光子が物質に入射すると、光電効果やコンプトン散乱など、さまざまな相互作用が起こります。
そのなかでも、比較的エネルギーの低い光子で起こるのが干渉性散乱です。
干渉性散乱では、光子は物質と相互作用してもエネルギーを失わず、進む方向だけが変化します。
さらに、相互作用する電子の状態によってトムソン散乱とレイリー散乱に分けられます。
今回は、干渉性散乱がどのような現象なのかを確認しながら、トムソン散乱とレイリー散乱の違いや、光子エネルギー・原子番号との関係を見ていきましょう。
干渉性散乱とは

光子には「粒子」と「波」の両方の性質があります。
比較的エネルギーの低い光子では波としての性質が現れやすく、物質中の電子と相互作用すると干渉性散乱を起こすことがあります。
干渉性散乱の大きな特徴は、散乱の前後で光子のエネルギーが変化しないことです。
光子は物質にエネルギーを与えず、進行方向だけを変えて散乱されます。
低エネルギーの光子ほど起こりやすい
光子のエネルギーが低くなるほど波長は長くなります。
波長が原子の大きさに近くなると、光子は原子内の電子と波として相互作用しやすくなり、干渉性散乱が起こりやすくなります。
「入射光子のエネルギーが電子の結合エネルギーより小さいときだけ干渉性散乱が起こる」というわけではありませんが、他に比べて相対的に干渉性散乱が起こりやすくなります。
実際に、結合エネルギーより大きな光子でも干渉性散乱は起こります。
国家試験では、干渉性散乱は低エネルギーの光子ほど起こりやすいと押さえておきましょう。
光子のエネルギーは変化せず進行方向だけが変わる
干渉性散乱では、入射した光子と散乱された光子のエネルギーは同じです。
つまり、光子は物質にほとんどエネルギーを与えず、進行方向だけを変えます。
ただし、進行方向が変わった光子は入射光子の進行方向から外れるため、もとの光子束は減少します。
そのため、干渉性散乱は光子の減弱には寄与します。

なんでや?
エネルギー減ってへんやん。
なのに減弱なんか?

