C08 X線エネルギー分布はなぜ削られる?ろ過で変わるスペクトルの中身

X線撮影で使っているX線って、最初から今の形で管球の外に出てきていると思っていませんか?
実はそうではなく、X線管球の中で発生した直後のX線は、かなり雑多な中身をしています。

発生したばかりのX線には、画像にはほとんど役に立たない低エネルギー成分がたくさん含まれています。
これらはフィルムや検出器まで届かないのに、体の中では吸収されやすく、被ばくばかりを増やしてしまいます。

では、実際の撮影で使っているX線は、どこで、どうやって整理されているのでしょうか。
その変化を読み解くヒントになるのが、X線のエネルギー分布と、そこで行われるろ過です。

この記事では、X線管球のターゲットでX線が発生した瞬間から、管球の外に出てくるまでに、エネルギー分布がどのように変わっていくのかを順番に見ていきます。
特に、不要な低エネルギー成分が削られていく過程に注目しながら、固有ろ過付加ろ過の意味を整理していきましょう。

エネルギー分布の変化を追っていくと、なぜろ過が必要なのか、なぜ低エネルギーX線を除去するのかが、自然と納得できるようになりますよ。

X線管球で発生した直後のエネルギー分布(非ろ過)

ターゲットで発生した直後の制動放射X線のエネルギー分布を示す図。横軸はX線エネルギー[keV]、縦軸は相対強度を表す。低エネルギー側に強度の大きい成分を多く含む、ろ過前のエネルギースペクトルが描かれている。

X線管球のターゲットに高速電子が衝突すると、その場でX線が発生します。
このときに生じるX線のエネルギー分布は、まだろ過を一切受けていない状態で、いわば「生まれたて」の姿です。

発生直後のX線は、連続的なエネルギーをもつ制動放射X線が中心となり、低エネルギー側から高エネルギー側まで、幅広い成分を含んでいます。
特に特徴的なのは、低エネルギー成分が非常に多いという点です。

この低エネルギーX線は、体内で吸収されやすく、検出器やフィルムに到達する前に失われてしまいます。
つまり、画像にはほとんど寄与しないにもかかわらず、被ばくだけを増やしてしまう成分です。

この段階のエネルギー分布は、あくまで「ターゲットで発生したそのままの姿」を示したものにすぎません。
このあとX線は、X線管の構造やフィルタを通過することで、不要な成分が次第に削られていくことになります。

低エネルギー成分って、メッチャ悪やん?

牛助
牛助
たなまる
たなまる

悪って訳じゃないけど、
画像に役立たないなら、不要ではあるよね。

ろ過によってX線のエネルギー分布はどう変わる?

X線管球で発生した直後のX線は、低エネルギー成分を多く含んだ状態でした。
しかし、私たちが実際に利用しているX線は、そのままの姿で管球の外に出てくるわけではありません。

X線は、管球内部の構造や物質を通過する過程で、エネルギー分布を変化させていきます。
このときに行われている操作を、まとめてろ過と呼びます。

ここからは、ろ過によってX線のエネルギー分布がどのように変わるのかを、順番に見ていきましょう。

ろ過とは何をしている操作なのか

ろ過とは、X線が物質を通過することで、エネルギーの一部が減少する操作を指します。
言い換えると、X線の中から不要な成分を選別して減らしていく過程です。

臨床や教科書では、フィルタという言葉が使われることも多く、ろ過=フィルタを通すことと考えて問題ありません。
表現は違っても、意味している操作は同じです。

X線はエネルギーが低いほど物質に吸収されやすいという性質をもっています。
そのため、ろ過が行われると、まず低エネルギー成分から優先的に減少していきます。

結果として、X線全体の強度は減少しますが、画像にほとんど寄与しない成分が削られることで、エネルギー分布の中身が整理されていくことになります。

このあと登場する固有ろ過付加ろ過は、いずれもこの「ろ過」という基本的な考え方の上に成り立っています。

固有ろ過によるエネルギー分布の変化

X線管球の構造による固有ろ過を受けた後の制動放射X線のエネルギー分布を示す図。横軸はX線エネルギー[keV]、縦軸は相対強度を表す。非ろ過時の分布と比較して、低エネルギー側の成分が減少し、エネルギー分布全体が高エネルギー側に寄った形で描かれている。

X線管球で発生したX線は、ターゲットを飛び出したあと、すぐに管球の外へ出ていくわけではありません。
X線管のガラス壁や、管球内部を満たしている絶縁油など、さまざまな構造物を通過する必要があります。

