
特性X線とかオージェ電子とか分かってきたけど、
計算になると止まっちゃいます……。

そんなん、ゴロで覚えたらええねん!
Kαはケアル※20、Kβはニコ(25)っとMAXと小さな兄さん(23)!
どや!完璧やろ!?


それ、エネルギー変わったら使えんじゃないかのぅ?
ひとつ、白魔法はいっとるし。

FFネタは嬉しいところだけどね。
語呂は入口にして、今日は“結合エネルギーの差”ってトコを押さえていこう。
※「ケアル」は『ファイナルファンタジー』シリーズ(発売元:スクウェア・エニックス)に登場する魔法名です。
特性X線やオージェ電子のことは覚えたのに、いざそのエネルギーを計算しようとすると手が止まる——そんな質問、よく受けます。
本記事では、エネルギーが「結合エネルギーの差」で決まる理由を押さえ、式に頼らず自分で導ける状態を目指します。
まず前提(どの殻からどの殻へ落ちるか)を言葉で整理し、次に数値を当てはめて、Kα・Kβ・Lα、そしてオージェ電子の順に短い例題で確認します。
このやり方は国家試験での計算問題でも使えますし、医療現場でのピーク識別や装置の理解にも役立ちます。
さっそく解答例
「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 C04 の穴埋め解答例と解説です。
先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

