C18 コンプトン散乱の散乱角・反跳角

コンプトン散乱では、入射した光子のエネルギーが散乱光子と反跳電子に分配されます。
このとき重要になるのが、光子がどの方向へ散乱したかを表す散乱角と、電子がどの方向へ飛び出したかを表す反跳角です。
散乱角が変わると、散乱光子のエネルギーや波長、反跳電子が受け取るエネルギーも変化します。
そのため、散乱角とエネルギーの関係を押さえておくことが、コンプトン散乱を理解するうえで大切です。

さらに、コンプトン散乱ではコンプトン端連続スペクトルといった特徴も現れます。
今回は、散乱角と反跳角を中心に、散乱光子と反跳電子のエネルギーがどのように変化するのかを見ていきましょう。

コンプトン散乱の散乱角と反跳角

コンプトン散乱では、入射光子が電子と衝突したあと、散乱光子反跳電子がそれぞれ異なる方向へ進みます。
このとき、それぞれがどの方向へ進んだのかを表すのが散乱角反跳角です。

散乱角と反跳角は、散乱光子と反跳電子が受け取るエネルギーとも深く関係しています。
まずは、それぞれの角度が何を表しているのかを確認していきましょう。

散乱角と反跳角の範囲

散乱角とは、入射光子の進行方向と散乱光子の進行方向がつくる角度です。
散乱光子は入射方向と同じ向きから真後ろまで進むことができるため、散乱角は0°〜180°の範囲をとります。

散乱角が0°に近い場合、光子はほとんど進行方向を変えずに散乱します。
反対に、散乱角が180°の場合は、光子が入射方向とは正反対の方向へ散乱します。
このような散乱を後方散乱といいます。

厳密にいえば、進行方向に対して90°以上の散乱を後方散乱というんだ。

一方、反跳角とは、入射光子の進行方向と反跳電子の進行方向がつくる角度です。
反跳電子は入射光子の進行方向より後方へ進むことはないため、反跳角は0°〜90°の範囲をとります。

つまり、光子は前方にも後方にも散乱できますが、反跳電子は基本的に前方へ飛び出すという違いがあります。

散乱角によるエネルギー分配の変化

コンプトン散乱では、入射光子がもっていたエネルギーの一部が電子へ与えられます。
そのため、散乱後は入射光子のエネルギーが、散乱光子のエネルギー反跳電子の運動エネルギーに分配されます。

