放射性壊変にはいくつかの種類があり、その代表的なものの一つが「α壊変」です。
α壊変では、原子核からα粒子が放出され、別の原子核へと変化します。
では、α壊変はどのような原子核で起こり、放出されるα粒子のエネルギーにはどのような特徴があるのでしょうか。
今回は、α壊変の仕組みから壊変エネルギーの分配までを見ていきましょう。
α壊変の特徴
α壊変は、放射性壊変の代表的な形式の一つです。
原子核からα粒子が放出されることで、原子番号と質量数が変化します。
まずは、α壊変の基本的な仕組みと特徴から見ていきましょう。
α壊変の仕組み
α壊変とは、不安定な原子核がα粒子を放出し、別の原子核へと変化する現象です。
α粒子の正体は、質量数4、原子番号2のヘリウム原子核です。
陽子2個と中性子2個で構成されており、電子を持たないため、電荷は+2となります。
α壊変が起こると、原子核から陽子2個と中性子2個が失われるため、娘核種の質量数は4減少し、原子番号は2減少します。
例えば、ラジウム226がα壊変すると、ラドン222へと変化します。
²²⁶Ra → ²²²Rn + ⁴He
このように、α壊変では元素そのものが別の元素へと変化するのが特徴です。
α壊変が起こりやすい原子核
α壊変は、原子番号の大きい核種で起こりやすい壊変形式です。
特に、ウランやラジウムなどの重い原子核で多く見られます。
原子番号が大きくなると、原子核内の陽子の数が増え、陽子同士の電気的な反発力も大きくなります。
そのため、重い原子核の中には、α粒子を放出することで、より安定した状態へ変化するものがあります。
α壊変によるエネルギーの放出
放射性壊変の際に放出されるエネルギーを、壊変エネルギーといいます。
壊変エネルギーは、記号Qで表されるため、Q値とも呼ばれます。
壊変前後では原子核の質量が変化し、その質量差に相当するエネルギーが放出されます。
α壊変の場合、壊変エネルギーは娘核種の運動エネルギーに変換され、その分配比率は核種の種類によって異なります。
α壊変で放出されるα粒子のエネルギーは、多くの場合4〜9MeV程度です。
また、α壊変では特定のエネルギーを持つα粒子が放出されるため、α粒子のエネルギースペクトルは線スペクトルとなります。
これは、原子核のエネルギー状態が連続的ではなく、決まった値を持つためです。
α粒子のエネルギーと壊変定数
α壊変で放出されるα粒子のエネルギーは、核種によって異なります。
そして、このエネルギーの大きさは、壊変の起こりやすさとも深い関係があります。
ここでは、α粒子のエネルギーと壊変定数の関係、さらにα粒子が原子核の外へ放出される仕組みを見ていきましょう。
ガイガー・ヌッタルの法則
α壊変では、放出されるα粒子のエネルギーが大きい核種ほど、壊変が起こりやすいという特徴があります。
つまり、壊変定数の大きい核種ほど、半減期が短く、放出するα粒子のエネルギーが大きくなります。
この関係を、ガイガー・ヌッタルの法則といいます。
壊変定数とは、単位時間あたりに原子核が壊変する確率を表す量です。
壊変定数が大きいほど壊変が起こりやすく、半減期は短くなります。
したがって、ガイガー・ヌッタルの法則では、次の関係が成り立ちます。
- α粒子のエネルギーが大きい → 壊変定数が大きい → 半減期が短い
- α粒子のエネルギーが小さい → 壊変定数が小さい → 半減期が長い
α粒子のエネルギーと半減期には、このような関係があることを覚えておきましょう。
トンネル効果
では、α粒子はどのようにして原子核の外へ放出されるのでしょうか。
原子核の内部では、α粒子は核力によって閉じ込められています。
さらに、α粒子と娘核種はどちらも正の電荷を持っているため、原子核の外へ出るには、電気的な反発力によるエネルギーの壁を越える必要があります。
この壁を「クーロン障壁」といいます。
α粒子のエネルギーは一般に4〜9MeV程度ですが、クーロン障壁の高さは25MeV程度以上です。
普通に考えれば、エネルギーが足りないα粒子は、この壁を越えられないはずですよね。
ところが、量子力学の世界では、粒子がエネルギーの壁を越えるだけのエネルギーを持っていなくても、一定の確率で壁を通り抜けることがあります。
この現象を、トンネル効果といいます。
α粒子は、このトンネル効果によって原子核の外へ放出されるのです。
また、α粒子のエネルギーが大きいほど、クーロン障壁を通り抜ける確率も高くなります。
これが、α粒子のエネルギーが大きい核種ほど壊変定数が大きくなる理由です。

どうやって穴掘るんや?

