C15 光電効果

光子が物質に入射すると、物質をつくる原子の電子と相互作用することがあります。
その代表的な現象のひとつが光電効果です。

光電効果では、光子がもつエネルギーを軌道電子にすべて与え、光子自身は消滅します。
では、電子が原子の外へ放出されるには、どのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか。

今回は、光電効果が起こる条件や光電子のエネルギー、光電効果が起こりやすくなる条件について見ていきましょう。

光電効果とは

光電効果は、光子と物質をつくる原子の軌道電子との間で起こる相互作用です。
光子が軌道電子にエネルギーを与えることで、電子が原子の外へ放出されます。

ここで大切なのは、光電効果では光子がエネルギーの一部だけを渡すのではなく、もっているエネルギーをすべて軌道電子に与えるという点です。

光子のエネルギーを軌道電子にすべて与える

光電効果では、入射した光子が軌道電子と相互作用し、自分のもっているエネルギーをすべて軌道電子に与えます。
そのため、エネルギーを渡した光子自身は消滅します。

つまり光電効果では、「光子が電子にぶつかって少しだけエネルギーを渡し、そのまま進んでいく」ということはありません。
光子のエネルギーを丸ごと受け取った軌道電子が、原子の外へ飛び出します。

光子は消滅して光電子が放出される

光電効果によって原子の外へ放出された電子を光電子といいます。
もともとは原子に結びついていた軌道電子ですが、光子からエネルギーを受け取ることで原子から電離します。

したがって、光電効果では光子が消滅して光電子が放出されると覚えておきましょう。

このとき、光子から受け取ったエネルギーのすべてを光電子が運動エネルギーとして使えるわけではありません。
まず原子から抜け出すために結合エネルギーが必要になります。
そして、残ったエネルギーを運動エネルギーとして使うことになります。

では、光電効果が起こるためには入射光子にどのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか。
次に、光電効果が起こる条件を見ていきましょう。

光電効果が起こる条件

光電効果は、光子が軌道電子に当たれば必ず起こるわけではありません。
軌道電子を原子の外へ電離させるには、その電子の結合エネルギーを上回るエネルギーが必要です。

ここでは、光電効果が起こるための条件と、放出される光電子のエネルギーについて見ていきましょう。

入射光子のエネルギーと結合エネルギー

軌道電子は、原子核に引きつけられて原子の中に存在しています。
この電子を原子から引き離すために必要なエネルギーが結合エネルギーです。

光電効果が起こるためには、入射光子のエネルギー $E_\gamma$ が軌道電子の結合エネルギー $I$ よりも大きくなければなりません。

$E_\gamma > I$

入射光子のエネルギーが結合エネルギーより小さい場合、その軌道電子を原子の外へ電離させることができないため、光電効果は起こりません。

つまり、光電効果が起こるかどうかは、入射光子のエネルギーが軌道電子の結合エネルギーを超えているかで判断できます。

光電子の運動エネルギー

光電効果では、入射光子がもつエネルギーを軌道電子にすべて与えます。
受け取ったエネルギーのうち、まず結合エネルギーの分が電子を原子から電離させるために使われ、残ったエネルギーが光電子の運動エネルギーになります。

光電子の運動エネルギーを $E_e$ とすると、次の式で表されます。

$E_e = E_\gamma – I$

たとえば、入射光子のエネルギーが80 keV、軌道電子の結合エネルギーが20 keVなら、光電子の運動エネルギーは60 keVです。

単位をkeVでそろえておけば、光子のエネルギーから結合エネルギーを引くだけで求められます。

また、原子内の各軌道にはそれぞれ決まった結合エネルギーがあります。
そのため、一定のエネルギーをもつ光子が入射した場合、放出される光電子の運動エネルギーも決まった値になります。

したがって、光電効果によって放出される光電子のエネルギースペクトルはスペクトルになります。

光電効果のあとに起こること

光電効果によって軌道電子が原子の外へ放出されると、電子が抜けた軌道には空位が生じます。
原子はこの不安定な状態のままではいられないため、外側の軌道にいる電子が空位へ遷移します。

このとき、軌道間のエネルギー差に相当するエネルギーが放出されます。

電子が抜けた軌道には空位が生じる

光電効果では、入射光子からエネルギーを受け取った軌道電子が原子から電離します。
電子がいなくなった軌道にできる空きを空位といいます。

特にK殻やL殻などの内側の軌道に空位が生じると、原子はエネルギーの高い不安定な状態になります。
そこで、より外側の軌道にいる電子が内側の空位へ遷移し、原子はより安定な状態へ向かいます。

特性X線またはオージェ電子が放出される

外側の軌道電子が内側の空位へ遷移すると、遷移する前後の軌道の結合エネルギーの差だけエネルギーが余ります。

このエネルギーが光子として放出されたものが特性X線です。
一方、このエネルギーが別の軌道電子に与えられ、その電子が原子の外へ放出される場合があります。

このとき放出される電子をオージェ電子といいます。

したがって、光電効果によって内側の軌道に空位が生じると、その後に特性X線またはオージェ電子が放出されると覚えておきましょう。

光電子が放出される方向

光電効果によって放出される光電子は、どの方向にも同じ確率で飛び出すわけではありません。
光電子が放出されやすい方向は、入射光子のエネルギーによって変化します。

ここでは、入射光子の進行方向を基準にして見ていきましょう。

光子エネルギーが低い場合

光電効果が起こる範囲内で入射光子のエネルギーが低い場合、光電子は入射光子の進行方向に対して側方へ放出される可能性が高くなります。

「側方」とは、入射光子の進行方向に対して横方向のことです。

光子エネルギーが高い場合

入射光子のエネルギーが高くなると、光電子は入射光子の進行方向と同じ前方へ放出される可能性が高くなります。

したがって、光電子の放出方向は、

低エネルギーでは側方、高エネルギーでは前方

と覚えておきましょう。

ただし、必ずその方向へ放出されるという意味ではありません。
あくまで、その方向へ放出される可能性が高くなるということです。

光電効果が起こりやすい条件

光電効果の起こりやすさは、どの軌道電子と相互作用するか、入射光子のエネルギー、物質の原子番号によって変化します。
国家試験では、それぞれが大きくなったときに光電効果が起こりやすくなるのか、起こりにくくなるのかを判断できるようにしておきましょう。

