X線が物質を通過すると、その強度は次第に減少していきます。
では、X線の強度が半分になるまでの厚さと、光子が相互作用を起こすまでに進む平均距離には、どのような関係があるのでしょうか。
この関係を考えるうえで重要になるのが「半価層」と「平均自由行程」です。
今回は、半価層と平均自由行程の違いをグラフで比較しながら、それぞれの意味や線減弱係数との関係について見ていきましょう。
平均自由行程とは
X線が物質に入射すると、光電効果やコンプトン散乱などの相互作用によって、X線の強度は次第に減少していきます。
では、X線の光子は物質の中をどのくらい進むと相互作用を起こすのでしょうか。
ここで登場するのが「平均自由行程」です。
平均自由行程の定義
平均自由行程(mfp:mean free path)とは、次のような物理量です。
【平均自由行程の定義】
光子が最初の相互作用を起こすまでに進む距離の平均値
例えば、ある光子は物質に入射してすぐに相互作用を起こすかもしれません。
一方で、別の光子は長い距離を進んでから相互作用を起こすこともあります。
このように、光子が最初の相互作用を起こすまでの距離にはばらつきがあります。
そこで、多くの光子についてその距離を平均したものが「平均自由行程」というわけです。
線スペクトルのX線における平均自由行程
平均自由行程には、X線の減弱に注目した説明もあります。
線スペクトルのX線の場合、平均自由行程は次のように表すことができます。
【線スペクトルのX線における平均自由行程】
入射X線強度を元の1/eに減少させるために必要な吸収体の厚さ
ここで、eは自然対数の底と呼ばれる定数で、約2.72という値を持っています。
したがって、1/eは約0.37となります。
つまり、線スペクトルのX線では、入射X線強度が元の約37%に減少するまでの吸収体の厚さが、平均自由行程に相当するのです。
このように、平均自由行程には「光子が最初の相互作用を起こすまでの平均距離」と「X線強度を1/eに減少させる厚さ」という2つの捉え方があります。
どちらも平均自由行程を理解するうえで重要なので、セットで覚えておきましょう。

連続スペクトルの制動放射線には使ったらアカンのか?

そうなんだ。
37%って説明は連続スペクトルには適応できないから注意してね。
半価層と平均自由行程の比較
半価層と平均自由行程は、どちらもX線の減弱に関係する物理量です。
では、X線強度を半分にする厚さと、約37%にする厚さでは、どちらの方が大きいのでしょうか。
ここでは、線スペクトルのX線を例に、半価層と平均自由行程の違いを見ていきましょう。
1/2と1/eの大小関係
まずは、半価層と平均自由行程で、X線強度がどこまで減少するのかを確認しましょう。
【半価層(HVL)】
入射X線強度を元の$\frac{1}{2}=0.5$に減少させるために必要な吸収体の厚さ
【平均自由行程(mfp)】
入射X線強度を元の$\frac{1}{e}=0.37$(約0.37)に減少させるために必要な吸収体の厚さ
ここで、0.5と0.37を比べてみましょう。
0.5 > 0.37
つまり、平均自由行程では、半価層よりもX線強度を小さくする必要があります。
X線強度をさらに減少させるには、吸収体をより厚くしなければなりません。
したがって、半価層よりも平均自由行程の方が厚くなります。
グラフで見る半価層と平均自由行程
それでは、実際にグラフで確認してみましょう。