このとき、X線はそれらの物質によって一部が吸収されます。
このように、X線管そのものの構造によって避けられずに起こるろ過を、固有ろ過と呼びます。

固有ろ過では、X線のエネルギー分布全体がそのまま小さくなるのではなく、低エネルギー成分から優先的に削られていくという変化が生じます。
これは、エネルギーの低いX線ほど物質に吸収されやすいためです。

その結果、低エネルギー側の強度が大きく減少し、エネルギー分布の形は、発生直後(非ろ過)の状態から少し右寄りに変化します。
見かけ上、X線が「硬くなった」ように見えるのは、このためです。

ここで重要なのは、固有ろ過は意図的に行っている操作ではないという点です。
X線管の構造上、必ず生じてしまうろ過であり、すべてのX線管に共通して存在します。

付加ろ過で低エネルギー成分をさらに除去する

固有ろ過によって低エネルギー成分はある程度減少しますが、それだけで十分とは言えません。
固有ろ過はX線管の構造上、避けられずに生じるものであり、低エネルギー成分を狙って取り除いているわけではないからです。

そこで行われるのが、意図的にX線の中身を整理するための付加ろ過です。
付加ろ過では、アルミニウムや銅などの金属フィルタをX線の経路に入れることで、不要な成分を選択的に減らしていきます。

なお、付加ろ過については、かつては撮影条件に応じて技師がフィルタを手動で挿入する必要がありました。
現在のX線装置では、撮影条件に合わせて適切なフィルタが自動的に選択・挿入される仕組みが一般的になっています。
装置が自動で制御しているからといって、付加ろ過の役割そのものが変わったわけではなく、不要な低エネルギー成分を除去するという考え方は、今も変わらず重要です。

なぜ低エネルギーX線を除去する必要があるのか

低エネルギーX線は、体内で吸収されやすいという性質をもっています。
そのため、検出器やフィルムに到達する前に体内で失われてしまい、画像の形成にはほとんど寄与しません。

一方で、体内で吸収されるということは、その分だけ被ばくが増えることを意味します。
つまり低エネルギーX線は、画像には役立たないにもかかわらず、被ばくだけを増やしてしまう成分です。

このような理由から、低エネルギー成分はできるだけ除去する必要があります。
付加ろ過は、その目的のために行われている操作です。

付加ろ過によるエネルギー分布の変化

固有ろ過を受けた後のX線に対して、さらに付加ろ過を行った場合の制動放射X線のエネルギー分布を示す図。横軸はX線エネルギー[keV]、縦軸は相対強度を表す。低エネルギー側の成分が大きく減少し、エネルギー分布全体が高エネルギー側へ移動した形で描かれている。

付加ろ過を行うと、固有ろ過後にも残っていた低エネルギー成分が、さらに大きく削られます。
その結果、エネルギー分布の低エネルギー側がなだらかに減少し、分布全体の形が高エネルギー側へ移動します。

これは、X線の平均的なエネルギーが高くなったことを意味しています。
言い換えると、体内で無駄に吸収される成分が減り、撮影に適したX線だけが残った状態です。

このように、付加ろ過は不要な成分を取り除き、必要な成分を残すための操作です。
固有ろ過と付加ろ過を組み合わせることで、X線のエネルギー分布は段階的に整えられていきます。

総ろ過後のX線エネルギー分布と特性X線

固有ろ過および付加ろ過をすべて受けた後のX線エネルギー分布を示す図。横軸はX線エネルギー[keV]、縦軸は相対強度を表す。制動放射X線による連続的なエネルギー分布の上に、特性X線であるKα線とKβ線のピークが重なって描かれている。

ここまで見てきたように、X線は発生直後の非ろ過の状態から、固有ろ過、付加ろ過を経て、段階的に不要な成分が削られてきました。
このように、固有ろ過と付加ろ過をすべて含めたものを総ろ過と呼びます。

総ろ過後のエネルギー分布は、低エネルギー成分が大きく減少し、撮影に有効な成分が中心となった状態です。
このとき、制動放射X線の連続的なエネルギー分布に加えて、特徴的なピークが現れます。

これが、特性X線です。
特性X線は、ターゲット原子の内殻電子が電離され、その空位を外側の電子が埋めることで発生します。
そのため、エネルギーは連続ではなく、決まった値として現れます。

図に示されている KαKβ は、いずれも特性X線であり、
総ろ過後のエネルギー分布では、制動放射X線のスペクトルの上に重なって観測されます。

このように、私たちが実際に利用しているX線は、
制動放射X線による連続スペクトルと、特性X線による線スペクトルが組み合わさった形をしています。
これが、X線管から取り出されるX線エネルギー分布の最終的な姿です。

