
オレ、今日から“光速チャレンジ”始めるわ。
秒速30万km目指して、まずはこのチャリで!

物理法則ナメすぎです。
チャリで相対論はムリでしょう。

ほな、オレの体をエネルギーに変換してくれ。
E=mc²やろ? きっと爆発的パワーや!

まぁ、しょっちゅう食っちゃ寝してるから爆発的質量は持ってますよね。


まぁまぁ落ち着いて。
エネルギーに変換する前に、まずは“速く動くとどうなるか”を学ぼうか。
……そう、ローレンツ因子γの出番だね。
こんにちは。たなまるです。
特殊相対性理論、と聞いただけで「うわ、難しそう」「公式が複雑そう」って身構えてしまう学生も多いはず。でも大丈夫。今回扱うのは、その“入口の入口”。まずはイメージを掴むことが大切です。
ふだんの世界とはちょっとちがう“高速世界”のルールを、図解や具体例を交えながらご紹介していきましょう。
計算問題でも狙われるポイントを、やさしく・しっかり押さえていきます。
この記事を読み終える頃には、あなたの中で“相対論”がちょっと身近に感じられるはずです。
これまで600人以上の学生を診療放射線技師へと導いた経験から、わかりやすくお伝えしていきます。
目次
ワークの該当ページをご紹介
今回は穴埋めする部分はありませんので、読み物だと思って寄っていって下さい。

相対論領域って、どんな世界?
高校物理は「遅い世界」の話だった
高校までの物理では、走る人、飛ぶボール、落ちる物体……といった「日常的な速さ」の現象を対象にしていましたね。
秒速数m~数km程度の世界では、ニュートン力学(いわゆる古典物理)がしっかり働いてくれます。

私、ニュートン力学好きでしたね~。
20年以上前ですが。
たとえば運動方程式 F=ma や、運動エネルギー 1/2mv2 なども、速度が小さい範囲であれば正しく使えるんですね。
でも、ここでちょっと考えてみてください。
もし「物体の速度」が光の速さに近づいていったら……
ニュートン力学は、そのまま使ってもいいんですか?

答えはNOです。
物体が光速(秒速30万km)に近づいていくと、世界のルールが変わってしまうのです。
光速に近づくと、世界のルールが変わる
光速に近い速さになると、「時間がゆっくり進む」「長さが縮む」など、我々の慣れ親しんだ日常とはまったく違う現象が起こります。これが特殊相対性理論の世界です。
この世界では、今まで使っていた公式では通用しません。
新たに必要になるのが——
ローレンツ因子 γ(ガンマ)
このローレンツ因子を使うことで、時間の流れ方や質量、エネルギーなどが「相対論的にどう変化するのか」を計算できるようになります。
なんかむずかしそうな気しかしーひん……
ま、オレには関係ない世界やな。なんたって牛歩やし

この世界を理解するための基礎知識
相対性理論のキモは「観測者によってズレること」
相対性理論の最大のポイントは、「見る人が違えば、見える世界も違う」ということです。
たとえば、駅のホームに立っている人と、電車に乗っている人。
同じ光の動きを見ても、それぞれの立場(=慣性系)によって“どう見えるか”が変わるのです。
この“見え方のズレ”をちゃんと計算できるようにしよう!というのが、特殊相対性理論の出発点です。

この特殊相対性理論を提唱したのが、かの有名なアインシュタイン博士です。
博士が1905年に発表した理論は、当時の物理学の常識をひっくり返すものでした。
時間の遅れと長さの収縮

光速に近づくと起きる不思議な現象、それが——
- 時間の遅れ(タイム・ディレーション)
→ 動いている人から見ると、「相手の時計がゆっくり進んでいるように見える」 - 長さの収縮(ローレンツ収縮)
→ 動いている物体は、進行方向に「縮んで」見える
これらは実際に宇宙線の観測や粒子加速実験で確認されている、現実の物理現象です。
ローレンツ因子γの役割とグラフ
これらの現象を計算式に落とし込むために必要なのが——

この式に出てくる v は物体の速度、c は光速です。
光速に近づくにつれて、分母がどんどん小さくなり、γが大きくなる
→ これが「時間の遅れ」や「エネルギーの増加」につながります。