何が起きている?
原子の内側の殻に空位ができ、外側の殻から来た電子が遷移してそれを埋めます。
そのときのエネルギーが、特性X線として出るか、別の電子を電離してオージェ電子になるかの二択です。
この章ではまず、このしくみの全体図を押さえます。ポイントは「結合エネルギーの差」です。
内殻に空位ができるまで
- どうやって空位ができる?
X線や電子が当たって、内側の殻(K・Lなど)の電子が電離すると、その殻に空位ができます。 - なぜ内殻が大事?
内殻ほど結合エネルギーが大きく、外殻との差も大きいので、あとで出てくるエネルギーも大きくなります。 - 起こり方の例
- 光電効果:X線を吸収 → 内殻電子が電離 → 空位ができる。
- 衝突電離:電子線が当たる → 内殻電子が電離 → 空位ができる。
- ここでのゴール
「どの殻に空位ができたか(KかLか)」をしっかり認識できるようになりましょう。
空位の埋まり方は2通り:特性X線かオージェ電子か
- 遷移:外側の殻の電子が、空位のある内側の殻へ遷移して埋めます。
- エネルギーの行き先(2択)
1) 特性X線(光を出すほう)… 遷移のエネルギーがX線として出る。
2) オージェ電子(光を出さないほう)… そのエネルギーで別の電子が電離し、オージェ電子として飛び出す。 - ちょい知識
一般に軽い元素はオージェが起きやすく、重い元素は特性X線が目立ちやすい傾向があります。
この辺りはC2・C3で詳しく解説しています。そちらもご覧ください。
結合エネルギーと「差」のルール
原子の“どの殻からどの殻へ遷移したか”で、放出されるエネルギーが決まります。
ここで使うのは結合エネルギーの差だけです。
※結合エネルギーの差で計算しても、エネルギー準位の差で計算しても結果は同じになります。
結合エネルギー?エネルギー準位?ってなってしまった方はA21でおさらいしましょう。
結合エネルギーの定義と符号
- 定義:その殻の電子を原子から電離させるのに必要なエネルギー(eV, keV)。
- 大小関係:結合エネルギーは内側ほど大きい(例:K > L > M > N)。
- 符号の扱い:本記事では正の数として扱います(“必要量の大きさ”という意味)。
- 計算のコツ:以後、式はすべて「大きい − 小さい」の順で書きます。
特性X線:E =(空位がある殻)−(遷移元の殻)
- 考え方:外側の殻にいた電子が内側へ遷移して空位を埋めるとき、
その結合エネルギーの差が特性X線のエネルギーになります。 - 式のかたち:
– E = E(空位の殻) − E(遷移元の殻)
例:Kα(L→K)なら E = E(K) − E(L)。 - 意味づけ:
「空位のある殻の深さに“はまり直す”ぶんだけエネルギーが出る」。
オージェ電子:Ek =(空位の殻 − 遷移元の殻)−(放出される殻)
- 考え方:遷移で生まれたエネルギーが、別の殻の電子1個を電離させるのに使われ、
余りがその電子の運動エネルギー(オージェ電子のEk)になります。 - 式のかたち:
– Ek = E(空位の殻) − E(遷移元の殻) − E(放出される殻)
例:KLL なら Ek = E(K) − E(L) − E(L)。 - 意味づけ:
「遷移で得たエネルギー」から「もう1人を外へ出すための“結合エネルギー”」を差し引いた残り。
どの“差”を引く?
- Kα:L→K(空位:K、遷移元:L)→ E = E(K) − E(L)
- Kβ:M→K または N→K(どちらから来たかで値が変わる)
- M→K:E = E(K) − E(M)(Kβ “最小”)
- N→K:E = E(K) − E(N)(Kβ “最大”)
- Lα:M→L → E = E(L) − E(M)
チェックリスト(毎回これで確認できます)
- 空位の殻はどこ?(まずここを口で言う)
- 遷移元はどこ?(→ 特性X線の差が決まる)
- 誰が電離される?(→ オージェならさらにもう一つ引く)
- 式は大きい − 小さい(− 小さい)の順になっているか?
- 単位(eV/keV)を最後にそろえたか?
結合エネルギーで計算しても、エネルギー準位で計算しても同じになる
結合エネルギーの表で計算しても、エネルギー準位で計算しても、答えは同じになります。
理由はシンプルで、準位エネルギーが結合エネルギーと符号が逆なだけだからです。
- 用語の対応
- 結合エネルギー EB(殻):その殻の電子を原子から電離させるのに必要な量(正の数)
- 準位エネルギー Elevel(殻):真空を0としたときのその殻の“深さ”(負の数)
- 関係:Elevel(殻) = − EB(殻)
- 特性X線(Kαの例)
- 結合エネルギーで:E = EB(K) − EB(L) = 30 − 10 = 20
- 準位エネルギーで:E = |Elevel(L) − Elevel(K)| = |(−10) − (−30)| = 20
- オージェ電子(KLLの例)
- 結合エネルギーで:Ek = EB(K) − EB(L) − EB(L) = 30 − 10 − 10 = 10
- 準位エネルギーで:Ek = |Elevel(L) − Elevel(K)| − EB(L) = |(−10) − (−30)| − 10 = 10
- 使い分けのコツ
- 表が結合エネルギーで与えられていれば、そのまま差を引くのが早いです。
- 図が準位の深さなら、上の準位 − 下の準位の差の絶対値をとれば同じ答えになります。
基本例題(表:K=30, L=10, M=7, N=5)
ここでは「空位の殻」「遷移元」「(オージェなら)電離される殻」を言葉で決めてから、結合エネルギーの差をそのまま計算します。丸暗記は不要です。
Kα = 30 − 10 = 20
- 状況:K殻に空位。外側のL殻の電子が遷移して埋める。
- 式:E = E(K) − E(L) = 30 − 10 = 20
- メモ:Kαは「L→K」。空位の殻 − 遷移元の順。
Kβ:最大 25(N→K)/最小 23(M→K)〔最大・最小の理由〕
- 状況:K殻に空位。遷移元が M か N かで値が変わる。
- 式(最小):E = E(K) − E(M) = 30 − 7 = 23
- 式(最大):E = E(K) − E(N) = 30 − 5 = 25
- なぜ差が出る?:外側ほど結合エネルギーが小さい(M=7、N=5)。
したがって E(K) − E(より小さい数) のほうが差が大きくなり、N→Kが最大になります。
Lα = 10 − 7 = 3
- 状況:L殻に空位。M殻から遷移。
- 式:E = E(L) − E(M) = 10 − 7 = 3
- メモ:Lαは「M→L」。K系列と同じ考え方でOK。
まとめ表(特性X線)
ライン | 遷移 | 計算式 | 結果 |
---|---|---|---|
Kα | L→K | 30 − 10 | 20 |
Kβ(最小) | M→K | 30 − 7 | 23 |
Kβ(最大) | N→K | 30 − 5 | 25 |
Lα | M→L | 10 − 7 | 3 |
よくある取り違え
- L − Kのように小さい − 大きいと書かない。必ず空位の殻 − 遷移元。
- 記号だけ追って迷ったら、「Kに空位。どこから遷移?」と口で言ってから式にする。
オージェ電子のエネルギー(K空位)
「空位を埋める遷移で生じたエネルギー」を、別の電子の電離に使い、余りがその電子の運動エネルギー(オージェ電子 Eₖ)になります。
計算はかんたんで、「空位の殻 − 遷移元の殻 −(電離される殻)」の順に差をとるだけです。
仕組みを一歩ずつ(読み方のルール)
- 記号 KLM の読み方
1文字目 K:空位のある殻
2文字目 L:そこへ遷移してくる殻
3文字目 M:電離されて外へ出る殻(=オージェ電子がいた殻) - 基本式(結合エネルギーで表す):
Eₖ = E(空位の殻) − E(遷移元の殻) − E(電離される殻)
具体例(表:K=30, L=10, M=7, N=5)
- KLL: Ek = 30 − 10 − 10 = 10
(Kの空位をLからの遷移で埋め、そのエネルギーでLから電子が電離) - KLM:Ek = 30 − 10 − 7 = 13
- KLN:Ek = 30 − 10 − 5 = 15
- KNN(最大):Ek = 30 − 5 − 5 = 20
なぜ KNN が最大になる?
最後に引く「電離される殻」の結合エネルギーが小さいほど、引き算の余りが大きくなるからです。
N殻は L・M より小さい(5 < 7 < 10)ため、KNN が最大になります。
成立条件と注意
- Ek が 0 以上であること(負になれば、その組み合わせではオージェ放出は起きません)。
- 記号の順番に意味あり:1文字目=空位/2文字目=遷移元/3文字目=電離される殻。
- 途中で単位(eV / keV)を崩さないこと。
まとめ表(オージェ:K空位)
系列 | 意味 (空位/遷移元/電離) | 計算式 | 結果 |
---|---|---|---|
KLL | K / L / L | 30 − 10 − 10 | 10 |
KLM | K / L / M | 30 − 10 − 7 | 13 |
KLN | K / L / N | 30 − 10 − 5 | 15 |
KNN | K / N / N | 30 − 5 − 5 | 20 |
よくあるミス
Kβの最大/最小の理屈をオージェにも混ぜる。→ オージェは最後に引く殻が小さいほど大。
順番を取り違える(例:L − K − L など)。→ かならず 空位 − 遷移元 − 電離殻。
記号の3文字目(電離される殻)を遷移元と勘違い。→ 3文字目は「外へ出る人」。

