A21 軌道電子のエネルギー準位とは?結合エネルギーとの違いをやさしく解説

ワークブック解答

オレのエネルギー準位、マイナスやったで!
これもう借金まみれってことか!?

牛助
牛助

えっ!? マイナスって借金みたいなもんなんですか?

たまのすけ
たまのすけ

せや!もう牛車ローンも払えへんで!

牛助
牛助
たなまる
たなまる

いやいや、マイナスは“束縛されてる”って意味なんだ。
電子が原子核にくっついて離れられない状態のことを言うんだよ。

「エネルギー準位ってマイナスになるんだって……え、どういう意味?」
「結合エネルギーとどう違うのか、イマイチはっきりしない」
授業やワークを進めていると、こんなモヤモヤを感じる人は多いはずです。

この記事では、その2つをスッキリ整理してみます。
井戸のイメージや水素原子の数値を例にしながら、

  • どうして準位はマイナスで表されるのか
  • 結合エネルギーとどう関係しているのか
    を順番にたどっていきましょう。

ここが分かると、「電子はなぜ原子核に縛られているのか」がイメージしやすくなります。
医療放射線の勉強でも役立つところなので、一緒に確認していきましょう。

さっそく解答例

 「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A21 の穴埋め解答例と解説です。
 先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

ワークブックA21 軌道電子のエネルギー準位と結合エネルギーの解答例

解説

軌道電子のエネルギー準位と結合エネルギーの間には、それはそれは深い関係性があります。

エネルギー準位とは?

電子はなぜマイナスの値になるのか

エネルギーのグラフを見て、「マイナスってどういうこと?」と感じる人は多いと思います。
でも、これは「電子が原子核に縛られている」ことを表しているだけなんです。

原子核や原子(軌道電子)は量子力学的に離散的な値しかとることができません。
そのエネルギー値をエネルギー準位といいます。

自由な電子は、エネルギーを 0 eV として基準にします。そこから見て、原子の中にとどまっている電子は「外へ飛び出すのにエネルギーが足りない」状態。だから値がマイナスで表されます。

たとえば、深い井戸の底にいるようなものです。地面(0 eV)より下にいるから、プラスのエネルギーを加えないと外には出られません。
この「井戸の底にいる=マイナスの値」という考え方が、エネルギー準位の基本なんです。

自由電子とのちがい

「束縛されていない電子」――これを自由電子と呼びます。
エネルギーを基準に考えると、自由電子は 0 eV ちょうどに置かれます。

一方、原子の中にいる電子はマイナスの値。つまり、外の世界に出るには追加のエネルギーをもらわないといけない立場です。

自由電子と束縛された電子を比べると、

  • 自由電子:好きに動き回れる状態(エネルギー 0 eV)
  • 束縛された電子:原子核にくっついていて抜け出せない状態(エネルギーはマイナス)

という違いになります。

要するに、エネルギー準位がマイナスかゼロかで「つかまっているのか、自由なのか」が決まるわけです。

蟻地獄モデルでイメージしてみよう

エネルギー準位をイメージするには蟻地獄を想像してみてください。

ネルギー準位のイメージ図

エネルギー準位を目に見える形で考えるときに便利なのが、「蟻地獄」のイメージです。

アリジゴク(原子核)に近いアリ(電子)ほど逃げ場がなく束縛されています。
これは自由度の低い状況。

それに対して、アリジゴク(原子核)に遠いアリ(電子)ほど束縛は緩やかです。
これが自由度の高い状況。

そして、蟻地獄に陥っていないアリは全く束縛されず、自由気ままに行動できます。
電子も原子核に束縛されていない自由電子は自由に動き回ることができます。

つまり、エネルギー準位とは、電子の自由度を示したものと捉えると分かりやすいかと思います。

その自由電子の自由度を 0 とします。
自由電子は原子核からの束縛を受けていませんから、自由度0です。
そして、エネルギー準位も 0 とします。

次いで、K殻の軌道電子の自由度を考えます。
自由電子が最も自由で、その自由度を0としましたから、K殻の自由度はマイナスの概念になります。
当然、エネルギー準位もマイナスの概念となります。


水素原子の場合、K殻軌道電子の自由度は -13.6eV です。
したがって、エネルギー準位も -13.6eV となります。

結合エネルギーとは?

束縛の強さを表すエネルギー

結合エネルギーとは、その名のとおり「どれだけ強く原子核に結びつけられているか」を数字で表したものです。

電子が原子から飛び出すには、外の世界(0 eV)に届くまでエネルギーをもらわなければなりません。
つまり結合エネルギーとは、「電子を引きはがすのに必要なエネルギー」と言い換えられます。

  • K殻の電子 → 原子核にいちばん近く、強く引き寄せられている → 結合エネルギーが大きい
  • 外側の電子 → 引きつけは弱い → 結合エネルギーは小さい

この関係をイメージすると、エネルギー準位が深くマイナスになっているほど、結合エネルギーが大きいと分かります。

エネルギー準位との関係

エネルギー準位と結合エネルギーは、実はコインの表と裏のような関係です。

  • エネルギー準位は「電子が今どこにいるか」を示す目印。値はマイナスで表されます。
  • 結合エネルギーは「そこから外に出るのに必要な力」のこと。プラスの値で表されます。