なぜ変換式(ローレンツ変換)が必要なのか
ニュートン力学では「時間や長さは絶対的」でしたが、相対論では時間も長さも“相対的”なものになります。
だからこそ、観測者ごとのズレを数式でつなぐための変換式が必要になるんですね。
それが、ローレンツ変換です。
試験に出る!相対論領域の重要4項目を解説
① 慣性系
特殊相対性理論では、「慣性系(inertial frame)」という考え方が土台になります。
慣性系とは?
→ 「外から力が加わっていない」「等速直線運動中」など、一定の動きをしている観測者の世界のこと。
例:
- 地面に立っている人
- 等速で飛行しているロケットの中
一方で、加速度のある運動や回転する観測者は非慣性系と呼ばれます。
特殊相対性理論は、慣性系どうしの間の“ズレ”を扱う理論なんです。
じゃ、体重がガンガン増えるオレやたなまる先生は非慣性系ってことやな


一緒にしないでくれ。
※体重の変化は慣性系とは関係ありません
② ローレンツ変換
「光速に近づくと世界の見え方が変わる」
そのズレを式でつなぐために登場するのが——
ローレンツ変換
これは、異なる慣性系どうしで「時間」「位置」を変換する式です。

「数式は苦手…」という人も、“観測者によって時間や位置がズレて見える”ことをイメージできればOKです。
ここでお得意のwikiを引用してみましょう。
ローレンツ変換(ローレンツへんかん、英: Lorentz transformation)は、2 つの慣性系の間の座標(時間座標と空間座標)を結びつける線形変換で、電磁気学と古典力学間の矛盾を回避するために、アイルランドのジョセフ・ラーモア(1897年)とオランダのヘンドリック・ローレンツ(1899年、1904年)により提案された。
アルベルト・アインシュタインが特殊相対性理論(1905年)を構築したときには、慣性系間に許される変換公式として、理論の基礎を形成した。特殊相対性理論では全ての慣性系は同等なので、物理法則はローレンツ変換に対して不変な形、すなわち同じ変換性をもつ量の間のテンソル方程式として与えられなければならない。このことをローレンツ不変性(共変性)をもつという。
これで分かりますか?
ちょっと難しいです・・・

いやいや分からんて。
だいたい、3行以上の文章はちょっと萎えるわぁ


まぁ、牛助は極端だとしても、内容が難しいことは確かだね。
ここは、西臺先生の著書を引用させて頂こう。
時間と空間を正しく記述するにはこのローレンツ変換であることを明らかにし、相対性理論を確立した。
放射線医学物理学 第3版 増補 西臺武弘
つまりローレンツ変換は大事ってことやな


その通り!
我々そのくらいの解釈で良いと思うよ。
③ 光速度不変の法則
相対性理論の大前提。それが——
光速度不変の原理
「どんな慣性系から見ても、光の速さは一定(約30万km/s)」
つまり、止まっていようが動いていようが、光の速さは誰にとっても変わらないという超直感に反するルール。
これが特殊相対性理論の“スタート地点”です。
でも、ちょっと勘違いを呼びがちなんです。
光速度不変の勘違い
「光の速度は変わらない」と捉えてしまうと少々語弊があります。
正しくは、「光源の運動に関わらず、真空中の光の速度は変わらない」が正解です。
真空中の光の速度はc0=3.0×108m/sで一定です。
なおかつ、最も早い速度です。光以上に早いものは存在しません。
オレの物忘れも早いで!


私の給料の減り方はもっと早いぞ!
なに不幸自慢してるんすか!

真空中であれば、光の速度は一定です。
しかし、物質に入ると事情は異なります。
物質に入射した光は、物質の 1/屈折率 の速度になります。
したがって、「光速度不変」は光の速度が変わらないということではないのです。

では、ここまできたら、ついでに速度の合成則も考えてみましょう。
速度の合成則に現れる違い

近年、大谷選手をはじめ、投手の球速はどんどん上がり、コンスタントに150km/hを記録するようになりましたね。
それはさておき、150km/hの速球を投げる投手が、50km/hで走行するトラックの荷台から逆向きに投げたとします。
このとき、投手の球速はどうなるか分かりますか?
v=150-50=100 km/h となります。
これは、ニュートン力学に従う、非相対論領域のお話です。
では、相対論領域では速度の合成則はどうなるのか?
-1-998x1024.png)
レーザーを出す装置(光源)をトラックの荷台に積んでレーザーを出しても、そのレーザー光の速度は3.0×108m/sで変わりません。
このように相対論領域では速度の合成則は単純な足し算では表せなくなります。
④ 質量とエネルギーの関係式
出ました、超有名なこの式:

