
先生!相対論の運動量とかエネルギーの式って、
覚えるのも使うのも大変なんですけど……!

オレはエネルギーを体感して覚えとるで!
さっき階段ダッシュして、相対論的質量3倍や!

それただの疲労です……。
運動量もゼロに見えますけど……。


というわけで今回は、光速に近づく世界=相対論領域での運動量とエネルギーの基本を、丁寧に整理していきましょう。
「運動量って mv じゃないの?」
「E = mc² しか知らないけど、それじゃダメなの?」
そんな疑問を感じたことがある人、実は多いと思います。
この記事を読めば、「相対論的な世界」での運動量やエネルギーの考え方が整理され、
なぜ式が変わるのか・どんなときに使うのかがスッキリわかるようになります。
まずは「相対論領域」とはどんな世界かをイメージし、
次にその世界での運動量・エネルギーの式を確認します。
最後に、それがド・ブロイ波や粒子の二重性とどう関係してくるのかを見ていきます。
実は、相対論的なエネルギー式や運動量の関係式をもとにすると、粒子が「波」として振る舞う性質も自然に導かれるんです。
つまり、ド・ブロイ波も相対論的な考え方と切っても切れない深い関係にあります。
医療現場では、X線や電子線といった高速粒子を扱う機会が多く、
その理解には「相対論的な運動量・エネルギー」の考え方が不可欠です。
また、国家試験でも頻出テーマなので、ここでしっかり押さえておきましょう!
これまで600人以上の学生を診療放射線技師へと導いた経験から、わかりやすくお伝えしていきます。
目次
さっそく解答例
「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A09 の穴埋め解答例と解説です。
先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

相対論領域の基本イメージ
高速の粒子が動く「相対論領域」って?
「相対論的な世界って言われても…具体的に何がどう違うの?」
「どこからが“相対論領域”なのか、はっきりしない!」
わかります。
私も学生時代、どこからが相対論なのか問題は疑問に思っていました。
しっかりとした線引きをしてもらいたかった記憶があります。
今日はそのあたりもハッキリさせてしまいましょう。
「相対論領域」とは、粒子の速さが光速に近づいたときに、
日常的な物理法則では説明しきれなくなる領域のことです。
ここではその基本イメージをつかむことができます。
ふだん習う「運動量=mv」や「エネルギー=½mv²」は、
あくまで“遅い世界”(≪光速)でしか通用しない式です。
ところが、光子や電子のように高速で動く粒子になると、
質量や運動量の扱いが全く変わってきます。
このような、速さが光速に近づいた世界を「相対論領域」と呼びます。
具体的には、粒子の速度が光速の30%〜50%以上になると、
古典的な式では誤差が無視できず、相対論的な修正が必要になります。
放射線医療などでは、電子が光速の90%以上で飛ぶこともあり、
もはや相対性理論なしでは計算が成り立ちません。

抑えておきべきポイントは
・高校物理の多くは「遅い世界」の話
・医療で使うX線・γ線・電子線は「速い世界」の話
・この「速い世界」では、相対性理論にもとづいた式を使う必要がある

光子や電子が相対論領域で活躍する半面、
陽子線・重粒子線などの重い粒子(重荷電粒子)は、
エネルギーが高くても速度がそれほど速くないから、
相対論的効果は比較的少ないのが特徴なんじゃ。
つまり重荷電粒子は「遅い世界」で扱うんじゃ。
エネルギーと運動量の関係
相対論領域では、エネルギーと運動量の式も変わる!
「E = mc² じゃダメなの?」
「運動量=mvが使えないって、じゃあどう計算するの?」
そんな疑問を感じている方は、しっかりと放物の勉強に取り組んでいる方ですね。
やっていない人は何も疑問に思いませんから・・・
疑問をお持ちなのはむしろ正常です。
そして初めての内容ですから、分からなくて当然です。
ここで覚えていきましょう。
このセクションでは、相対論的に正しいエネルギーと運動量の式を紹介し、
なぜ従来の式が使えないのか、どのように考えればいいのかを整理できます。
「光速に近い速さ」で運動する粒子に対しては、
エネルギーと運動量は以下の式で表されます。
相対論的エネルギーの式