たとえば、ある電子の準位が –50 eV なら、その電子を自由にするには +50 eV の結合エネルギーが必要、ということです。

要するに、

「マイナスの深さ」=「抜け出すためのエネルギーの大きさ」

という対応関係になっています。

こう整理すると、マイナスとプラスがごっちゃになっていたモヤモヤがスッキリしてくるはずです。

水素原子を例に考えてみる

一番シンプルな原子である水素を使うと、エネルギー準位と結合エネルギーの関係がよく見えてきます。

水素原子の電子は、原子核(陽子)に一つだけ束縛されています。
この電子の基底状態(K殻)のエネルギー準位は –13.6 eV

つまり、

  • エネルギー準位:–13.6 eV
  • 結合エネルギー:+13.6 eV

となります。

この数字は「電子を外に飛び出させるために、13.6 eV 分のエネルギーを与えなければならない」という意味です。
もし外から光子などが 13.6 eV 以上のエネルギーを与えれば、電子は自由になり、エネルギー0 eVの世界(自由電子)に移ることができます。

このシンプルな例を頭に入れておくと、もっと複雑な多電子原子を学ぶときも理解しやすくなります。

水素原子で考えてみると・・・

水素原子でエネルギー準位と結合エネルギーを考えてみましょう。

K殻に軌道電子がある場合、
エネルギー準位は -13.6eV となり、
結合エネルギーは 13.6eV になります。

L殻に軌道電子がある場合は、
エネルギー準位が -3.4eV となり、
結合エネルギーが 3.4eV になります。

エネルギー準位と結合エネルギーの整理

2つの視点のちがいを表にまとめる

ここまでの話を整理すると、エネルギー準位と結合エネルギーは「同じ現象を別の角度から見ている」ことがわかります。

視点値の表し方意味例(水素の基底状態)
エネルギー準位マイナスで表す電子が井戸の底にいることを示す–13.6 eV
結合エネルギープラスで表す井戸の底から外に出すのに必要なエネルギー+13.6 eV

言いかえると、

  • エネルギー準位:電子が“どこにいるか”の位置情報
  • 結合エネルギー:そこから“抜け出すのに必要なエネルギー”

この対応さえ押さえておけば、「マイナスとプラスがごちゃごちゃになる問題」はほとんど解消できます。

実際の問題を見ていきましょう。

解答を確認する。

正解は 1と4 です。

これまた、エネルギー準位と結合エネルギーに特化した出題はありませんでした。
「エネルギー準位」は原子核のものを問われるケースの方が多いようでした。

  1. 正しい。制動X線は入射電子が連続的に減速されることで発生するため、X線のエネルギーは連続分布をとります。
  2. 誤り。制動X線の発生効率は 原子番号 Z² に比例 します。密度とは直接関係ありません。
  3. 誤り。電子のエネルギーが高いほど発生効率も上がります。反比例ではなく、むしろ正比例的な関係です。
  4. 正しい。制動X線は原子核の正電荷によって入射電子が曲げられ、減速されるときに発生します。
  5. 誤り。最大エネルギーは「入射電子の運動エネルギー」によって決まります。軌道電子の準位は関係なく、これは特性X線の話。

医療現場でこの知識はどう役立つの?

エネルギー準位や結合エネルギーの話は、教科書の中だけでは終わりません。
医療の現場では、実際に撮影や治療の線質を考えるときに深く関わってきます。

たとえば X線撮影やCT

  • X線管のターゲット物質(タングステンなど)の結合エネルギーに応じて、特性X線が発生します。
  • 同時に、電子が原子核のクーロン場で減速されることで 制動X線が生じます。

このとき「最大エネルギーは電子の運動エネルギー依存」「特性X線は電子の結合エネルギー依存」という区別を理解しておくと、スペクトルの成り立ちを正しくイメージできます。

特性X線はマンモグラフィでとても大切な成分ですから、結合エネルギーとの関りも強い検査といえますね。

さらに、X線吸収端の知識は被写体側にも役立ちます。
造影剤にヨードやバリウムを使う理由は、それぞれの元素のK殻結合エネルギーに近いエネルギーのX線がよく吸収されるから。
結合エネルギーの理解が、そのまま撮影の画質やコントラスト改善に直結するんです。

つまり、エネルギー準位や結合エネルギーを学ぶことは、ただの数式暗記ではなく、実際に臨床で使う「線」をどう選び、どう使うかにつながっていきます。

まとめ

今回のポイントを整理すると:

  • エネルギー準位は マイナスで表され、電子が束縛されている深さを示す。
  • 結合エネルギーは プラスで表され、電子を外に飛び出させるのに必要なエネルギーを意味する。
  • 2つは表裏一体で、「準位の深さ=抜け出すためのエネルギー」として対応している。
  • 医療放射線では、制動X線や特性X線、さらには吸収端の理解に直結する。
たなまる
たなまる

マイナスとかプラスとかで混乱しやすいけど、“どこにいるか”がエネルギー準位、“どれだけ出すか”が結合エネルギー。
この整理さえできれば、国試問題もスッキリ解けるようになる。

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電爺
電爺

ほれ、ここまで読んだんなら、次はこのあたりを見ておくとえぇぞい。

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