このエネルギー分配を決める重要な要素が散乱角です。

散乱角が小さいほど、散乱光子は入射光子のエネルギーを多く保ったまま進みます。
そのため、反跳電子へ与えられるエネルギーは小さくなります。

反対に、散乱角が大きくなるほど散乱光子のエネルギーは小さくなり、その分だけ反跳電子へ与えられるエネルギーが大きくなります。

特に散乱角が180°になると、散乱光子のエネルギーは最小となり、反跳電子の運動エネルギーは最大となります。

このとき反跳電子が受け取る最大の運動エネルギーが、あとで出てくるコンプトン端につながります。

入射光子のエネルギーと散乱方向

コンプトン散乱では、散乱角だけでなく入射光子のエネルギーによっても散乱の方向に特徴が現れます。

入射光子のエネルギーが低い場合は、散乱光子は比較的さまざまな方向へ散乱します。
一方、入射光子のエネルギーが高くなるほど、散乱光子は前方へ散乱しやすくなります

このとき反跳電子も前方に出やすくなるのよね。

つまり、高エネルギーの光子ほど大きく方向を変えにくく、もとの進行方向に近い方向へ散乱する割合が増えていきます。

また、入射光子のエネルギーが高くなるほど、反跳電子に分配されるエネルギーの割合は大きくなります。
一方、散乱光子に分配されるエネルギーの割合は小さくなります。

つまり、入射光子のエネルギーが高くなるほど、散乱光子よりも反跳電子へ多くのエネルギーが分配されるようになります。

この性質は、診断領域や放射線治療領域で散乱線の方向を考えるときにも重要になります。

散乱角と散乱前後の波長差

コンプトン散乱では、散乱光子の波長は入射光子の波長より長くなります。
そして、散乱前後の波長差は散乱角によって決まります

散乱前後の波長差を$\Delta λ$とすると、次の式で表されます。

$\Delta λ=λ’-λ=\frac{h}{mc}(1-\cos φ)$

また、

$\frac{h}{mc}=0.024\times10^{-10}\ \mathrm{[m]}$

なので、

$\Delta λ=0.024\times10^{-10}(1-\cos φ)$

と表すこともできます。

ここで、$λ$は入射光子の波長、$λ’$は散乱光子の波長、$φ$は散乱角です。

この式で注目したいのは、右辺で変化するのが散乱角$φ$だけという点です。
つまり、コンプトン散乱における散乱前後の波長差は散乱角のみに依存します

散乱前後の波長差は散乱角のみに依存する

散乱角$φ$が大きくなるほど、$(1-\cos φ)$の値は大きくなります。
そのため、散乱角が大きくなるほど散乱前後の波長差も大きくなります

散乱角が$0°$のときは、

$\cos 0°=1$

なので、

$1-\cos 0°=0$

となります。
したがって、散乱前後の波長差は0です。

国家試験では、式を見たときに散乱前後の波長差は散乱角$φ$のみに依存すると判断できるようにしておきましょう。

散乱角180°で散乱前後の波長差は最大

散乱前後の波長差が最大になるのは、散乱角が180°のときです。

散乱角が$180°$では、

$\cos 180°=-1$

なので、

$1-\cos 180°=2$

となります。

したがって、散乱角が180°のとき、散乱前後の波長差は最大になります。

また、波長が長い光子ほどエネルギーは小さくなるため、このとき散乱光子のエネルギーは最小になります。
その分、反跳電子に与えられるエネルギーは最大になります。

つまり、国家試験では、

散乱角180° (反跳角0°)→ 散乱前後の波長差が最大 → 散乱光子のエネルギーが最小 → 反跳電子のエネルギーが最大

というつながりで押さえておきましょう。

コンプトン端

コンプトン散乱では、入射光子のエネルギーが散乱光子と反跳電子に分配されます。
このとき、散乱角によってエネルギーの分配が変わるため、反跳電子が受け取るエネルギーにも上限があります。

この反跳電子の最大エネルギーをコンプトン端といいます。

散乱光子のエネルギーが最小になる条件

散乱光子のエネルギーが最小になるのは、散乱角$φ$が180°のときです。
このとき散乱光子は、入射光子の進行方向とは反対方向へ散乱します。

また、反跳角は0°となり、反跳電子は入射光子と同じ前方へ進みます。

つまり、

散乱角180°、反跳角0°

のとき、散乱光子のエネルギーは最小になります。

反跳電子のエネルギーが最大になる条件

入射光子のエネルギーは、散乱光子と反跳電子に分配されます。
そのため、散乱光子のエネルギーが最小になれば、その分だけ反跳電子に分配されるエネルギーは大きくなります。

したがって、散乱角$φ$が180°のとき、反跳電子のエネルギーは最大になります。

この反跳電子の最大エネルギーがコンプトン端です。

国家試験では、

散乱角180° → 散乱光子のエネルギー最小 → 反跳電子のエネルギー最大 → コンプトン端

というつながりで押さえておきましょう。

コンプトン散乱の起こりやすさ

前回登場したクライン・仁科の式では、散乱角$φ$によってコンプトン散乱の起こりやすさがどのように変わるのかを見ました。
ここでは視点を変えて、物質の原子番号$Z$と入射光子のエネルギー$E$によって、コンプトン散乱の起こりやすさがどのように変化するのかを見ていきます。

国家試験では、原子断面積と質量減弱係数が、それぞれ$Z$と$E$にどのように依存するかが問われることもあります。

原子断面積は原子番号に比例する

コンプトン散乱の原子断面積$_a\sigma$は、次の関係で表されます。

$_a\sigma\propto\frac{Z}{E}$

この式から、原子断面積は原子番号$Z$に比例することがわかります。

つまり、入射光子のエネルギーが同じであれば、原子番号$Z$が大きいほどコンプトン散乱の原子断面積は大きくなります。

原子断面積は光子エネルギーに反比例する

同じ式、

$_a\sigma\propto\frac{Z}{E}$

から、原子断面積は入射光子のエネルギー$E$に反比例することもわかります。

そのため、原子番号$Z$が同じであれば、入射光子のエネルギーが高くなるほどコンプトン散乱の原子断面積は小さくなります。

国家試験では、

原子断面積は$Z$に比例し、$E$に反比例する

という関係をそのまま押さえておきましょう。

質量減弱係数は光子エネルギーに反比例する

コンプトン散乱の質量減弱係数$\sigma/\rho$は、次の関係で表されます。

$\frac{\sigma}{\rho}\propto\frac{1}{E}$

つまり、コンプトン散乱の質量減弱係数は入射光子のエネルギー$E$に反比例します。

入射光子のエネルギーが高くなるほど、コンプトン散乱の質量減弱係数は小さくなると覚えておきましょう。

コンプトン散乱のエネルギースペクトル

コンプトン散乱では、散乱角によって散乱光子と反跳電子へのエネルギー分配が変化します。
そのため、散乱光子と反跳電子は特定の1つのエネルギーだけをもつのではなく、さまざまなエネルギーをもちます。

このことから、散乱光子と反跳電子はいずれも連続スペクトルとなります。

散乱光子は連続スペクトルになる

散乱光子のエネルギーは、散乱角$φ$によって変化します。
散乱角が小さいほど散乱光子のエネルギーは大きく、散乱角が大きくなるほど散乱光子のエネルギーは小さくなります。