ここで
- E は全エネルギー
- p は運動量
- m は静止質量(質量そのもの)
- c は光速
この式は、高速粒子(たとえば光子や電子)のエネルギーと運動量の関係を一つの式で表しています。
ちなみに、質量がゼロ(m=0)の光子の場合には、
この式は E=pc に簡略化されます。
相対論的運動量の式
相対論領域では、運動量は以下のように定義されます

ここで登場する「γ(ガンマ)」はローレンツ因子と呼ばれ、
粒子の速度が光速に近づくにつれて、値が大きくなっていきます。
ローレンツ因子の定義は以下の通り

この式からわかる通り、速度 v が光速 c に近づくと、
分母が小さくなり、γは急激に増大します。
詳しくはこちらの記事もどうぞ。

なぜ mv ではダメなのか?
相対論領域では、時間や空間の感覚が観測者によって変わるため、
従来の「p=mv」では正しい運動量が得られません。
そこで、ローレンツ因子 γ を導入した「p=γmv」を使うことで、
光速に近い粒子でも正確な運動量を扱うことができるようになるのです。
このように、エネルギーも運動量も、速度が速くなるほど式の“ズレ”が無視できなくなるため、
相対論的な修正が必要になります。
このあと紹介する「ド・ブロイ波」も、この相対論的運動量を前提に成り立っています。
続けてそちらも見ていきましょう!
その前に、相対論的な世界での「エネルギーの全体像」を整理しておきましょう。
粒子がもつ総エネルギーは、以下の式で表されます。

ここで左辺の mc2 は「静止しているときの質量エネルギー」、K は「運動エネルギー」です。
そして右辺は、それらをまとめた相対論的な総エネルギーの形。
この式を見ると、速度 v が光速 c に近づくにつれて、エネルギーがどんどん増大していくことがわかります。
そしてその結果として、ド・ブロイ波のような“波としての性質”も、より強く現れてくるわけです。
なお、相対論的な運動量やエネルギーを考える対象としては、光子と電子が代表的です。
特に医療現場では、この2つが中心になりますので、ここでの理解はとても重要になります。
二重性とド・ブロイ波
粒子なのに波? ド・ブロイ波ってなんだ?
「粒子が波ってどういうこと?」
「λ = h/p の式、どうやって出てくるの?」
こんな疑問が聞こえてきそうですね。
粒子と波の“二重性”
光子は「電磁波」として振る舞いながらも、粒としてのエネルギーをもつことが知られています。
この性質を「粒子と波の二重性」と呼びます。
「光が波であり粒でもある」という考え方は、
次第に電子や中性子といった質量をもつ粒子にも広がりました。
ド・ブロイ波の登場
1924年、ルイ・ド・ブロイは「すべての運動する粒子は波としても振る舞う」と提案しました。
このとき、その波の長さ(波長)を求める式がこちら

ここで
- λ:波長
- h :プランク定数(定数)
- p :運動量(相対論的に p=γmv)
つまり、運動量が大きい粒子ほど波長が短くなるという関係です。
なんでこの式が大事なんですか?

それには2つの理由があります。
- 電子などの波長が観測できる粒子では、回折や干渉といった波の性質が実験で確認されていること。
- 電子線回折や中性子干渉計など、医療や物理学の現場でも利用されていること。
いや違う!
国試にでるから大事なんや!
ちゃうか!?


ん~、牛助くらいの認識でもいいかな。
せやろ~

ド・ブロイ波って、どうして「粒子の波」が見えるの?

