
みなさん、こんにちは。たなまるです。
放射線技師の国家試験の前に主任者試験に挑戦するってよく聞きますよね。
主任者試験に特有な単位の問題があるってご存知ですか?
それは色々な単位をSI単位で表す問題。
これ、普段使わない表現が多くて、すっごく困惑しやすいんです。
物理の後半に出てくる計測学領域で登場する機会が多く、ここで得点できると合格に間違いなく近付きます。
600人の放射線技師を育成した放物の学習法、伝授していきます。
あっ、今回は主任者向けでしたね。
目次
さっそく解答例
「初学 放射線物理学 ワークブック」検索番号 A04 の穴埋め解答例と解説です。
先に自分で穴を埋めてみてからの答え合わせでも良いですし、解答例を写してから覚えていっても良いです。ご自分に合ったスタイルで取り組んでください。

解説

ここでのポイントは2つです。
- SI単位までバラして覚える単位
- 物理量の名称と単位の法則性
下記リンク(SI基本単位)を復習してから読み進めていただくと、より効果的に学習が進みます。

SI単位までバラして覚える単位
主任者試験で出題傾向のある、SI単位までバラす単位はコチラ。
- エネルギー
- 吸収線量
- 質量阻止能
- 照射線量
この4つが良く出題されます。
これらのSI単位は普段は使わないけど、試験で出てくる単位の表現です。
使いどころが無いのに出題されるなんて、ナンセンス・・・とは思わず、頭の体操だと思って取り組んでいきましょう。

この単位の分解に慣れると、今まで関係ないと思っていた物理量同士が繋がっていた。なんてことが起こるかもしれません。
このメリットが非常に大く、単位の理解度が一段深まる感じです。
この中で一番重要なのは、エネルギーです。
吸収線量や質量阻止能はその中にエネルギーの要素を含んでいます。
そう、結局はエネルギーをどう表すかがポイントになっています。
エネルギー
本日のメインディッシュ、エネルギーのSI単位化から見ていきます。
エネルギーをSI単位で表すとこうなります。

高校で物理を履修していた方はこんな公式を覚えていませんか?

ご存知のように、有名な運動エネルギーの公式ですね。
それぞれの文字を定義しておきましょう。
こういった文字の定義も物理を理解するうえでとても大切です。
同じ文字でも筆者と読者で異なる物理量を当てはめてしまうと、話が通じなくなりますからね。
単位を添えるのもポイントです。
E:運動エネルギー [J]、m:運動する物体の質量 [kg]、v:運動する物体の速度 [m/s]
ここで、先ほどの公式を単位に置き換えます。数字の部分の単位はありませんのでカットします。

冒頭でお伝えした通りの単位になりましたね。
こういった有名な公式からSI単位を導けば、覚えるハードルは必ずしも高くありませんよね。
これで、[J] をSI基本単位まで分解することができました。
この [J] の分解は放射線技師の国家試験で使うことはほぼありません。
じゃ、やりたくない?
まぁまぁそう言わずに・・・
主任者試験ではよく見かけます。
主任者を狙っている方は、第1種、第2種問わず押さえておいてくださいね。
吸収線量
吸収線量をSI単位で表現すると

となります。
しかし、一般的に吸収線量の単位は [Gy] ですよね。
これは「特別な単位」と言われるもので、この単位だけでは意味合い的なものは伝わってきません。
単位を理解するうえで大事なのは、どういう意味を持った単位なのかを理解することです。
吸収線量は 単位質量あたりに吸収されたエネルギー です。
しっかりとエネルギーの成分が入っていますね。
これを単位で表現し、SI単位化するプロセスはこうなります。

こうしてみると、Gyは速度の2乗と等しい物理量なんだと言えますね。
これといって使いどころはありませんが、選択肢の1つとしては出てくる可能性があります。
Jの分解が大好きな主任者試験では出題されるかもしれませんね。
質量阻止能
質量阻止能の単位はこうです。

これを吸収線量のときと同様に、 J を変換していきます。

距離の4乗というピンとこない物理量が出てきましたが、大丈夫。合っています。
面積と速度の2乗の積ということになりますね。
照射線量
照射線量の概念と定義を確認しておきましょう。
照射線量は
光子(X線やγ線)が乾燥した空気中1kg中にどれだけの電荷を発生させたか(どれだけ電離したか)
を表しています。
つまり、単位としては、