良い視点だね。
減弱はX線強度で考えるんだ。
エネルギーが減ってなくても、数が減っていれば強度は下がるだろ?
一方で、光子のエネルギーは散乱の前後でほとんど変化しないため、物質へのエネルギー付与にはほとんど寄与しません。
コンプトン散乱では、光子のエネルギーの一部が電子に与えられるため、散乱光子のエネルギーは小さくなります。
これに対して干渉性散乱では、散乱前後で光子のエネルギーが変化しないことが大きな違いです。
干渉性散乱は弾性散乱の一種
散乱の前後で運動エネルギーの総和が変化しない散乱を弾性散乱といいます。
干渉性散乱では光子のエネルギーが変化しないため、弾性散乱に分類されます。
「干渉性散乱では散乱光子のエネルギーが変化する」という記述があれば誤りです。
エネルギーは変化せず、進行方向だけが変わるという点を判断基準にしましょう。
干渉性散乱の種類
干渉性散乱には、トムソン散乱とレイリー散乱があります。
どちらも散乱の前後で光子のエネルギーは変化しませんが、光子が相互作用する電子の状態に違いがあります。
「自由電子」と「軌道電子」のどちらと相互作用するかに注目して区別しましょう。
自由電子によるトムソン散乱
トムソン散乱は、低エネルギーの光子が自由電子によって散乱される現象です。
光子の電場によって自由電子が振動し、その振動した電子から同じエネルギーの光子が放出されます。
散乱の前後で光子のエネルギーは変化せず、進行方向だけが変化します。
自由電子による干渉性散乱がトムソン散乱と覚えておきましょう。
軌道電子によるレイリー散乱
光子が原子に結合している軌道電子と相互作用して起こる干渉性散乱をレイリー散乱といいます。
光子の電場によって原子内の電子が振動し、その結果として同じエネルギーの光子が散乱されます。
この場合も、散乱の前後で光子のエネルギーは変化しません。
自由電子 → トムソン散乱
軌道電子 → レイリー散乱
という対応を判断基準にしておきましょう。
干渉性散乱の起こりやすさ
干渉性散乱の起こりやすさは、物質の原子番号 $Z$と光子のエネルギー $E$によって変化します。
国家試験では、「原子番号が大きいほど起こりやすい」「光子エネルギーが低いほど起こりやすい」という2つの関係を押さえておくことが重要です。
原子番号が大きいほど起こりやすい
干渉性散乱は、原子番号 $Z$ が大きい物質ほど起こりやすくなります。
原子番号が大きくなると、原子がもつ電子の数も多くなります。
そのため、光子が電子と相互作用して干渉性散乱を起こす確率も大きくなります。
国家試験では、原子番号の異なる物質について干渉性散乱の起こりやすさを比較するときは、原子番号が大きい方を選ぶことが判断基準になります。
光子エネルギーが低いほど起こりやすい
干渉性散乱は、光子エネルギー $E$ が低いほど起こりやすくなります。
光子のエネルギーが低くなると波長は長くなり、原子内の電子による散乱波がそろいやすくなります。
そのため、低エネルギーの光子では干渉性散乱の割合が大きくなります。
反対に、光子エネルギーが高くなるほど干渉性散乱は起こりにくくなります。
質量減弱係数は $Z/E^2$ に比例する
干渉性散乱による質量減弱係数は、近似的に次の関係で表されます。
$\frac{\mu}{\rho}\propto\frac{Z}{E^2}$
$Z$は原子番号、$E$は光子エネルギーです。
この式を見ると、原子番号 $Z$ が大きくなるほど質量減弱係数は大きくなり、光子エネルギー $E$ が大きくなるほど質量減弱係数は小さくなることがわかります。
特にエネルギーは2乗で反比例していることに注目しましょう。
国家試験では、「原子番号が大きいほど増える」「光子エネルギーが高いほど減る」と判断できれば十分です。
実際の過去問を見てみよう
ちょっと古いんですけど、誤解しやすい概念が出題されたものをセレクトしました。
1999年に実施された第51回国家試験から問12のご紹介。
まだ、AMとPMで科目が分かれていたころの時代です。
第51回 1999年 問12
- 干渉性散乱(トムソン散乱)は減弱に寄与する。
- 光電効果を起こした光子は光電子を放出して自身は散乱される。
- 光電効果に伴うオージェ電子は連続スペクトルを示す。
- コンプトン散乱における散乱光子のエネルギーは散乱方向によらず一定である。
- 電子対生成により生成される陰電子と陽電子とのエネルギーは等しい。
答えを確認する。
正解は 1 です。
できましたか?
- 正解
勘違いしやすいですね。
エネルギー変化がないので、減弱に寄与していないと思われがちです。
しかし、減弱はX線強度で考えますので、数が減っても減弱です。
干渉性散乱もバッチリ減弱に寄与します。 - 誤り
光電効果では光子自身は消滅します。 - 誤り
オージェ電子は連続スペクトルでしたね。 - 誤り
散乱光子のエネルギーは散乱角に依存します。
散乱角0°で最大エネルギー(入射光子と同じ)となり、散乱角180°で最小エネルギーとなります。 - 誤り
分配の割合が毎回必ず等しいとは限りません。
分配の割合は確率事象です。
たまたま半々に等しくなる場合もあります。
医療現場でのかかわり
干渉性散乱によって進行方向を変えた光子は、散乱線として検出器に入射することがあります。
散乱線は本来の位置情報とは異なる場所に届くため、画像のコントラストを低下させる原因のひとつになります。
ただし、診断用X線で問題となる散乱線の中心はコンプトン散乱です。
干渉性散乱も散乱線の一部ではありますが、医療現場ではコンプトン散乱ほど大きな影響を与えるものではありません。
干渉性散乱は、光子のエネルギーをほとんど変えずに進行方向を変えるという特徴を押さえておけば、画像への影響も理解しやすくなります。
まとめ
今回は、干渉性散乱の特徴と、トムソン散乱・レイリー散乱について見てきました。
最後に、国家試験で押さえておきたいポイントを振り返ってまとめていきましょう。
- 干渉性散乱は、比較的エネルギーの低い光子ほど起こりやすい
- 干渉性散乱では、光子のエネルギーはほとんど変化せず、進行方向だけが変化する
- 散乱によって光子束から外れるため、干渉性散乱は減弱に寄与する
- 光子から物質へのエネルギー付与にはほとんど寄与しない
- 自由電子による干渉性散乱をトムソン散乱という
- 軌道電子による干渉性散乱をレイリー散乱という
- 干渉性散乱は、原子番号 $Z$ が大きいほど起こりやすく、光子エネルギー $E$ が低いほど起こりやすい
- 干渉性散乱の質量減弱係数は、近似的に $\frac{\mu}{\rho}\propto\frac{Z}{E^2}$ で表される

エネルギーが変わらなくても、光子の数が減れば減弱する。
ここはしっかり押さえておこう!
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有



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