グラフの縦軸は相対X線強度、横軸は吸収体の厚さ(フィルタ厚さ)を表しています。
なお、縦軸には対数目盛を使用しているため、線スペクトルのX線の減弱は直線で表されています。
まず、縦軸の0.5に注目してください。
ここから横方向に進み、減弱を表す直線と交わった位置から横軸まで下がると、半価層(HVL)が読み取れます。
次に、縦軸の0.37に注目してください。
同じように直線との交点から横軸まで下がると、平均自由行程(mfp)が読み取れます。
この2つを比べると、平均自由行程の方が右側にありますね。
つまり、X線強度を0.37まで減少させるには、0.5まで減少させる場合よりも厚い吸収体が必要になるわけです。
このように、半価層と平均自由行程の大小関係は、減弱を表すグラフからも判断できます。
「1/2よりも1/eの方が小さいので、平均自由行程の方が厚い」
この関係を覚えておきましょう。
平均自由行程と線減弱係数の関係
半価層と平均自由行程の大小関係が確認できたところで、今度は計算式を見ていきましょう。
光子のエネルギーが一定の線スペクトルでは、平均自由行程を線減弱係数から求めることができます。
平均自由行程と線減弱係数
平均自由行程は、線減弱係数μの逆数で表されます。
$mfp=\frac{1}{\mu}$
ここで、線減弱係数μは、X線が物質中を進むときの減弱のしやすさを表す物理量です。
線減弱係数が大きいほど、X線は短い距離で相互作用を起こしやすくなります。
反対に、線減弱係数が小さいほど、X線は相互作用を起こさずに長い距離を進みやすくなります。
つまり、平均自由行程と線減弱係数には、次のような関係があります。
- 線減弱係数が大きい → 平均自由行程は短い
- 線減弱係数が小さい → 平均自由行程は長い
また、線減弱係数の単位がcm-1であれば、平均自由行程の単位はcmになります。
式の単位に注目すると、平均自由行程が「距離」を表す物理量であることも確認できますね。
平均自由行程と半価層の関係
続いて、平均自由行程と半価層の関係を見ていきましょう。
光子のエネルギーが一定の線スペクトルでは、半価層HVLは次の式で表されます。
$HVL=\frac{\ln 2}{\mu}=\frac{0.693}{\mu}$
一方、平均自由行程は線減弱係数の逆数なので、次のようになります。
$mfp=\frac{1}{\mu}$
この2つの式を比較すると、平均自由行程と半価層の間には、次の関係が成り立ちます。
$mfp=\frac{1}{0.693}\times HVL$
$mfp\approx1.44HVL$
つまり、平均自由行程は半価層の約1.44倍となります。
例えば、半価層が2mmのX線であれば、平均自由行程は約2.88mmです。
このように、平均自由行程は半価層よりも厚く、その比率は線減弱係数の値に関係なく一定となります。
この1.44という数値も、半価層と平均自由行程の関係を表す重要な値なので、覚えておきましょう。
実際の過去問を見てみよう
2019年に実施された第71回国家試験からAM71のご紹介。
密度11.3 g・cm-3の鉛にγ線が入射したときの質量減弱係数は8.8×10-2cm2・g-1であった。
このときの平均自由行程[cm]に最も近いのはどれか。
- 0.70
- 0.99
- 1.01
- 1.43
- 2.32
答えを確認する。
正解は 3 です。
できましたか?
平均自由行程は線減弱係数μの逆数で求められます。
質量減弱係数に密度を掛けると、線減弱係数が求められます。
\[ \mu=8.8\times10^{-2}\times11.3=0.9944\ \mathrm{cm^{-1}} \]
したがって、
\[ mfp=\frac{1}{0.9944}\approx1.01\ \mathrm{[cm]} \]
となります。
質量減弱係数が与えられたら、まず密度を掛けて線減弱係数に変換する。
これが、この問題のポイントですね。
医療現場でのかかわり
平均自由行程は、実際の医療現場で診療放射線技師が直接使用する機会は少ない物理量です。
例えば、X線撮影室の遮蔽を考える際には、平均自由行程よりも半価層や線減弱係数などが利用されます。
ただし、平均自由行程を理解しておくと、X線やγ線の光子が物質中でどのくらい進み、相互作用を起こすのかを考える手助けになります。
医療現場で直接使う機会は少なくても、放射線と物質の相互作用を理解するための大切な基礎知識なのです。
まとめ
今回は、平均自由行程の意味と、半価層や線減弱係数との関係について見てきました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。
- 平均自由行程(mfp)とは、光子が最初の相互作用を起こすまでに進む距離の平均値である。
- 光子のエネルギーが一定の線スペクトルでは、平均自由行程はX線強度を元の1/e(約0.37)に減らす吸収体の厚さに相当する。
- 半価層はX線強度を1/2(0.5)に減らす厚さなので、平均自由行程の方が厚い。
- 平均自由行程は線減弱係数μの逆数で表され、mfp=1/μとなる。
- 光子のエネルギーが一定の線スペクトルでは、平均自由行程は半価層の約1.44倍となる。
- 質量減弱係数から平均自由行程を求める場合は、密度を掛けて線減弱係数に変換する。

1/2と1/eの大小関係を押さえておけば、半価層と平均自由行程のどちらが厚いのかも判断できるね!
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有



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