実際に出題された過去問を見てみよう

近年、エネルギースペクトルの図を読み取る問題が増えています。
もっと新しい問題もありますが、今回は2020年の出題からご紹介しましょう。

第72回 2020年 AM72
診断領域X線のエネルギースペクトルを図に示す。
正しいのはどれか。

X線のエネルギースペクトルを示すグラフ。横軸は光子エネルギー[keV]、縦軸は光子数を表す。制動放射による連続スペクトルの上に、特性X線のピークが現れており、条件の異なる複数のスペクトルが重ねて描かれている。
  1. Aの管電圧は60kVである。
  2. AとBのターゲットは異なる。
  3. AとBの出力線量は同じである。
  4. Aにフィルタを付加するとBの形状に近づく。
  5. AとBにL殻への遷移による特性X線が認められる。

さて、いかがでしょうか?

答えを確認する。

正解は 4 です。

できましたか?
1枝ずつ見ていきましょう。

  1. Aの管電圧は95kV程度ですね。これは、グラフの右端が横軸と交わる点を読めばOKです。
  2. AとBは最大エネルギーが同じなので、管電圧が等しいと判断できます。
  3. 出力線量はグラフに囲まれる面積(グラフと横軸に囲まれるエリア)だから、AとBでは違いますね。
  4. OKです。最大エネルギーは変わらず、低エネルギー成分を中心に線量が減少しているのでAにフィルタを追加するとBになると判断できます。
  5. グラフ上で認められるのはエネルギー領域的にK殻遷移の特性X線です。特性X線ピークは右側がKβで左側がKαです。Kβのエネルギー(69.5keV)的にターゲットはタングステンだと分かります。そうなると、L殻遷移の特性X線は10keV程度に現れるはず。今回のグラフにはそれが無い。

ちなみに、グラフには赤丸で示す光子数の低下が認められます(下図参照)。

X線のエネルギースペクトルを示すグラフ。横軸は光子エネルギー[keV]、縦軸は光子数を表す。制動放射による連続スペクトルと特性X線のピークが描かれており、Kβピーク付近の高エネルギー側に、赤丸で囲まれた光子数の低下が認められる。

この赤丸部分の光子数の低下は、タングステンターゲットにおける自己吸収の影響によるものと考えられます。
マンモグラフィで用いられるMoターゲット/Moフィルタのような顕著な低下ではありませんが、タングステンターゲットでも自己吸収による影響は現れます。
この低下はフィルタによるものではなく、ターゲット由来の現象であるため、両者を混同しないように注意が必要です。

たなまる
たなまる

ここまで深く読み取るような問題は今のところ出ていませんけどね。

医療現場でこの知識がどう役立つの?

X線撮影では、被ばくを抑えるための工夫が、装置の内部にあらかじめ組み込まれています。
その代表例が、撮影条件に応じて自動的に選択される付加ろ過です。

一般撮影では、技師が意識しなくても、撮影部位や管電圧に応じて適切なフィルタが自動で挿入されます。
その結果、画像に寄与しにくい低エネルギー成分があらかじめ除去され、不要な被ばくが抑えられています。

この仕組みを知らなくても撮影はできますが、なぜ被ばくが抑えられているのか、なぜ装置がそのような構造になっているのかを説明するには、X線のエネルギー分布の理解が欠かせません。

電爺
電爺

装置が勝手にやってくれているとは言え、使う人間もちゃんと理解しておかんとな。

まとめ

この記事では、X線管で発生した直後のエネルギー分布から、ろ過を経て最終的に利用されるX線の姿までを整理しました。
どの段階で、どの成分が減り、どの成分が残るのかを振り返ってまとめていきましょう。

  • X線はターゲットで発生した直後は、低エネルギー成分を多く含む連続的なエネルギー分布をもつ
  • X線管の構造による固有ろ過によって、低エネルギー成分はある程度除去される
  • 金属フィルタを用いた付加ろ過により、画像に寄与しにくい低エネルギー成分がさらに削られる
  • 固有ろ過と付加ろ過を合わせたものを総ろ過といい、実際に利用されるX線のエネルギー分布が決まる
  • 最終的なエネルギー分布では、制動放射X線の連続スペクトルに特性X線が重なって現れる
たなまる
たなまる

「ろ過」って聞くと地味に感じるかもしれないけど、X線の「中身」を整える、かなり大事な仕組みなんだよ。

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電爺
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ほれ、ここまで読んだんなら、次はこのあたりを見ておくとえぇぞい。

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