C12 光子と物質の相互作用 概論

X線やγ線などの光子を物質に照射すると、光子はそのまま通り抜けることもあれば、進む方向を変えたり、物質に吸収されたりすることもあります。
では、この違いはどのように生じるのでしょうか。

光子と物質の間で起こるこうした現象を、光子と物質の相互作用といいます。
相互作用にはいくつかの種類がありますが、まずは細かな仕組みに入る前に、光子が物質に入射したあとに「透過する」「散乱する」「吸収される」という大きな流れをつかんでおくことが大切です。

今回は、光子と物質の相互作用にはどのようなものがあるのかを眺めながら、透過・散乱・吸収の違いを中心に見ていきましょう。

それぞれの現象については、別記事にて詳しく見ていきます。

光子を物質に照射するとどうなる?

X線やγ線などの光子を物質に照射したとき、すべての光子が同じふるまいをするわけではありません。
物質と相互作用せずにそのまま通り抜ける光子もあれば、物質と相互作用して進む方向を変えたり、吸収されたりする光子もあります。

光子の行方を大きく分けると、透過・散乱・吸収の3つです。
まずは、この3つがそれぞれどのような状態なのかを見ていきましょう。

そのまま通り抜ける「透過」

光子が物質の中を通過するとき、必ず相互作用が起こるわけではありません。
物質と相互作用せず、そのまま通り抜けることを透過といいます。

透過した光子は、入射したときのまま物質の外へ出ていきます。
つまり、光子が物質に入ったからといって、必ず散乱したり吸収されたりするわけではないということです。

進む方向が変わる「散乱」

光子が物質と相互作用した結果、もともと進んでいた方向とは異なる方向へ進むことがあります。
この現象を散乱といいます。

散乱では、相互作用したあとも光子が残ります。
ただし、散乱の種類によっては進む方向だけが変わる場合もあれば、光子のエネルギーも変化する場合もあります。

光子が消滅する「吸収」

光子が物質と相互作用した結果、入射した光子そのものがなくなることを吸収といいます。

このとき、光子が持っていたエネルギーは物質側へ移ります。
光子がそのまま残る散乱とは異なり、入射光子が消滅することが吸収の大きな特徴です。

このように、物質に入射した光子は、透過する、散乱する、吸収されるといういずれかの経過をたどります。
まずはこの3つの違いを押さえておくと、このあと登場するさまざまな相互作用を整理しやすくなります。

光子と物質の相互作用は6種類

光子と物質の相互作用には、いくつかの種類があります。
放射線物理学で扱う代表的なものは、干渉性散乱・光電効果・コンプトン散乱・電子対生成・三対子生成・光核反応の6種類です。

どの相互作用が起こるかは、光子が持つエネルギーや物質の種類などによって変わります。
ここでは細かな仕組みに入り込まず、それぞれの相互作用で「光子がどうなるのか」という視点から全体像をつかんでおきましょう。

干渉性散乱・光電効果・コンプトン散乱

干渉性散乱では、光子は物質と相互作用したあと、エネルギーをほとんど失わずに進む方向を変えます。
つまり、光子は消滅せず、散乱光子として残ります。

光電効果では、光子が軌道電子と相互作用し、光子は消滅します。
光子が持っていたエネルギーは電子へ与えられ、電子が原子の外へ放出されます。

コンプトン散乱では、光子が電子と相互作用してエネルギーの一部を電子へ与えます。
そのため、光子は入射時よりも低いエネルギーを持つ散乱光子として別の方向へ進みます。

電子対生成・三対子生成・光核反応

電子対生成では、光子が原子核の近くで相互作用し、光子が消滅して電子と陽電子が生成されます。

三対子生成では、光子が電子と相互作用し、光子が消滅して電子と陽電子が生成されます。
もともと存在していた電子も反応後に残るため、結果として3個の荷電粒子が関係する反応になります。

光核反応では、光子が原子核と相互作用して吸収され、原子核から中性子や陽子などが放出されることがあります。

この6種類はそれぞれ仕組みが異なりますが、まずは光子が散乱して残るのか、それとも吸収されて消滅するのかに注目すると整理しやすくなります。
それぞれの詳しい反応については、次の記事から順番に見ていきましょう。

なんで光電効果だけ「軌道電子」って指定があるんや?
コンプトンや三対子はただの「電子」やで?

