやな。

牛助
牛助
たなまる
たなまる

失礼な。

とまぁ、冗談はさておき、出題傾向があるからってのが最大の理由です。

さっそく見ていきましょう。
問題文はこんな感じ。

光速の80%の速度で運動する電子の総エネルギーは質量エネルギーの何倍か求めなさい。

結局のところ、ローレンツ因子を計算すれば良いだけです。

ローレンツ因子 γ の導出計算。速度 v が光速 c の80%(v = 0.8c)のとき、エネルギーと静止質量エネルギーの比 E/mc² を計算する過程を示す: E / (mc²) = γ = 1 / √(1 - (v/c)²) = 1 / √(1 - (0.8c/c)²) = 1 / √(1 - 0.64) = 1 / √0.36 = 1 / 0.6 = 1.67

つまり、E=γmc2≒1.67mc2

エネルギーが1.67倍になっていることが分かります。

光速の60%(v = 0.6c)のとき

こちらも国家試験での出題が見られるケース。
理由はやっぱり、手計算しやすいからですね。

ローレンツ因子 γ の導出計算。速度 v が光速 c の60%(v = 0.6c)のとき、E / mc² を計算する過程: E / (mc²) = γ = 1 / √(1 - (v/c)²) = 1 / √(1 - (0.6c/c)²) = 1 / √(1 - 0.36) = 1 / √0.64 = 1 / 0.8 = 1.25

エネルギーは1.25倍になるってことですね。

このように、「速くなるほどエネルギーが増える」ことがローレンツ因子 γ を用いることで計算できます。
後ほど、国家試験で実際にどう出題されているのかを確認していきましょう。

国家試験でここが狙われる!

ローレンツ因子を用いた計算問題には何種類かのパターンがありますが、
すべて電子の運動に関する出題です。

したがって、電子の速度が登場したら

もしかしてローレンツ因子を使うかも?

と疑ってみてください。

たいていの場合、電子の運動速度が「○×10⁸ m/s」として明示されています。
その速度が真空中の光速(3.0×10⁸ m/s)に対してどれくらいの割合か?
つまり「何%の速さなのか?」を見抜けるかがポイントです。

その比率が光速の60%や80%であれば、
ローレンツ因子を使ってエネルギーを求める問題である可能性が高くなります。

放射線技師の国家試験では、答えが綺麗な数字になるように調整されていることが多く、
実際には光速の60%(v = 0.6c)や80%(v = 0.8c)といった値がよく使われています。
これらの速度ではローレンツ因子の値(γ)が小数第1位までの計算で済むため、
手計算での処理がしやすく、受験者にとっても親切な設定です。

ただし、主任技師試験ではあえてキレイに割り切れない数値を出してくることもあります。
その場合、計算結果が自分の出した値とピタリと一致しないこともありますが、
焦らず近い値を選べばOKです。

試験問題における計算のしやすさは「運」にも左右されます。
できれば光速の60%とか80%のような優しい数字が出ることを祈りつつ、
どんな速度でもローレンツ因子が使えるように練習しておきましょう!

実際の問題を見ていきましょう。

少し古いですが、2000年(第52回)に出題された問題15をご紹介します。 

問題 15. 速さが1.8×108m/sの電子の運動エネルギーは電子静止質量の何倍か。
1. 0.25
2. 0.5
3. 0.75
4. 1
5. 1.25

いかがでしょうか?

解答を確認する。

答えは 5 です。

解説

やはり、ローレンツ因子を使う問題は毎年多くの学生さんから質問をもらいます。
純粋に内容を質問してくれることもありますし、「このジャンル、捨ててもいいですか?」なんて問われることもあります。

やり方さえ覚えてしまえば難しくないので、「捨てて」しまうのはもったいない気がします。

これ系の問題を見ると蕁麻疹が・・・と言うなら仕方ありませんけどね。

さて、気を取り直して。

ここでのポイントは「与えられた電子の速度が真空中の光速度の何%に相当するか」が分かるかどうかです。

今回は1.8×108m/sとありますので、真空中の光速度3.0×108m/sの60%であることが簡単に判明します。

あとの計算過程は、本編解説と同じです。
▶ 本編の「v = 0.6c」の計算過程を見たい方はこちら
→ 計算過程にジャンプ

医療現場でこの知識がどう役立つの?

国試で扱うのは“電子”だけ。でも、実際は…

ローレンツ因子を使ったエネルギー計算は、国家試験では電子に限って出題されます
これは、試験範囲として「相対論領域に達するのは電子だけ」と教科書的に決まっているからです。

しかし実際の医療現場、とくに放射線治療の分野(陽子線や重粒子線など)では、電子以外の粒子でもローレンツ因子を使った計算が日常的に行われています

粒子のエネルギーと速度の関係を扱う上で、ローレンツ因子は欠かせない

陽子線治療では、陽子が光速の60〜70%ほどに達することもあります。
このような相対論的速度域では、古典的な運動エネルギーの式(½mv²)が通用しなくなるため、ローレンツ因子を使って正確にエネルギーや運動量を算出する必要があります

これは、治療計画の精度に直結する重要なポイント
患者に与える線量や到達深度(ブラッグピーク)を正確にコントロールするためにも、ローレンツ因子を使ったモデルが必要不可欠なのです。

計算はコンピュータ。でも理屈は技師の頭に

もちろん、これらの計算は治療計画装置(TPS)が自動でやってくれます。
ただし、理屈を理解していなければ、エラーや異常値の意味に気づけません

だからこそ、相対論のエネルギー計算は、「実務では不要」ではなく「頭に入れておくべき知識」なのです。

まとめ

たなまる
たなまる

ローレンツ因子を使えば、速い電子のエネルギーがどれだけ増えるか計算できるってこと、わかったかな?

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電爺
電爺

ほれ、今回の計算がちとむずかしかったと思うたら、こっちも見ておくとええぞい。

ローレンツ因子ってなんじゃ?という話は、こっちで土台から学べるぞい。

エネルギーや運動量の式が出てきてビビったやつは、こっちでいっぺん復習してみるとええ。

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たまのすけ
たまのすけ

こんにちは、たまのすけです!
ローレンツ因子のこと、もっと深く知りたくなった君へ。
僕が厳選した「やさしくて、信頼できて、面白い」リンクを紹介するよ!

KEK(高エネルギー加速器研究機構)|加速器って
 → 光速に近づくって、実際どういうこと?加速器の中でローレンツ因子が活躍しているよ!

放射線医学総合研究所(QST)|放射線治療の基礎知識
 → 医療現場でローレンツ因子がどう使われているか、リアルな視点で学べるんだ!

By たなまる

1984年生まれの放射線技師です。 放射線技師養成校で核医学・物理・電気の講義を担当しています。 放射線技師の割に、不思議なことに現場科目より基礎科目の方を多く持っています。そのせいか、学生からは技師じゃないと思われている節があります。 専門知識よりは、学生が理解しやすい表現を心がけています。

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