電離と励起
Home » 用語・現象 » 電離と励起の違いとは?国家試験に出る放射線物理の基本を図で理解

ここでは、放物で頻繁に登場する電離と励起について解説していきます。
両者の違いをキチンと説明できるようになりましょう。

なんとなく講義で聞いたことあるな。
どんな現象だっけ?

となっている方は、復習必須ですよ。

電離

放射線が原子に衝突して電子を弾き出すことで電離が起こる仕組みを示す図。電子が軌道から離脱し、電離状態となっている。

簡単に言えば、電離とは「軌道電子が原子外に放出される現象」です。

図の場合、左から入ってきた入射放射線(波線なので光子(X線やガンマ線))によって軌道電子(●)が原子の外側まで吹っ飛ばされています。

原子の外まで」という部分がポイントになります。

入射放射線の部分は波線なら光子、直線であれば電子やα線などの粒子線を示しています(今回は波線)。
実は軌道電子を弾き飛ばすのは何でも良いのです。
光子でも電子線でも何でもOK!
さらに言えば、放射線じゃなくたって良いんです。
熱でも電気的にでも軌道電子が原子外に出ていく現象をすべてひっくるめて「電離」となります。

励起

放射線のエネルギーを受けて電子が高いエネルギー準位に移動する“励起”の仕組みを示す図。電子は軌道を移動して励起状態になる。

続いて励起も見ていきましょう。
入射放射線が軌道電子にぶつかるまでは電離と同じです。
では、違いはどこなのか?
軌道電子がどこまで飛んでいくのか?という部分が違います。
励起の場合は、軌道電子が飛ばされるものの、原子の外側までは移動しません。
元々あった軌道から、外側の軌道に移動します。
この軌道を移動する現象を「遷移」と言います。読みは「せんい」です。
遷移のなかでも、内側の軌道から外側の軌道に遷移する現象を特別に「励起」と言います。
つまり励起とは「軌道電子が外側の軌道に移動する現象」ということができます。

電離と励起の違いは?

電離と励起の違いは分かりましたか?

答えを表示

違いは軌道電子が原子外に出るか出ないかでした。
もちろん、原子外へ出るのが電離です。
電子が原子から離れる。だから「電離」という名称がつけられたと思っています。

それでは、電離についてもう少し詳しく見ていきましょう。

電離を深掘りしていこう

電離という現象そのものはご理解いただけたことでしょう。
今度はもう少し詳しく見ていきましょう。

実は「電離」という現象は色々と名前を変えます。
この辺りが放物を難しくさせている要因かと思いますが、皆さんはどうでしょうか?
しかも、教科書などはこの事実に触れてくれません。

どういうことなの?

電離は電離でも、シチュエーションごとに名称が変化するんです。

例えば「光電効果」や「コンプトン効果・コンプトン散乱」も立派な電離現象の一つです。
両方とも「光子による電離現象」の一つです。

入射光子が消滅すれば「光電効果」になるし、入射光子が消滅せずに散乱光子として残るのであれば「コンプトン効果」になります。

先ほどの図は「光電効果」の図ということになります。

光子による電離

光子による電離はいくつもありますが、ここでは代表的な現象をあげてみます。

光電効果

光子のエネルギーによって原子内電子が外部に飛び出す“光電効果”を模式的に示した図。入射光子のエネルギーは、電子の束縛エネルギー(φ)と放出後の運動エネルギー(Ee)に分かれる。

光電効果として見ていきましょう。
詳しくは光電効果のページでご紹介しますので、ここは簡単に。

図中にエネルギーを示しました。
入射放射線(今は入射光子)のエネルギーをEγ、軌道電子の結合エネルギーをΦ、電離された軌道電子(電離電子)の運動エネルギーをEeとします。

軌道電子は原子核にΦという結合エネルギーで固定されています。そんな軌道電子の結合を断ち切って電離するために、入射放射線(入射光子)は結合エネルギー以上のエネルギーを持っている必要があります。
つまり、電離を起こすためには EγΦ の条件を満たす必要があります。
また、めでたく電離された軌道電子は、EγΦ の差の分を運動エネルギーとして飛んでいきます。
つまり、Ee = EγΦ となります。