良く気付いたね。
光電効果は軌道電子じゃないと起きないんだ。
コンプトン散乱や三対子生成は自由電子でも起きるんだよ。

相互作用する相手にも注目

光子と物質の相互作用を整理するときは、「光子がどうなるのか」だけでなく、光子が何と相互作用するのかにも注目してみましょう。
相互作用の相手は、大きく見ると原子全体、電子、原子核やその電場に分けることができます。

原子全体との相互作用

干渉性散乱では、光子は原子の電子全体と相互作用します。
特定の1個の電子と相互作用するというよりも、原子全体として光子を散乱させると考えるとよいでしょう。

このとき、光子はほとんどエネルギーを失わず、進む方向だけを変えて散乱します。

電子との相互作用

光電効果・コンプトン散乱・三対子生成では、電子が相互作用の相手になります。

ただし、相互作用する電子には違いがあります。
光電効果は軌道電子との間で起こりますが、コンプトン散乱や三対子生成は軌道電子だけでなく、自由電子との間でも起こります。

そのため、光電効果では「軌道電子」、コンプトン散乱や三対子生成では、より広い意味を持つ「電子」と表現します。

原子核やその電場との相互作用

電子対生成では、光子が原子核の電場と相互作用し、光子が消滅して電子と陽電子が生成されます。

一方、光核反応では、光子が原子核そのものと相互作用して吸収され、中性子や陽子などが放出されることがあります。

このように、同じ「光子と物質の相互作用」でも、光子が相互作用する相手は同じではありません。
何と相互作用するのかに注目すると、6種類の相互作用の違いがさらに見えやすくなります。

 

実際の過去問を見てみよう

少々毛色は異なりますが、
2017年に実施された第69回国家試験からのご紹介。

第69回 午後71
X線の波動性を示す現象はどれか。2つ選べ。

  1. 光電効果
  2. 光核反応
  3. Bragg〈ブラッグ〉反射
  4. Rayleigh〈レイリー〉散乱
  5. Compton〈コンプトン〉効果
答えを確認する。


正解は 3と4 です。

できましたか?

光子のもつ特徴の「二重性」に関する問題ですね。
エネルギーの低い光子は波動性を示す傾向が強く、
エネルギーが高くなると粒子性を示す傾向が強くなります。

このなかで低エネルギーの光子で起こるのはブラッグ反射とレイリー散乱になります。

医療現場でのかかわり

光子と物質の相互作用は、X線撮影やCTなどの画像診断にそのまま関係しています。
人体に入射したX線は、すべてが検出器まで届くわけではありません。透過する光子もあれば、体内で散乱したり吸収されたりする光子もあります。

X線画像では、組織によって光子が吸収・散乱される割合が異なることを利用しています。
たとえば、X線が多く透過した部分と、吸収や散乱によって透過する光子が少なくなった部分との差が、画像の濃淡として現れます。

一方、体内で散乱した光子が検出器に届くと、本来とは異なる場所から来た光子まで画像に加わるため、画像のコントラストを低下させる原因になります。
そのため、X線撮影では照射野を絞ったり、散乱線除去グリッドを使用したりして、検出器へ届く散乱線をできるだけ減らしています。

透過・散乱・吸収の違いを知ることは、X線画像がどのように作られているのかを理解するための基本になります。

まとめ

今回は、光子と物質の相互作用について、まず全体像を見てきました。
最後に、ここまでの内容を振り返ってまとめていきましょう。

  • 物質に入射した光子は、透過・散乱・吸収のいずれかの経過をたどる
  • 透過では、光子は物質と相互作用せずにそのまま通り抜ける
  • 散乱では、光子は物質と相互作用して進む方向を変える
  • 吸収では、光子は物質と相互作用して消滅する
  • 光子と物質の代表的な相互作用には、干渉性散乱・光電効果・コンプトン散乱・電子対生成・三対子生成・光核反応がある
  • 相互作用によって、光子が相互作用する相手は原子全体・電子・原子核やその電場など異なる
  • 光子が「どうなるのか」と「何と相互作用するのか」に注目すると、それぞれの相互作用を整理しやすい
  • X線撮影やCTでは、人体で起こる透過・散乱・吸収の違いを利用して画像を作っている

まずは「透過・散乱・吸収」の3つに分けて考えられればOK!それぞれの相互作用は、ここから一つずつ攻略していこう!

次に読むならコレ!レントゲン博士のおすすめ内部リンク

次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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