放射線の散乱とは?|レイリー散乱・コンプトン散乱などの分類と違いをわかりやすく解説

散乱の分類  用語・現象

皆さんを悩ませる用語の一つに「散乱」があります。

なにがそんなに悩ませるかって、散乱にはたくさんの種類があるからです。

そして、なおかつ
・・・この理由は我々教える側にも責任があると思うのですが・・・
初めて「〇〇散乱」と聞く皆さんに対して、違いを説明しないまま用語を使ってしまっているケースが見受けられます。

私自身、初登場の用語には必ず解説を付けるようにしていますが、有名な用語ほど、うっかり解説を忘れてしまいがちです。

そんなときは、講義を止めてでも解説を求めましょう。
それが講義を受ける側の権利です。
そして、それに対して解説をするのが講師の義務です。

そんな〇〇散乱の違いを把握して授業・講義に取り組んでいただければ、講義中での理解度に貢献できるのではないか?
ということで、ご紹介したいと思います。

たなまる
たなまる

万が一、私が講義中に解説を忘れた場合の保険としても機能してもらいましょう。

そもそも散乱とは?

散乱・・・中学校だか高校だかで出てきたような記憶があります。

40代の私の記憶ですから、甚だ怪しいです。

こういうときは、辞書に限ります。
引用してみましょう。

引用:

波動または粒子線が多数の小物体、分子、原子、電子などと衝突し、進行方向を変えること。

『医用放射線辞典 第5版』 (医用放射線辞典編集委員会 編) 

やはり辞書。分かりやすく説明してくれています。
この辞書、私が学生の頃から愛用しているものですが、もう第5版なんですね。
家にあるのは第3版だったかな・・・

もっと要約すると、

散乱とは放射線が何かに当たって、向きを変えて飛んで行くこと。

という感じで捉えることができます。

散乱を分類していこう

まずは大枠から攻めていきましょう。

散乱現象の分類には運動エネルギーの保存状況や散乱の角度など様々な要素があります。

ここでは、運動エネルギーの保存状況を主軸に分類していきましょう。

運動エネルギーの保存状況による分類

散乱前後で運動エネルギー保存則が成立するか否かで分類することができます。

そこからさらに運動エネルギーの変化で細かく分類できます。

樹形図で示してみました。

散乱の分類図。散乱は「弾性散乱」と「非弾性散乱」に分けられ、さらに弾性散乱は「干渉性散乱」と「非干渉性散乱」に細分される。

まずは散乱前後で運動エネルギー保存則が成立するか否かです。

成立するならば、「弾性散乱となり、成立しないのならば、「非弾性散乱となります。

運動エネルギー保存則の成立とは散乱前後の運動エネルギーの合計値が一致するかどうかです。

一致すれば成立となります。

弾性散乱の場合

弾性散乱の模式図。左から右に入射するエネルギー10の放射線が、中心の静止粒子と衝突し、エネルギー7の散乱線とエネルギー3の飛び出す粒子に分かれる様子。エネルギーの総和は衝突前後で10のままで保存されている。

散乱(衝突)前、入射放射線の運動エネルギーは10、粒子は停止しているので0とします。

散乱後、入射放射線は散乱線となり、その運動エネルギーは7、粒子は運動エネルギー3をもって飛んで行くとします。

散乱前の運動エネルギーの合計値10
散乱後の運動エネルギーの合計値10

散乱前後の運動エネルギーの合計値は共に10で一致しています。

これが弾性散乱です。

非弾性散乱の場合

非弾性散乱の模式図。左から飛んできたエネルギー10の入射粒子が静止していた粒子に衝突し、エネルギー5の散乱粒子とエネルギー2の飛び出す粒子に分かれる。エネルギーの総和は衝突後に7となり、エネルギー保存が成り立たない非弾性散乱であることを示している。