これは「質量は、それ自体がエネルギーのかたまりである」という意味。
たとえば電子の質量をこの式でエネルギーに変換すると、0.511 MeVになります。
この値は、PETやγ線の話でもたびたび出てくる重要な数字です。
実はこの式、ちょっと賛否を呼ぶことがあります。
賛否を呼ぶ理由
これは「物体の速度が光速に近付くにしたがって質量が増加する」という説を是とするか非とするかです。
私が放物を教わった先生は、これを非とする側でした。
質量は変わることはない。20年以上前に証明されている。
質量は変わらないのだから、「静止質量」という言葉自体が可笑しなものだ!
と言うのです。
これに対し、KEKを見学した際の解説員さんはこう説明してくれました。
加速器でどんどん加速していくと、物体の速度は光速に近付いていく。
でもE=mc2という式より、光速を超えることはできないから、一定以上のエネルギーよりは加速できなくなるのか?
そんなことはなく、それ以上のエネルギーを上げることができる。
どうやるのか?
その場合は、質量が増していけば良いんだよ。と。
どちらが正しいのか?
まぁ、放射線技師には関係ないな。
物理屋さんが悩んでくれれば良いことです。
我々は求められる画像検査を提供し、診断に有用な写真を提供すれば良いのです。
それぞれの役割分担があろうに。
私は、「どっちでも良い」派です。

我々の性分は画像の提出ですからね。
そこを履き違えてはいけません。
こういった議論は専門家に任せて、我々は患者さんを見ましょう。
実際の問題を見ていきましょう

2006年に実施された第58回からのご紹介。
解答を確認する。
正解は 2 です。
何を隠そう、ワタクシたなまるが受けた国試がこの第58回です。
今回のページやワークのA08はこの問題を解くために書いたようなものです。
見ていただいてお分かりのように、現象の中身までは言及されません。
関係のある項目さえ分かっていれば得点できます。
当然ながら、関係ないのは 黒体輻射 ですね。
黒体輻射とは、高温の物体が出す光のことです。
たとえば、熱くなった鉄が赤く光るのも黒体輻射の一例です。
物理の歴史では、この現象の説明が難しく、19世紀末に「紫外破綻(しがいはたん)」という矛盾が発生しました。
この問題を解決するために、プランクが「量子」の考え方を導入し、後の量子論につながりました。
➡ つまり、黒体輻射は量子論の始まりに関する話であり、特殊相対性理論とは別の分野です。
医療現場での関わり
今日の内容が医療現場のどこで応用されているかというと・・・
放射線治療における陽子線・重粒子線です。

- 陽子線治療や重粒子線治療では、粒子が光速に近い速度で加速されます。
- このとき、相対論的質量増加や時間の遅れといった相対性理論の効果を考慮しないと、正確な照射計算ができません。
つまり、相対性理論を理解することが、治療精度の向上につながるわけなんです!
まとめ

今回の話に出てきた質量エネルギーは、のちに出てくる『壊変』や『陽電子の消滅』にも深く関わる内容だよ。
『0.511 MeVってそういう意味か!』ってつながる日がきっと来るから、今のうちにイメージをつかんでおこう!
次に読むならコレ!電爺的おすすめ内部リンク

ほれ、ここまで読んだんなら、次はこのあたりを見ておくとえぇぞい。
次に読むならコレ!たまのすけおすすめ外部リンク

ここまで読んできた皆さんなら、もう一歩踏み込んだ知識に触れてみたくなるはずです。そんな方におすすめの外部リンクを紹介しますね。
光の速さはなぜ一定?(NHK for School)
「光速が一定という性質が、どれだけ不思議なことなのかをアニメで楽しく学べます。」
DOE Explains… Relativity(米エネルギー省)
「質量とエネルギーの関係や、光速の定数性。専門家が易しくまとめています」