この式からは、「電子が受け取ったエネルギーのうち、結合エネルギー分は消費して無くなってしまいますよ。」ということを読み取らなくてはなりません。

「エネルギーの消費」がある場合を非弾性散乱と表現することができます。
この辺も別途解説していきましょう。

光子が電子を電離する“光電効果”の模式図。入射光子(80 keV)が電子に吸収され、束縛エネルギー(50 keV)を超える分(30 keV)が運動エネルギーとして電離電子(光電子)に与えられて放出される様子を示している。

具体的な数字を入れて考えてみましょう。
エネルギーの単位は無視してください。

入射光子のエネルギー100はすべて軌道電子に与えられます。
(エネルギーが0になった光子は消滅してしまいます。)
軌道電子は100のうち20を原子核からの離脱に使います。
残りの80を運動エネルギーとして原子外に飛び出していきます。

こんな具合でエネルギーが割り振られていきます。

コンプトン効果

コンプトン効果の模式図。入射光子(𝐸𝛾 )が軌道電子に衝突し、一部のエネルギーが反跳電子(𝐸𝑒 )に与えられて飛び出し、残りのエネルギーを持つ散乱光子が別方向に飛んでいく様子。軌道電子は束縛エネルギー(ϕ)で原子核に保持されていた。

コンプトン効果は光電効果と有名度で双璧をなす現象です。
光電効果との大きな違いは光子が軌道電子に衝突した後に消滅するかしないかです。

コンプトン効果は入射光子が消滅せず、散乱し、散乱光子と呼ばれます。

光電効果やコンプトン効果は「光子と物質との相互作用」で更に詳しく見ていきましょう。

粒子線による電離

電子線や α 線のような重荷電粒子線も電離を起こします。
電子と重荷電粒子に分けてみていきましょう。

電子による電離

電子が他の電子にぶつかって飛ばす“電子による電離”の図。エネルギーの高い電子がぶつかることで、中の電子が外に飛び出している様子。

電子による電離は、イメージとしてコンプトン効果に近いです。
主な電離方法は衝突です。衝突して弾き飛ばします。
入射電子が軌道電子を原子外まで弾き飛ばすという流れです。
このとき、入射電子が消滅することはなく、散乱電子として残存します。

エネルギーの分配を考えてみると、入射電子の運動エネルギーが電離電子や散乱電子の運動エネルギーに分配されます。その際、結合エネルギーの切断も考慮しなくてはなりません。
式で表すとこうなります。

光電効果と同様に、電離の際は「結合エネルギーの切断」が付いて回ります。

重荷電粒子による電離

重い粒子が進む道すがら、たくさんの電子をはじき飛ばしながらエネルギーを失っていく様子。電離の数が多く、一直線に進むのが特徴。

重荷電粒子の電離は少し事情が異なります。
まさにカリスマのごとく周りの軌道電子を誘惑して電離していきます。

重荷電粒子による電離は衝突がメインとはなりません。
重荷電粒子の場合はクーロン力による電離が主となります。
正(+)の電荷を持ち、質量も大きい重荷電粒子は、原子の間を我が物顔でまっすぐに突き進んでいきます。
負(-)の電荷を持ち、質量の軽い軌道電子は重荷電粒子の電荷に引き寄せられて根こそぎ電離されてしまします。
だから、重荷電粒子の電離量は多くなるのです。

重い粒子が止まる直前にたくさんの電子をはじき飛ばす様子をグラフで表したもの。『ブラッグピーク』と呼ばれる山の部分で、電離の量が最大になる。

特に重荷電粒子のエネルギーが小さくなって速度が落ちてくる(止まりかける)と、軌道電子に対してじっくりとクーロン力を効かせるようになります。
すると、軌道電子がより多く電離されることになり、これがブラッグピークの形成に繋がっていきます。

まとめ

たなまる
たなまる

電離は軌道電子が原子外までいきます。励起は原子内で留まります。

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外部リンク

ATOMICA「電離と励起」関連項目(日本原子力研究開発機構)
リンク先で用語検索できます。正式名称で詳細が知りたい方に最適。

By たなまる

1984年生まれの放射線技師です。 放射線技師養成校で核医学・物理・電気の講義を担当しています。 放射線技師の割に、不思議なことに現場科目より基礎科目の方を多く持っています。そのせいか、学生からは技師じゃないと思われている節があります。 専門知識よりは、学生が理解しやすい表現を心がけています。

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