そうそう。やりがちじゃのぅ。
つまずきポイントとチェック
「差で考える」と言っても、計算の順番や記号の読み違いで止まりやすいところがあります。
ここではよくある誤り → 直し方 → 1行チェックの順で整理していきましょう。
引く順番の取り違え(L − Kにしない)
- 誤り:Kα を E = E(L) − E(K) としてしまう。
- 正解:空位の殻 − 遷移元の殻。Kα(L→K)なら E = E(K) − E(L)。
- 1行チェック:「空位はどこ?(K)→ どこから遷移?(L)→ K − Lの順で書く」
遷移する電子と、電離で出る電子の混同
- 誤り:KLM を「M→K の遷移」と読んでしまう。
- 正解:1文字目=空位/2文字目=遷移元/3文字目=電離される殻。
KLM は「空位:K、遷移元:L、電離:M」。 - 1行チェック:「空位→遷移→電離の順で3文字を読む」
単位と桁(eV / keV)
- 誤り:表は keV なのに、途中計算で eV に混在。
- 対処:開始時に単位を決めて最後まで固定。途中で変換したら、最後にもう一度単位を確認。
- 1行チェック:「最初に“keVで統一”とメモ」
ライン記号の読み分け(Kα / Kβ / Lα…)
- 誤り:Kβ を1種類だと思う。
- 正解:Kβ は遷移元の殻が複数あり(M→K と N→K)、最大/最小が生じます。
- 1行チェック:「Kβ=どこからKに遷移?(MかNか)」
オージェの“最大・最小”の考え方
- 誤り:KNN が最大になる理由を、特性X線のKβと同じノリで説明してしまう。
- 正解:オージェは Ek =(空位 − 遷移元)−(電離される殻)。
→ 最後に引く殻の結合エネルギーが小さいほど Ek は大きい。
N がいちばん小さいから KNN が最大。 - 1行チェック:「“最後に引く数が小さいほど大”」
チェックリスト
- 空位の殻はどこ?(K/L… を口で言う)
- 遷移元はどこ?(→ 特性X線の差が決まる)
- 電離される殻は?(→ オージェならもう一つ引く)
- 式の順番:空位 − 遷移元(− 電離殻) になっている
- 単位:eV/keV を最後にそろえる
ミニ演習
- 問1:Kβ(M→K)を表で求める(K=30, M=7)。
解答:E = 30 − 7 = 23 keV - 問2:KLM のオージェエネルギー(K=30, L=10, M=7)。
解答:Eₖ = 30 − 10 − 7 = 13 keV
ここまで押さえられたら、計算はもう“作業”になります。次は実際の過去問を見ていきましょう。
実際の過去問を見てみよう。