散乱前は先ほどと同様。入射放射線10、粒子は0です。

散乱後、入射放射線は散乱線となり、その運動エネルギーは5、粒子は運動エネルギー2をもって飛んで行くとします。

散乱前の運動エネルギーの合計値10
散乱後の運動エネルギーの合計値7

散乱前後の運動エネルギーの合計値が10と7で一致していません。

失った3は粒子の励起などに使われます。

こうなると、非弾性散乱となります。

運動エネルギー変化による弾性散乱の分類

弾性散乱はさらに分類することができます。

入射放射線の運動エネルギーが散乱前後で変化するか否かで分かれます。

入射放射線の運動エネルギーが変化しないときは「干渉性散乱運動エネルギーが変化するときは「非干渉性散乱となります。

干渉性散乱の場合

エネルギー10の粒子が止まっている粒子に当たって向きだけ変わって進んでいく様子。エネルギーは変わっていないので、「ぶつかっても減ってない」ことがわかる。

入射放射線の運動エネルギー10
散乱放射線の運動エネルギー10

となり、運動エネルギーに変化がなく、進行方向のみが変化しています。

また、散乱前後の運動エネルギーの合計値は

散乱前の運動エネルギーの合計値10
散乱後の運動エネルギーの合計値10

となり、弾性散乱であることも分かると思います。

つまり、「干渉性散乱は弾性散乱のうち、入射放射線の運動エネルギーが変化しないもの」と説明できます。

非干渉性散乱の場合

弾性散乱の模式図。左から右に入射するエネルギー10の放射線が、中心の静止粒子と衝突し、エネルギー7の散乱線とエネルギー3の飛び出す粒子に分かれる様子。エネルギーの総和は衝突前後で10のままで保存されている。

入射放射線の運動エネルギー10
散乱放射線の運動エネルギー7

となり、運動エネルギーを変化させつつ、進行方向も変化しています。

また、散乱前後の運動エネルギーの合計値は

散乱前の運動エネルギーの合計値10
散乱後の運動エネルギーの合計値10

となり、弾性散乱であることも分かると思います。

つまり、「非干渉性散乱は弾性散乱のうち、入射放射線の運動エネルギーが変化するもの」と説明できます。

実際の散乱現象を分類してみると・・・

よく見かける散乱現象を分類してみましょう。

レイリー散乱

光が原子のまわりを通るとき、エネルギーはそのままで向きだけ変わってはね返される「レイリー散乱」を表した図。電子の場所は変わらず、光だけが向きを変えているよ。

レイリー散乱は光子(X線、γ線)と軌道電子との散乱です。

このとき、散乱光子のエネルギーは入射光子と等しくなります。

つまり、弾性散乱のなかの干渉性散乱に分類されます。

コンプトン散乱

光の粒(光子)が電子にぶつかって、エネルギーを分け合いながら跳ね返っていく様子を表した「コンプトン効果」の図。光のエネルギーの一部が電子に伝わって、電子が飛び出す。

コンプトン散乱は光子(X線、γ線)と電子(軌道電子でも自由電子でも)との散乱です。

このとき、散乱光子のエネルギーは入射光子とは異なってきます。
※等しい場合もあります。

図の場合、軌道電子を電離させるためには結合エネルギーを切断する必要があります。

切断する分のエネルギーは消費されてしまいますので、エネルギー保存則が成立しないことになります。

つまり、コンプトン散乱は非弾性散乱となります。

がしかし、切断に要するエネルギーが入射光子のエネルギーに比べて、無視できるほど小さい場合、エネルギー保存則が成立するとみなし、弾性散乱として扱って差し支えありません。

国家試験ではコンプトン散乱は・・・

弾性散乱として

扱います。

入射光子と散乱光子でエネルギーは異なってきますので、弾性散乱の中の非干渉性散乱に分類されます。

※主任者試験では軌道電子の結合エネルギーを無視しないので、厳密に非弾性散乱として扱いますので、注意が必要です。

まとめ

たなまる
たなまる

散乱の分類が直接国家試験に出題されることはないと思いますが、放物を理解するうえでは、知っているとお得な知識です。
分類は
① エネルギー保存則が成立するか。
② 入射放射線のエネルギーが変化するか。
ここで判断してください。

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