原子核が放射線を放出して、別の原子核に変わる現象を「放射性壊変」といいます。
その中でも、原子番号が変化するのに、質量数は変わらないという特徴をもつのが「β壊変系」です。
β壊変系には、β⁻壊変、β⁺壊変、軌道電子捕獲の3つの形式があります。
また、β壊変では「ニュートリノ」と呼ばれる粒子が重要な役割を果たしています。
今回は、β壊変系の3つの形式を紹介するとともに、β線のエネルギーやニュートリノの基本的な性質について大まかに見ていきましょう。
β壊変系の3つの形式
β壊変系には、β⁻壊変、β⁺壊変、軌道電子捕獲の3つの形式があります。
いずれも原子核の中で陽子と中性子の数が変化する現象ですが、その変化の仕方には違いがあります。
まずは、それぞれの特徴を見ていきましょう。
β⁻壊変
陰電子を放出し、原子核の中にある中性子が陽子に変わる現象をβ⁻壊変といいます。
このとき、反ニュートリノも放出されます。
中性子が陽子に変わるため、原子番号は1増加しますが、質量数は変化しません。
β⁻壊変の詳しい仕組みは、次の記事で紹介します。
β⁺壊変
陽電子を放出し、原子核の中にある陽子が中性子に変わる現象をβ⁺壊変といいます。
このとき、ニュートリノも放出されます。
陽子が中性子に変わるため、原子番号は1減少しますが、質量数は変化しません。
β⁺壊変の詳しい仕組みは、次の記事で紹介します。
軌道電子捕獲
電子の放出を伴わず、原子核の中にある陽子が中性子に変わる現象を軌道電子捕獲といいます。
この現象では、原子核が軌道電子を捕獲し、ニュートリノを放出します。
β⁺壊変と同じように、原子番号は1減少しますが、質量数は変化しません。
なお、軌道電子捕獲では、β⁻壊変やβ⁺壊変とは異なり、β線は放出されません。
軌道電子捕獲の詳しい仕組みは、次の記事で紹介します。
β壊変系と同重変換
β壊変系では、原子核の中にある陽子と中性子の数が変化しますが、陽子と中性子の合計数は変わりません。
そのため、β壊変系は質量数が変化しないので、同重変換ともいいます。
例えば、β⁻壊変では中性子が陽子に変わるため、原子番号は1増加します。
一方、β⁺壊変と軌道電子捕獲では陽子が中性子に変わるため、原子番号は1減少します。
このように、β壊変系では原子番号が変化しても、質量数は変化しないことが共通の特徴です。

どういうことや?

牛助はカレーでもラーメンでも10kg食べるだろ?
胃袋の中身は変わっても体重は変わらないってことさ。
β線のエネルギー
β⁻壊変やβ⁺壊変では、原子核からβ線が放出されます。
このβ線には、α線などとは異なるエネルギーの特徴があります。
β線の連続エネルギースペクトル
β線のエネルギースペクトルは、連続スペクトルです。
つまり、放出されるβ線のエネルギーは一定ではなく、さまざまな値をとります。
これは、β壊変で放出されるエネルギーが、β線とニュートリノ(または反ニュートリノ)に分配されるためです。
β線が受け取るエネルギーが大きければ、ニュートリノが受け取るエネルギーは小さくなります。
反対に、β線が受け取るエネルギーが小さければ、ニュートリノが受け取るエネルギーは大きくなります。
このように、エネルギーの分配割合が壊変ごとに異なるため、β線のエネルギーは連続的な分布を示します。
β線の最大エネルギーと平均エネルギー
β線のエネルギーは、最大値で表記します。
これは、β線が壊変ごとに異なるエネルギーをもつため、エネルギーの上限を基準にして表すということです。
また、β線のエネルギーの平均値は、最大値の約1/3で近似できます。
例えば、最大エネルギーが1.5 MeVのβ線であれば、平均エネルギーは約0.5 MeVと見積もることができます。
ただし、これはあくまで近似であり、実際の平均エネルギーは核種によって異なります。