K殻の軌道電子で最も起こりやすい

光電効果は、光子のエネルギーが軌道電子の結合エネルギーを超えている場合、内側の軌道電子ほど起こりやすくなります。
そのため、光電効果はK殻の軌道電子で最も起こりやすいという特徴があります。

ただし、入射光子のエネルギーがK殻電子の結合エネルギーより小さければ、K殻電子を電離させることはできません。
光電効果が起こるためには、まず $E_\gamma > I$ を満たしていることが前提です。

光子エネルギーが低いほど起こりやすい

光電効果は、入射する光子エネルギーが高くなるほど起こりにくくなります。
反対に、光子エネルギーが低いほど光電効果の起こる割合は大きくなります。

ここでも、光子エネルギーが軌道電子の結合エネルギーを超えていることが前提です。
単純にエネルギーが低ければ低いほどよいというわけではなく、光電効果を起こせる範囲内で考えます。

国家試験では、

光子エネルギーが高くなる → 光電効果は起こりにくくなる

という関係を押さえておきましょう。

原子番号が大きいほど起こりやすい

光電効果は、物質の原子番号が高くなるほど起こりやすくなります。

つまり、同じエネルギーの光子が入射した場合には、原子番号の小さい物質よりも原子番号の大きい物質のほうが光電効果を起こしやすくなります。

国家試験では、

原子番号が高くなる → 光電効果は起こりやすくなる

という関係を、光子エネルギーとの関係とセットで覚えておきましょう。

実際の過去問を見てみよう

光電効果そのものを問う問題もありますが、光電効果関連知識を問うものもあります。
2025年に実施された第77回国家試験からPM61のご紹介。

第77回 2025年 PM61
光電効果が生じたときに放出されるのはどれか。2つ選べ。

  1. β 線
  2. δ 線
  3. 特性X線
  4. 内部転換電子
  5. Auger<オージェ>電子
答えを確認する。


正解は 3と5 です。

できましたか?

  1. 誤り
    β線は光電効果ではなく、β壊変に伴って放出される電子です。
  2. 誤り
    δ線は荷電粒子によって電離した二次電子のうち、電離能力を有するほどエネルギーの高いものです。光電効果とは無関係ですね。
  3. 正解
    本文を参照してください。
  4. 誤り
    内部転換電子はγ線の代わりに放出される電子です。
  5. 正解
    本文を参照してください。

医療現場でのかかわり

光電効果は、診断用X線による画像形成に深く関係しています。
人体にX線を照射すると、組織によって光電効果の起こりやすさが異なるため、X線の吸収される割合にも差が生じます。

骨が白く写る理由のひとつ

光電効果は、物質の原子番号が高いほど起こりやすいという特徴があります。
骨にはカルシウムが多く含まれているため、軟部組織と比べて光電効果が起こりやすく、X線がより多く吸収されます。

その結果、検出器まで届くX線が少なくなり、X線画像では骨が白く写ります。
光電効果は、組織によるX線吸収の差をつくり、画像のコントラストに関係する相互作用ということです。

造影剤にも利用されている

X線検査で使用されるヨード造影剤やバリウム造影剤には、原子番号の大きな元素が含まれています。
そのため周囲の組織よりも光電効果が起こりやすく、X線を多く吸収します。

この性質を利用することで、血管や消化管など、そのままでは見えにくい部分をX線画像上で見やすくできます。

光電効果の「原子番号が高いほど起こりやすい」という特徴は、国家試験のためだけの知識ではなく、実際のX線画像ができるしくみにもつながっています。

まとめ

今回は、光電効果が起こる条件や光電子のエネルギー、光電効果が起こりやすくなる条件について見てきました。
最後に、重要なポイントを振り返ってまとめていきましょう。

  • 光電効果は、入射光子のエネルギー $E_\gamma$ が軌道電子の結合エネルギー $I$ より大きいときに起こる
  • 光子は軌道電子にエネルギーをすべて与え、光子自身は消滅する
  • 放出された電子を光電子という
  • 光電子の運動エネルギーは $E_e=E_\gamma-I$ で求められる
  • 光電子のエネルギースペクトルは線スペクトルになる
  • 光電効果によって空位が生じると、特性X線またはオージェ電子が放出される
  • 光子エネルギーが低い場合、光電子は入射光子の進行方向に対して側方へ放出されやすい
  • 光子エネルギーが高い場合、光電子は入射光子の進行方向に対して前方へ放出されやすい
  • 光電効果はK殻の軌道電子で最も起こりやすい
  • 光子エネルギーが高くなるほど、光電効果は起こりにくくなる
  • 物質の原子番号が高くなるほど、光電効果は起こりやすくなる

光電効果は「光子が全部渡して消える」を軸にすると、エネルギーの式もその後の現象もつながってきますよ。

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次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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