実際のコンプトン散乱ではさまざまな散乱角が生じるため、散乱光子もさまざまなエネルギーをもちます。
したがって、散乱光子は連続スペクトルとなります。

反跳電子も連続スペクトルになる

反跳電子が受け取るエネルギーも、散乱角$φ$によって変化します。
散乱角が小さいと反跳電子に分配されるエネルギーは小さく、散乱角が大きくなるほど反跳電子に分配されるエネルギーは大きくなります。

そのため、反跳電子もさまざまなエネルギーをもち、連続スペクトルとなります。

コンプトン散乱では、1回の相互作用によって散乱光子と反跳電子という2種類の放射線が生じます。
そして、どちらも連続スペクトルになることを押さえておきましょう。

実際の過去問を見てみよう

ちょっと(いや、かなり)古いですが・・・
2006年に実施された第58回国家試験から問47のご紹介。
何を隠そう、この58回はワタクシたなまるが受験した年です。

第58回 2006年 問47

コンプトン散乱で誤っているのはどれか。2つ選べ。

  1. 前方に散乱される光子ほどエネルギーが小さい。
  2. エネルギー保存則と運動量保存則とによって説明できる。
  3. 散乱光子の中には入射光子の振動数より大きいものが含まれる。
  4. 入射光子と散乱光子とのエネルギー差は入射光子のエネルギーに依存する。
  5. 入射光子のエネルギーが大きいほど反跳電子のエネルギーも相対的に大きい。
答えを確認する。


正解は 1と3 です。

どうでしょう?できましたか?
今ではありえない「誤りを2つ選ばせる」というスタイルの出題です。
時代を感じますね。間違っていないですよ。オリジナルでこの方式でした。

  1. 誤り
    前方に散乱される光子ほどエネルギーは高くなります。
  2. 正解
    頻出枝です。覚えましょう。
  3. 誤り
    散乱光子の最大エネルギーは入射光子と同じですから、振動数も入射光子と同じが最大値になります。
  4. 正解
    散乱光子の式中に入射光子のエネルギーが含まれていますからね。
    そのエネルギー差も当然依存関係にあります。
  5. 正解
    C17:コンプトン散乱で反跳電子の式を確認してみてください。

それにしても、今ではよく見る枝も、この年に初登場だったものが多いです。
この年の合格率を資格・検定の森さんで調べてみると・・・

なんと驚異の 62.6% 

新卒合格率は80%(全体としては75%くらい)を超えるような診療放射線技師試験において、この数字は圧倒的に低いですよね。

問題に問題ありというやつですね。

難しかった記憶がありますよ・・・
もうこんな難易度の国試はやめてもらいたいですね。
学生が泣きますよ。

医療現場でのかかわり

コンプトン散乱によって患者から放出される散乱光子は、医療従事者が受ける被ばくの原因になります。
そのため、放射線防護を考えるうえでは、散乱光子が「どの方向へ、どのくらいのエネルギーで飛んでいくのか」を知っておくことが大切です。

今回学んだように、散乱光子のエネルギーは散乱角$φ$によって変化します。
また、入射光子のエネルギーが高くなるほど、散乱光子は前方へ散乱しやすくなります。

つまり、散乱線はすべて同じ方向、同じエネルギーで飛んでいるわけではありません。
散乱線の方向やエネルギーを考えながら、患者から距離をとる、防護板を利用するなどの対策を行うことが、医療従事者の被ばく低減につながります。

コンプトン散乱の散乱角やエネルギー分配は、国家試験のためだけの知識ではなく、実際の放射線防護を考えるための基礎にもなっています。

まとめ

今回は、コンプトン散乱における散乱角と反跳角、散乱前後の波長差、エネルギー分配について学びました。
最後に、国家試験で押さえておきたいポイントを振り返ってまとめていきましょう。

  • 散乱角は0°〜180°、反跳角は0°〜90°の範囲をとる
  • 散乱角が180°のとき、散乱光子のエネルギーは最小、反跳電子のエネルギーは最大となる
  • 反跳電子の最大エネルギーをコンプトン端という
  • 散乱前後の波長差は、$\Delta λ=λ’-λ=\frac{h}{mc}(1-\cos φ)$で表され、散乱角$φ$のみに依存する
  • 入射光子のエネルギーが高くなるほど、散乱光子と反跳電子は前方に出やすくなる
  • 入射光子のエネルギーが高くなるほど、反跳電子に分配されるエネルギーの割合は大きくなる
  • 原子断面積は$_a\sigma\propto\frac{Z}{E}$、質量減弱係数は$\frac{\sigma}{\rho}\propto\frac{1}{E}$となる
  • 散乱光子と反跳電子は、どちらも連続スペクトルとなる

散乱角が変わると何が変わるのかをつなげて覚えておけば、コンプトン散乱の問題はかなり判断しやすくなりますよ。

次に読むならコレ!レントゲン博士のおすすめ内部リンク

次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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