
牛助、なんで机にご飯粒いっぱいつけてるの?

ほら見てみぃ。
バラバラの米粒はこぼれやすいけど、ギュッと握ったらおにぎり!
これが結合エネルギーや!
うっまそうやろ~

…安定したのはお腹ですね。


相変わらずの食い意地だな。
核子も同じで、まとまるほど安定するんだよ。
「結合エネルギー」という言葉は知っていても、グラフになると「結局どこを見ればいいの?」と戸惑ってしまう方は少なくありません。
ここでは、結合エネルギーのグラフの“形”を読み解くことで、原子核の安定性がどう決まるのか見ていきましょう。
質量数の増加に伴う変化や、鉄(Fe)あたりで最大になる理由、そしてそれ以降に減少する原因まで、一つひとつ整理して確認していきましょう。
前回(A15)で学んだ「質量欠損と結合エネルギー」の考え方を土台にすれば、グラフの意味も自然と理解できるはずです。
これまで600人以上の学生を診療放射線技師へと導いた経験から、わかりやすくお伝えしていきます。
さっそく解答例
「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A16 の穴埋め解答例と解説です。
先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

解説
A15で触れたグラフを紐解いていきましょう。
A15を見ていない方はそちらを先にチェックしていただくと理解がスムーズです。
核子1個あたりの結合エネルギー

横軸に質量数、縦軸に核子1個あたりの結合エネルギーをとったグラフを見ていきましょう。
と、その前に「核子1個あたりの結合エネルギー」の意味は分かりますか?
例えば、質量数4の原子核を例にとって考えてみます。
この原子核の結合エネルギーの合計が10MeVだとしましょう。
核子の数は質量数と同じですから4つです。
10MeVを4つで分け合うと考えればOKです。
つまり、この場合の核子1個あたりの結合エネルギーは2.5MeVとなります。
話を戻しまして。
核子1個あたりのエネルギーは上のグラフのような変化を辿ります。
比例のような一辺倒な変化ではなく、なんだか複雑に変化しています。
この不規則に見える変化の特徴を見出していきます。
- 質量数の小さなところでは、質量数の増加とともに急激に結合エネルギーが上昇する。
- 質量数12以降では平均8MeVになる。
- 質量数56で最大8.8MeVになる。
- 質量数56以降は徐々に減少する。
- 偶々核の4He、12C、16Oはその他に比べて結合エネルギーが少し大きい。
質量数の小さなところでは、質量数の増加とともに急激に結合エネルギーが上昇する。

図の赤〇の部分のお話。
この領域では、質量数が大きくなるにつれ、核子1個あたりの結合エネルギーは急激に大きくなります。(グラフの立ち上がりが急峻になります。)
これは 表面効果 が原因です。
表面効果は後ほど説明します。
質量数12以降では平均8MeVになる。

図の青〇の部分のお話。
この領域では核子1個あたりの結合エネルギーの平均値が 8.0MeV になります。
※図は管理人の自作図です。キチンと測って平均値など出さないで下さいね。多少のズレはご愛嬌ってことで。
質量数56で最大8.8MeVになる。

質量数が約60(厳密には56Fe)のところで核子1個あたりの結合エネルギーの最大値が 8.8MeV になります。
平均値と値が近いので、間違えないようにしてください。出てくる数字は「8」ばっかりです。
質量数56以降は徐々に減少する。

図の緑〇の部分のお話。
56Feを境に徐々に減少していきます。
ここは クーロン効果 が働きます。
質量数が増えるということは、陽子の数も増え、クーロン斥力も増加してしまいます。
斥力は結合とは逆の属性になりますので、核子1個あたりの結合エネルギーは減少してしまいます。
偶々核の4He、12C、16Oはその他に比べて結合エネルギーが少し大きい。

図の紫〇の部分のお話。
低原子番号(低質量数)の核種の場合、陽子数と中性子数の等しい原子核は他のものよりちょっとだけ強く結合します。
グラフはノコギリの歯のようにギザギザします。
表面効果

質量数の小さな核種(図の左側)では原子核の表面になる割合が高くなります。
図の場合、4つの核子のうち4つすべてが表面にきています。
質量数の大きな核種(図の右側)では中央に存在する核子が出てきます。
図の場合、7つの核子のうち1つが中央で6つが表面更にる感じです。
質量数が更に大きくなれば、中央になる割合が増えていきます。
左の場合、表面の核子はその他2つと結合しています。
それに対し右の場合、中央の核子はその他6つと結合しています。
中央の核子の方が結合数が多いので、結合エネルギーの総合値が高くなります。
逆に言えば、表面になると結合エネルギーが小さくなります。
まとめると、質量数が小さい核種は表面になってしまう核子の割合が高くなり、結合エネルギーが小さくなります。
<補足>
表面張力は表面積に比例します。つまり質量数の2/3乗に比例します。
その他の〇〇効果
結合エネルギーの詳細を説明するモデル(液滴模型など)では、
- 体積効果
- 表面効果
- クーロン効果
- 対称効果
といった項目が含まれます。
ただし国家試験で問われるのはグラフの大まかな特徴、
すなわち「鉄付近で最大」「それ以降は徐々に減少」という流れを押さえておけば十分です。
実際の問題を見ていきましょう。
と思いましたが、残念ながらドンピシャで該当するような出題はA15で既に紹介してしまいました。
選択肢の1つとして登場した問題をご紹介します。

解答を確認する。
正解は 4 です。
各選択肢の考え方は以下の通り。
- 正しい。 核子(陽子・中性子)は強い相互作用で結合しているんでしたよね。その強い相互作用の名称は「核力」です。
- 正しい。 原子核の直径はおおよそ1~10 fm(10-15〜10-14 m)。半径は 質量数の1/3乗に比例するんでしたよね。
- 正しい。 中間子(メソン)=クォーク+反クォーク。
- 誤り。 核子1個あたりの結合エネルギーは約8 MeV、鉄で最大8.8 MeV。
- 正しい。 中性子 = u d d(アップ1、ダウン2)。ちなみに陽子は u u d (アップ2、ダウン1)でしたね。
医療現場でこの知識がどう役立つの?
結合エネルギーは、核が安定か不安定かを見極める基礎知識です。放射線技師の実務では、特に核医学で重要になります。
- アイソトープが放射線を出す理由
安定していない原子核(結合エネルギーのバランスが悪い核)は、より安定になるために壊変して放射線を放出します。これが核医学で利用する放射性同位元素(RI)です。 - 具体的な検査での例
SPECTでよく使う 99mTc は、余分なエネルギーをガンマ線として放出することで安定に近づきます。
PETで使う 18F は、陽電子を放出してより安定な核へ変わります。いずれも「結合エネルギーが不安定だから崩壊する」現象を利用しているんです。 - 実務でのつながり
核の安定性を理解していれば、「どの核種が壊変するか」「半減期がどのくらいか」「放出する放射線の種類は何か」が自然とイメージできるようになります。これはアイソトープ投与後の撮像計画や線量管理に直結する知識です。
つまり、結合エネルギーの理解=核が安定かどうかを判断する目につながり、核医学検査でRIを正しく安全に扱うための基礎になります。
まとめ

鉄で最大8.8MeV、以降は減少、平均8MeV――この流れを押さえておけば試験は安心です。核医学とのつながりも意識して覚えておきましょう。
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ほれ、ここまで読んだんなら、次はこのあたりを見ておくとえぇぞい。
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