あくまで近似よ。
だいたいってことね。
ニュートリノの性質
β壊変では、β線とともにニュートリノや反ニュートリノが放出されます。
ニュートリノは非常に小さな質量をもつ粒子で、物質とほとんど反応しないという特徴があります。
ここでは、ニュートリノの基本的な性質を見ていきましょう。
ニュートリノの質量とスピン
ニュートリノの質量は非常に小さく、ほぼ0とみなすことができます。
実際には質量をもつことが分かっていますが、放射線物理学では0として扱うことがあります。
また、ニュートリノのスピンは1/2です。
スピンとは、粒子がもつ角運動量の一種で、素粒子の性質を表す重要な物理量です。
ニュートリノには左巻き、反ニュートリノには右巻きという特徴があります。
これは、粒子の進行方向に対するスピンの向きの違いを表しています。
ニュートリノに作用する力
ニュートリノに作用する力は、素粒子の相互作用のうち、重力を除けば弱い力だけです。
弱い力は、β壊変を引き起こす相互作用でもあります。
ニュートリノは電荷をもたないため、電磁気力による相互作用を起こしません。
また、強い力による相互作用も起こさないため、物質の中を通過してもほとんど反応しません。
そのため、ニュートリノは非常に検出が難しい粒子として知られています。

ちょい待ち!
質量が0なら、重力の影響もないんちゃうか?

おっ!牛助、珍しく鋭いじゃないか!
実は重力は質量のないものにも影響を与えるんだ。
質量のない光子だって、重力の影響はあるんだよ。

まぁまぁ。国試には出ないからその辺で・・・
実際の過去問を見てみよう
1999年に実施された第51回国家試験から問21のご紹介。
相変わらず古い問題が大好きなんです。笑
β壊変について誤っているのはどれか。
- β⁻壊変では核内の中性子が崩壊する。
- 電子捕獲ではニュートリノが放出される。
- 電子捕獲に引き続いて特性エックス線または電子が放出される。
- β⁻壊変に伴うニュートリノのエネルギーは連続スペクトルである。
- β壊変では質量数が変わる。
答えを確認する。
正解は 5 です。
できましたか?
β壊変は同重変換です。
核子の構成は変わっても、質量数に変化はありません。
医療現場でのかかわり
β線は、核医学治療で使用される放射線の一つです。
例えば、肝臓がんなどの治療に利用されるイットリウム90(⁹⁰Y)は、β⁻壊変によってβ線を放出する放射性核種です。
β線は連続エネルギースペクトルをもつため、放出される電子のエネルギーは一定ではありません。
また、電子のエネルギーによって物質中を進む距離も異なります。
そのため、核医学治療では、β線のエネルギーや飛程を考慮することが重要になります。
一方、β線を放出する放射性医薬品を取り扱う際には、放射線防護にも注意が必要です。
β線の遮蔽にはアクリルなどの材料が利用されますが、原子番号の大きな物質では制動放射線の発生にも注意しなければなりません。
このように、β線のエネルギーに関する知識は、核医学治療だけでなく、医療従事者の放射線防護にも役立っています。
まとめ
今回は、β壊変系の3つの形式と、β線のエネルギー、ニュートリノの性質について学びました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。
- β⁻壊変は、陰電子を放出し、中性子が陽子に変わる現象。
- β⁺壊変は、陽電子を放出し、陽子が中性子に変わる現象。
- 軌道電子捕獲は、原子核が軌道電子を捕獲し、陽子が中性子に変わる現象。
- β壊変系は質量数が変化しないため、同重変換ともいう。
- β線のエネルギースペクトルは連続スペクトルであり、エネルギーは最大値で表す。
- β線の平均エネルギーは、最大エネルギーの約1/3で近似できる。
- ニュートリノの質量はほぼ0とみなすことができ、スピンは1/2である。
- ニュートリノに作用する力は、重力を除けば弱い力だけである。
β壊変系では、原子番号が変化しても質量数は変わらないことが大切なポイントです。
それぞれの壊変の仕組みについては、続く記事で詳しく見ていきましょう。

β壊変系は3つの形式を区別して、それぞれの特徴を押さえておこう!
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有



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