運動量と波長には密接な関係がある
「粒子に波長?」と不思議に思うかもしれませんが、ド・ブロイはこう考えました。
どんな粒子にも波としての性質があり、その波長は λ = h / p で表される。
ここで使われる「運動量 p」は、相対論的な運動量 γmv を使わないと正確な波長が求まりません。
相対論的運動量で見ると、ド・ブロイ波長も変わる
相対論的な粒子では、運動量は以下のようになります。
p = γmv
すると、ド・ブロイ波長はこう表せます。
λ = h / γmv
粒子が高速になると、γが大きくなり、運動量 p も増加。
その結果、波長 λ はどんどん短くなっていきます。
つまり、
高速な粒子ほど、より「波らしい」性質が現れてくるというわけです。
粒子も光も、波と粒子の“顔”を持っている?二重性の確認
「波と粒子の二重性」とは、光や電子などが状況によって波のようにも、粒子のようにも振る舞うという、量子論の根本的な特徴です。
しかもおもしろいことに、光子と物質粒子では、その“顔”の出方が逆になる傾向があります。
- 光子(質量ゼロ)は、エネルギーが低いほど波の性質が強く、高くなると粒子的なふるまい(衝突や散乱)を見せるようになります。
- 一方で、電子や陽子などの質量をもつ粒子は、低エネルギーだと粒子性が強く、高エネルギーになるとドブロイ波長が短くなり、波の性質が現れやすくなるのです。
つまり――
波と粒子、両方の性質を持っているのは同じ。でも、どちらの性質が表に出るかは「エネルギーしだい」なんですね。
表にまとめておきましょう。
低エネルギーのとき | 高エネルギーのとき | |
光子 | 波の性質が強い | 粒子の性質が強い |
粒子 | 粒子の性質が強い | 波の性質が強い |
実際の問題を見ていく前に
今回は、ローレンツ因子を使った相対論的なエネルギーや運動量の“理屈”をじっくり理解しました。
「じゃあ、実際の試験でどう問われるの?」
それは 次の記事(A10) で、国試によく出る 「エネルギー比の計算問題」 を実際に解いて確認していきます!
そして、計算のコツもバッチリ伝授します!
医療現場でこの知識がどう役立つの?
放射線治療の“粒子線治療”で大活躍!
粒子線治療(陽子線・重粒子線)は、相対論的な世界に足を突っ込んだ粒子たちのふるまいをうまく利用した治療法です。
特に、以下の点が重要です:
- 陽子や炭素イオンなどの高速粒子を加速器で加速し、腫瘍へ向けて照射する
- 粒子が高速で運動するため、エネルギーの計算にローレンツ因子が必要になる
- ブラッグピークなどの現象も、「相対論的な質量の増加」や「速度の変化」といった効果の理解がベースにあります
重粒子は“見かけほど速くない”
また、さっき電爺も言っていたように――
陽子や炭素イオンといった重荷電粒子は、エネルギーが高くても“見かけほど速くない”のがポイントとなります。
つまり、
相対論的効果(時間の遅れ・長さの収縮など)は、電子や光子に比べて少なめなんです。
でもだからこそ、運動量やエネルギーのズレを正確に予測するためには、相対論の知識が必要なんですね。
速くないなら相対論要らないんじゃないんですか?

せやせや!
頭グルグルになってくんで!


重粒子って、エネルギーは大きくても意外とスピードは遅いんだ。
でもそのぶん、運動量は大きくなりやすいし、
体内での減速のしかたにも特徴が出るんだよ。
そうか!
だから、非相対論的な式じゃズレが出てしまうんですね。
正確な計算には相対論的な考え方が必要なんだ。


そういうこと。
でも、分からなくて大丈夫。
実際は治療計画ソフトが自動で計算してくれるからね。
我々はそんな苦労を外に出さずに、
患者さんに寄り添う対応ができればOKさ。
※重粒子の相対論的効果が“少なめ”ってだけで、無視していいわけじゃないではありません。実際、治療計画での計算ではγ(ローレンツ因子)も含めてちゃんと扱っています。ソフトが自動で。笑
まとめ

速さが光速に近づくと、質量やエネルギーの扱いが変わる!
相対論は“速い世界”のルールなんだよ。
ふだんの式は“遅い世界”用。
速い粒子には“相対論のルール”が必要なんだ。
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次に読むならコレ!電爺的おすすめ内部リンク

ほれ、ここまで読んだんなら、次はこのあたりを見ておくとえぇぞい。
次に読むならコレ!たまのすけおすすめ外部リンク

ここまで読んできた皆さんなら、もう一歩踏み込んだ知識に触れてみたくなるはずです。そんな方におすすめの外部リンクを紹介しますね。
Wikipedia|ローレンツ因子
定義、数式、使いどころなど、ローレンツ因子の基礎情報がまとまっています。
Wikipedia|重粒子線治療
医療とのつながりがわかるページ。治療法や線種ごとの特徴も紹介されていて、臨床応用のイメージがつかめます。