いやいや。
掘っているように見えるだけで、実際には掘ってないよ。

なんや。
ガテン系やと思たのに。
α壊変のQ値とエネルギー分配
α壊変では、α粒子だけでなく、娘核種も運動エネルギーを持ちます。
では、壊変によって放出されたエネルギーは、α粒子と娘核種にどのような割合で分配されるのでしょうか。
ここでは、壊変エネルギーの分配について、実際の計算例を使って見ていきましょう。
壊変エネルギーとQ値
放射性壊変の際に放出されるエネルギーを壊変エネルギーといい、Q値とも呼びます。
α壊変では、壊変前後の質量差に相当するエネルギーが、α粒子と娘核種の運動エネルギーに分配されます。
例えば、壊変前の原子核が静止していて、娘核種が励起されない場合、Q値は次のように表せます。
Q = Eα + E娘核種
つまり、α粒子と娘核種が持つ運動エネルギーを合計すると、Q値になるということです。
質量数の逆比によるエネルギー分配
α壊変のQ値は、α粒子と娘核種の質量数の逆比で分配されます。
これは、運動量保存の法則によるものです。
壊変前の原子核が静止している場合、α粒子と娘核種は互いに反対方向へ飛び出します。
このとき、両者の運動量の大きさは等しくなります。
運動量 $ p $ は「 $ p=mv $ 」で求められるため、質量が小さいα粒子ほど、速度が大きくなるのです。
※mは質量、vは速度です。
一方、運動エネルギーは「質量×速度の2乗÷2」で求められます。
$$
E=\frac{1}{2}mv^2
$$
つまり、運動エネルギーには速度が2乗で影響するため、質量の小さいα粒子の方が大きな運動エネルギーを持つことになります。
実際に、運動量をp、質量をmとすると、運動エネルギーEは次のように表せます。
$$
E = \frac{p²} {2m}
$$
この式から、運動量が等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例することがわかります。
例えば、娘核種の質量数が143の場合、α粒子の質量数は4なので、運動エネルギーの比率は次のようになります。
娘核種:α粒子 = 4:143
このように、α壊変では質量の小さいα粒子がQ値の大部分を受け取り、質量の大きい娘核種にはわずかなエネルギーしか分配されません。

なんかイメージしにくいな・・・

じゃ、私と牛助ちゃんで尻相撲したらどうなる?

そら、軽い方が吹っ飛ぶやろな。

そういうこと。
お互いに押し合うと、軽い方が早く動くんだ。

ほな、オレが吹っ飛ぶやん!

牛助ちゃん・・・
サマリウム147のα壊変と計算例
実際に、サマリウム147がα壊変してネオジム143になる場合を考えてみましょう。
サマリウム147は、α粒子を放出することでネオジム143へと変化します。
¹⁴⁷Sm → ¹⁴³Nd + ⁴He + 2.23 MeV
この壊変のQ値は2.23MeVです。

娘核種とα粒子の質量数の比率は143:4なので、Q値の分配比は4:143になります。
したがって、α粒子の運動エネルギーEαは、次のように求められます。
$$
\begin{aligned}
E_α&=2.23 \times \frac{143}{143+4} \\[6pt]
&=2.17 \mathrm{[MeV]}
\end{aligned}
$$
一方、娘核種の運動エネルギーE娘核種は、次のようになります。
$$
\begin{aligned}
E_娘&=2.23 \times \frac{4}{143+4} \\[6pt]
&=0.06 \mathrm{[MeV]}
\end{aligned}
$$
壊変エネルギーは核種によって決まった値になり、その比率も質量数で固定されます。
ゆえにα粒子の運動エネルギーは1つに定まり、線スペクトルを示すことにもつながります。
実際の過去問を見てみよう
2015年に実施された第67回国家試験からAM72のご紹介。
ただし、複数解だったため、オリジナルより加工してあります。
α崩壊で正しいのはどれか。2つ選べ。
- 天然に存在する系列には2つの種類がある。
- 娘核とα粒子の質量の和は親核の質量に等しい。
- クーロン障壁のエネルギーよりも小さくても生じる。
- トンネル効果は量子力学で説明することができる。
- 放射されるα粒子の運動エネルギーは連続スペクトルとなる。
答えを確認する。
正解は 3と4 です。
できましたか?
- 誤り
天然に存在する放射性壊変系列は4種類(トリウム系列、アクチニウム系列、ウラン系列、ネプツニウム系列)。
そのうち天然のネプツニウム系列は短半減期のため消滅済み。
現存する天然放射性壊変系列は3種類。
現存するネプツニウム系列は人工的に製造されたもの。 - 誤り
壊変前後で保存されるのは質量数。
質量は保存されないので注意が必要。 - 正解
- 正解
- 誤り
線スペクトルでしたね。
医療現場でのかかわり
α壊変によって放出されるα線は、がんの治療にも利用されています。
その代表例が、放射性医薬品のラジウム223を用いた治療です。
ラジウム223はα壊変する放射性核種で、カルシウムと似た性質を持つ骨親和性核種です。
そのため、骨代謝が活発な部位に集積する特徴があり、主に前立腺がんが骨転移した患者の骨転移巣を治療するために使用されます。
α線には、物質中を進める距離が短く、狭い範囲に大きなエネルギーを与えるという特徴があります。
ラジウム223が骨転移巣周辺に集積すると、放出されたα線が近くのがん細胞に大きな損傷を与えます。
これにより、周囲の正常組織への影響を比較的抑えながら、骨転移巣を治療することができます。
このように、α壊変は原子核の変化を説明するだけでなく、実際の放射線治療にもかかわっているのです。

前立腺がんの治療ではなくて、
骨転移した部分の治療だよ。
まとめ
今回は、α壊変の仕組みと特徴、α粒子のエネルギーについて学びました。
最後に、重要なポイントを振り返ってまとめていきましょう。
- α壊変は、原子番号の大きい核種で起こりやすい。
- α粒子は、質量数4、原子番号2のヘリウム原子核である。
- α壊変すると、原子番号は2、質量数は4減少する。
- α粒子のエネルギーは一般に4〜9MeV程度で、線スペクトルを示す。
- ガイガー・ヌッタルの法則では、α粒子のエネルギーが大きい核種ほど壊変定数が大きく、半減期は短い。
- α粒子は、トンネル効果によってクーロン障壁を通り抜ける。
- α壊変のQ値は、α粒子と娘核種の運動エネルギーに分配される。
- α粒子と娘核種の運動エネルギーは、質量数の逆比で分配される。

α壊変では、軽いα粒子が壊変エネルギーの大部分を受け取るんだ。
質量数の逆比という関係を覚えておこう!
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
- D04:壊変図
- E03:荷電粒子の阻止能
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有



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