1994年に実施された第46回国家試験からのご紹介。
ちょっと古い問題ですが、大切な計算問題です。
答えを確認する。
正解は 2 です。
では、考え方を見ていきましょう。
計算問題は、まずは問われているものを確認します。
今回の場合は「光電子の運動エネルギーT」と「KαXのエネルギーEα」この2つです。
状況を図で示して、TとEαがどこに該当するかも見てみましょう。

Kα線のエネルギー(Eα)が問われていることから、光電効果はK殻軌道電子で起きたことになります。
では現象の流れ的に光電子の運動エネルギーTから求めていきましょう。
80keVの入射光子が、結合エネルギー69.5keVのK殻軌道電子を電離します。
電離するには結合エネルギーを切断し、束縛から解放しなくてはいけません。
したがって、Tを求めるには
T= 80 – 69.5 = 10.5 keV
となります。
続いてEαを求めていきます。
Eαは結合エネルギーの差で求めることができます。
結合エネルギーの大きい方(69.5keV)から小さい方(10.9keV)を差し引けばOKです。
したがって、Eαを求めるには
Eα = 69.5 – 10.9 = 58.6 keV
となります。
医療現場でのかかわり
特性X線のエネルギーまで意識して撮影している技師は少ないと思いますが、マンモグラフィに携わっている場合は、そうも言ってはいられません。
エネルギーへの意識に関わらず、X線管球からは特性X線が出てきていますから、ご紹介しておきましょう。
X線管ターゲットの特性X線ピークを読む
一般撮影やCTで使うタングステン(W)ターゲットでは、スペクトル上にK系列の鋭いピークが立ちます。
本記事の「結合エネルギーの差」で考えると、Kα(L→K)やKβ(M/N→K)の位置関係を言葉で説明でき、線質管理やトラブルシュートに役立ちます。
- ここまで知っているとgood!
- 付加フィルタを変えると連続X線(制動放射線)の土台は削れても、特性X線のピーク位置は変わらない(強度は変わり得る)。※ここはC8、C9で解説しています。
- ターゲット材が変わればピークそのものの位置が移る(例:マンモではMo/Rhの低エネルギー側の特性X線を活用)。
要は、ピークは「殻どうしの差」の痕跡です。差の見方を持っていると、装置の設定や結果の変化を筋道立てて説明できます。
- C8:
- C9:
まとめ
本記事では、内殻に空位ができ、外側の電子が遷移してそれを埋める—この一連の出来事を軸に、エネルギーの行き先を整理しました。
特性X線は「空位のあった殻」と「遷移元の殻」の結合エネルギーの差で決まり、オージェ電子はその差からさらに「電離される殻」の結合エネルギーを差し引いた“残り”が運動エネルギーになります。
結合エネルギーの表で計算しても、準位の深さ(符号が逆)で計算しても結果は同じです。
計算の前には、空位→遷移→電離の順に状況を言葉で描き、式は「大きい数から小さい数を引く(必要ならもう一つ引く)」とだけ覚えておけば十分です。
単位は最後までそろえましょう。
医療現場では、タングステン管などで見える特性X線のピーク位置を、この“差”の考え方で説明できると線質の理解が速くなります。

結合エネルギーの差さえ言えれば、式はあとから付いてきます。
まずは電離→空位→遷移→特性X線orオージェ電子の順を確認してみましょう。
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・X線の連続線と特性線(産総研:XAFS入門)
連続X線の土台+特性線ピークの説明が図で分かりやすいです。
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