原子核の中にある陽子が中性子に変わる現象には、β⁺壊変のほかにも別の仕組みがあります。
それが、原子核が周囲の電子を捕まえる「軌道電子捕獲」です。
では、原子核が電子を捕まえると、なぜ陽子が中性子に変わるのでしょうか。
また、β⁺壊変とはどのような違いがあるのでしょうか。
今回は、軌道電子捕獲の仕組みと特徴について見ていきましょう。
軌道電子捕獲の仕組み
β⁺壊変では、原子核の中にある陽子が中性子に変わるとき、陽電子とニュートリノが放出されました。
実は、陽子を中性子に変える方法はもう1つあります。
それが、原子核が周囲の電子を捕まえる「軌道電子捕獲」です。

陽子から中性子への変化
軌道電子捕獲とは、原子核が周りの軌道電子を捕獲し、陽子と結合することで中性子に変わる現象です。
β⁺壊変では陽子が陽電子を放出して中性子に変わりましたが、軌道電子捕獲では陽子が電子を取り込むことで中性子に変わります。
つまり、どちらも陽子が中性子に変わる現象ですが、その仕組みが異なるわけですね。
なお、軌道電子捕獲はECと表記されることもあります。
これは、英語の「Electron Capture」の略です。

Catchやと思っとったわ。

紛らわしいよな。
実は主任者試験でも出題されたことがあるんだ。
ニュートリノの放出
軌道電子捕獲では、陽子が中性子に変わるとき、原子核の外へニュートリノを単独で放出します。
ここで注目したいのが、ニュートリノのエネルギーです。
β⁺壊変では陽電子とニュートリノがエネルギーを分け合うため、それぞれのエネルギーは連続スペクトルになります。
一方、軌道電子捕獲ではニュートリノが単独で放出されるため、エネルギーは線スペクトルになります。
ただし、捕獲される電子の殻によってニュートリノのエネルギーは異なるため、線スペクトルには複数の線が現れることがあります。
同じニュートリノでも、β⁺壊変と軌道電子捕獲ではエネルギースペクトルが異なることを覚えておきましょう。
原子番号と質量数の変化
軌道電子捕獲では、原子核の中にある陽子が1個減り、中性子が1個増えます。
そのため、原子番号は1つ減少しますが、陽子と中性子の合計である質量数は変化しません。
これはβ⁺壊変と同じですね。
また、壊変図では、軌道電子捕獲は左下への矢印で示されます。
原子番号が1つ減少する一方、質量数は変化しないため、壊変図ではβ⁺壊変と同じ方向に進むわけです。
軌道電子捕獲の特徴
軌道電子捕獲では、陽子が中性子に変わることが分かりましたね。
ここからは、β⁺壊変との関係や、電子が捕獲された後に起こる現象について見ていきましょう。
β⁺壊変との競合とエネルギー条件
β⁺壊変と軌道電子捕獲は、どちらも陽子が中性子に変わる現象です。
そのため、同じ放射性核種で両方の壊変が起こることがあり、これを競合過程といいます。
ただし、β⁺壊変と軌道電子捕獲では、壊変に必要なエネルギーの条件が異なります。
β⁺壊変では陽電子を新たに生成するため、原子質量で考えると、壊変には1.022 MeV以上のエネルギーが必要です。
一方、軌道電子捕獲では、もともと原子内に存在する電子を捕獲するため、この条件は必要ありません。
つまり、β⁺壊変は起こせないものの、軌道電子捕獲なら起こせる核種が存在するわけです。
そのため、軌道電子捕獲(EC)が100%となる核種もあります。
K殻電子の捕獲
軌道電子捕獲では、原子核の周りに存在する軌道電子が捕獲されます。
ここで重要なのが、どの電子殻の電子が捕獲されやすいのかという点です。
軌道電子捕獲では、原子核に最も近いK殻の電子が最も捕獲されやすいという特徴があります。
これは、K殻電子が原子核の近くに存在する確率が高いためです。
ただし、K殻電子しか捕獲されないわけではありません。
L殻やM殻など、他の電子殻でも軌道電子捕獲は起こります。
特性X線とオージェ電子の放出

軌道電子捕獲では、原子核が軌道電子を捕獲するため、その電子が存在していた場所に空位が生じます。
例えば、K殻電子が捕獲された場合には、K殻に空位が生じます。
すると、外側の電子殻にある電子が内側の空位へ遷移し、原子はエネルギーを放出します。
このとき、特性X線が放出される場合と、オージェ電子が放出される場合があります。
つまり、軌道電子捕獲では、ニュートリノの放出に続いて、特性X線やオージェ電子の放出が起こるわけです。
なお、電子の遷移によって新たな空位が生じると、さらに別の電子が遷移するため、これらの放出が連続して起こることもあります。

ここで特性X線出てくるんか!
知っとるで~。

おっ!少しは勉強してるみたいだね。
色々と繋がっているんだよ。
実際の過去問を見てみよう
2022年に実施された第74回国家試験からAM71のご紹介。
ニュートリノの放出を伴うのはどれか。2つ選べ。
- β⁻壊変
- β⁺壊変
- 内部転換
- 核異性体転移
- 軌道電子捕獲
答えを確認する。
正解は 2と5 です。
できましたか?
ニュートリノはβ壊変系で放出されるものです。
その中でも反ニュートリノはβ⁻壊変、ニュートリノはβ⁺壊変と軌道電子捕獲の際に放出されます。
医療現場でのかかわり
軌道電子捕獲は、核医学検査に使用される放射性医薬品とも深い関係があります。
代表的な核種が、¹²³I(ヨウ素123)です。
¹²³Iは軌道電子捕獲によって¹²³Te(テルル123)に変わり、その過程で159 keVのγ線を放出します。
このγ線をガンマカメラで検出することで、体内に分布した放射性医薬品の様子を画像にすることができます。
¹²³Iは、甲状腺シンチグラフィや脳血流SPECTなど、さまざまな核医学検査に利用されています。
このように、軌道電子捕獲は原子核の中で起こる現象ですが、実際の画像診断にも関係しているんですよ。
まとめ
今回は、軌道電子捕獲の仕組みと特徴について学びました。
β⁺壊変との違いにも注目しながら、重要なポイントを振り返っておきましょう。
電子が捕獲された後には空位が生じ、特性X線やオージェ電子が放出される。
軌道電子捕獲(EC)は、原子核が周囲の軌道電子を捕獲し、陽子が中性子に変わる現象。
軌道電子捕獲では、ニュートリノが単独で放出され、そのエネルギーは線スペクトルとなる。
原子番号は1つ減少するが、質量数は変化しない。
壊変図では左下への矢印で示される。
β⁺壊変と競合するが、軌道電子捕獲のみが起こる核種も存在する。
K殻電子が最も捕獲されやすいが、他の電子殻でも起こる。

軌道電子捕獲では「陽子が中性子に変わる」「ニュートリノを放出する」「原子番号が1つ減る」の3つを、まず覚えておこう!
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この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有


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