となります。電荷を質量で除していることがわかりますね。
単位体積当たりに発生した電荷ということになります。
CはSI基本単位ではありませんが、放射線の世界では電荷はSI基本単位級に大切ですので、ラインナップしてみました。
念のため、教科書などで良く見かける表現もご紹介しておきましょう。
照射線量は光子によって放出されたすべての電子(陰電子と陽電子)が空気中に完全に止まったときに、空気中で発生した一方の符号(+かー)のイオンの全電荷の総和の絶対値である。
西臺 武弘著 放射線医学物理学 第3版 増補
この教科書の説明文だけで理解できれば良いんですが、ちょっと厳しいですよね。
私も学生時代に理解しきれていなかったような記憶があります。
こういうときは図も併用して覚えてしまいましょう。

光子によって発生した二次電子が質量dmの空気中を進みながら、8回の電離を起こしたとしましょう。
そうしますと、発生させた電荷量は -1.6×10-19×8=-1.28×10-18 C となりますね。
これを絶対値にしますから、-の符号を取って、 1.28×10-18 C とすればOKです。
これを空気の質量dmで割ってあげれば、照射線量を求めることができます。
おっと、単位だけのつもりが脱線して照射線量そのものの説明になってしまいましたね。
我々教員の悪いクセでございます。
まぁ、復習がてらお付き合い頂けたと信じることにします。
ついでに調べてみよう
エネルギーの表現がポイントだということは分かりましたね。
出題傾向はないものの、エネルギーの要素が含まれる単位は他にもあります。
よく見かける単位をご紹介しておきましょう。
電力の単位 W
電力は単位時間に電流がする仕事(量)として定義されています。
その単位は W ですが、この中にエネルギーの J が隠されています。
まずは定義から単位が想像できますか?
大事な部分を抜き出すと、こうですよね。
単位時間当たりの仕事

つまり、仕事の単位 [J] を時間の単位 [s] で除せば良いというところに気付きましたか?

さきほど求めたエネルギーの単位 kgm2/s2 を時間 s で除したものになってますね。
特別な単位の読み方
電力 W 以外にも特別な単位が設定されている物理量は多くあります。
一部をご紹介します。
- 放射能の特別な単位は [Bq] で「ベクレル」と読みます。
放射能は単位時間あたりに壊変する原子核の数です。
そのSI単位は [1/s] となります。 - 周波数の特別な単位は [Hz] で「ヘルツ」と読みます。
周波数は単位時間あたりの波の数です。
そのSI単位は [1/s] となります。
概念としては放射能と同じということになります。 - 断面積の特別な単位は [B] で「バーン」と読みます。
断面積は現象の起こりやすさを表した用語です。
そのSI単位は [m2] です。
この他にも色々と特別な単位が登場しますが、挙げ出したらキリがありませんのでその都度解説していきましょう。
物理量の名称と単位の法則性
単位の名称にはある程度のルールがあります。
このルールを知っているかいないかで国試で1点変わると思えば、覚える価値も見いだせるのではないでしょうか。
比較的覚えやすいものを上げておきます。
- 〇〇率とあれば、「単位時間当たりの」の意
- 線〇〇とあれば、「単位長さ当たりの」の意
- 〇〇フルエンスとあれば、「単位面積当たりの」の意
さて、ルールが見えてくれば、単位ごとに覚える必要はなくなりますよね。
暗記もこれと同じです。
ルールを覚えてから、例外を覚える。
世の中にはすべて丸暗記できる猛者がいますが、私は記憶をつかさどる海馬が小さいのか、はたまた持っていないのかっていうくらい暗記が苦手なので、「ルールと例外」で最低限を覚えています。
実際の問題を見ていきましょう

2014年に実施された第59回からのご紹介。
こちらは放射線技師国家試験ではなく、第1種放射線取扱主任者試験からです。
解答を確認する。
正解は 4 です。
このページの序盤で出てきたんだけど覚えているかな?
実際にそのものズバリが出題されると「やっといたほうが良いかな」って感が増すでしょ?
一応、念のため式変形を再掲しておくことにしよう。

医療現場での関わり

医療現場で Gy や J が登場するのはなんといっても放射線治療が最有力ではないでしょうか。
単位のSI単位変換こそ行いませんが、 Gy をこんなに使う場面は他にありません。
ただ、放射線治療ではMeV単位でエネルギーを表現しますから、JにしてからGyに持っていくという単位変換は行っているはずです。
まとめ

・単位はバラして考えると定義そのものになっていたり、その物理量の意味が隠れていることがよくあります。
・主任者でも単位の分解はよく出題されますので、丸覚えではなく理解しておきましょう。
・単位の理解は合格への糸口です。
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