C19 コンプトン散乱の計算

コンプトン散乱の計算では、散乱したX線のエネルギーや、電子に与えられるエネルギーを求める問題が出題されます。
式だけを見ると少し複雑ですが、「何のエネルギーを求めるのか」を確認すると、使う式が見えてきます。

今回は、散乱角を使った基本的な計算から、電子に与えられる最大エネルギーまで見ていきましょう。

コンプトン散乱の計算問題の解き方

コンプトン散乱の計算問題では、問題文にいくつかのエネルギーや角度が登場します。
そのため、いきなり式に数字を代入しようとすると、「どの数字をどこに入れるのか」が分からなくなりがちです。

まずは計算を始める前に、「何を求める問題なのか」と「どの値が与えられているのか」を確認しましょう。
ここが整理できれば、あとは必要な式に数字を入れて、順番に計算していくだけです。

そうそう。
オレにも分かるようにやってや!

よし。
その温度感でやっていこうか。

まず「何のエネルギーを求めるのか」を確認する

コンプトン散乱の計算では、主に次の2つのエネルギーが登場します。

・散乱したX線のエネルギー
・電子に与えられたエネルギー

まず、問題文の最後を見て、どちらを求めるのか確認します。

たとえば、

「散乱X線のエネルギーを求めよ」

と書かれていれば、求めるのは散乱後のX線のエネルギー$E’_\gamma$です。

一方で、

「電子に与えられたエネルギーを求めよ」

と書かれていれば、求めるのは電子のエネルギー$E_e$です。

コンプトン散乱では、入射したX線のエネルギーの一部が電子へ与えられ、残ったエネルギーを持つX線が散乱します。
そのため、「X線のエネルギー」と「電子のエネルギー」を混同しないことが大切です。

計算を始める前に、まず求める量へ丸を付けるくらいのつもりで確認しておきましょう。

なるほど!
まずは求めるもんを明確にするんやな。

問題文から必要な値を拾い出す

求めるものを確認したら、次に問題文に書かれている数値を拾い出します。

コンプトン散乱の計算では、主に次の値を使います。

・入射X線のエネルギー$E_\gamma$
・散乱角$\varphi$
・電子の静止エネルギー$mc^2$

たとえば、

「1 MeVのX線が静止している電子と衝突し、120°の散乱角で散乱した」

という問題なら、

$E_\gamma=1\ \mathrm{MeV}$

$\varphi=120^\circ$

と読み取れます。

さらに、電子の静止エネルギーを

$mc^2=0.5\ \mathrm{MeV}$

として計算するのであれば、必要な値はこれでそろいます。

ここまでできたら、ようやく式に数字を代入します。

最初から式とにらめっこするのではなく、

「何を求めるのか」

「何が与えられているのか」

この2つを先に確認してから計算を始めましょう。

散乱X線のエネルギーを求めてみよう

ここからは、実際に数字を使って計算していきます。
最初に求めるのは、コンプトン散乱後のX線が持っているエネルギーです。

式を見ただけで嫌にならなくて大丈夫です。
数字を一気に計算するのではなく、1か所ずつ置き換えながら進めていきましょう。

例題 散乱角120°の散乱X線のエネルギー

1 MeVのX線が静止している電子と衝突し、120°の散乱角で散乱したとします。
このとき、散乱X線のエネルギーを求めてみましょう。

今回使う値は、

$E_γ=1\ \mathrm{MeV}$

$mc^2=0.5\ \mathrm{MeV}$

$φ=120^\circ$

です。

散乱X線のエネルギー$E’_γ$は、次の式で求めます。

$E’_γ=\frac{E_γ}{1+\frac{E_γ}{mc^2}(1-\cos φ)}$

まずは、式の中にある文字を問題文の数字へ置き換えていきます。

$E_γ$は1 MeVなので、

$E_γ\rightarrow1$

と置き換えます。

$mc^2$は0.5 MeVなので、

$mc^2\rightarrow0.5$

と置き換えます。

散乱角$φ$は120°なので、

$φ\rightarrow120^\circ$

と置き換えます。

すると、

$E’_γ=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}(1-\cos120^\circ)}$

となります。

ここまでできれば、あとは分母を順番に計算していきます。

数値を1つずつ代入して計算する

ここからは、式を途中で分断せず、計算の流れをそのまま追っていきます。

$\begin{aligned}
E’_γ
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}(1-\cos120^\circ)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}\left(1-\left(-\frac{1}{2}\right)\right)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}\left(1+\frac{1}{2}\right)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}\left(\frac{2}{2}+\frac{1}{2}\right)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}\times\frac{3}{2}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+2\times\frac{3}{2}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{6}{2}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+3}\\[6pt]
&=\frac{1}{4}\\[6pt]
&=0.25\ \mathrm{MeV}
\end{aligned}$

したがって、散乱X線のエネルギーは0.25 MeVです。

このように、途中の計算を省略せずに1段ずつ式変形していけば、複雑に見えるコンプトン散乱の式でも計算の流れを追いやすくなります。

電子に与えられるエネルギーの計算

次は、コンプトン散乱によって電子に与えられるエネルギーを求めてみましょう。

先ほどの計算では、1 MeVのX線が120°の方向へ散乱したとき、散乱X線のエネルギーは0.25 MeVになりました。

電子に与えられるエネルギーは、この0.25 MeVを利用して求めることもできますし、電子のエネルギーを求める式から直接計算することもできます。

ここでは、2通りの方法で同じ答えになることを確認してみましょう。

散乱X線のエネルギーから求める方法

入射したX線のエネルギーは、散乱X線と電子に分かれます。

したがって、入射X線のエネルギーから散乱X線のエネルギーを引けば、電子に与えられたエネルギーを求めることができます。

$\begin{aligned}
E_e
&=E_γ-E’_γ\\[6pt]
&=1-0.25\\[6pt]
&=0.75\ \mathrm{MeV}
\end{aligned}$

したがって、電子に与えられるエネルギーは0.75 MeVです。

すでに散乱X線のエネルギーが求められている場合は、この方法で計算するのが簡単です。

電子のエネルギーを直接求める方法

電子に与えられるエネルギーは、次の式から直接求めることもできます。

$\begin{aligned}
E_e
&=\frac{E_γ}{1+\frac{mc^2}{E_γ(1-\cos φ)}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{0.5}{1(1-\cos120^\circ)}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{0.5}{1\left(1-\left(-\frac{1}{2}\right)\right)}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{0.5}{1\left(1+\frac{1}{2}\right)}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{0.5}{1\times\frac{3}{2}}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{0.5}{\frac{3}{2}}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{\frac{1}{2}}{\frac{3}{2}}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{2}\times\frac{2}{3}}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{3}}\\[6pt]
&=\frac{1}{\frac{3}{3}+\frac{1}{3}}\\[6pt]
&=\frac{1}{\frac{4}{3}}\\[6pt]
&=1\times\frac{3}{4}\\[6pt]
&=\frac{3}{4}\\[6pt]
&=0.75\ \mathrm{MeV}
\end{aligned}$

こちらの方法でも、電子に与えられるエネルギーは0.75 MeVとなります。

どちらの方法でも答えは同じです。
散乱X線のエネルギーがすでに分かっている場合は引き算で求め、直接求めたい場合は電子のエネルギーを求める式を使いましょう。

電子に与えられる最大エネルギーを求めてみよう

最後は、電子に与えられるエネルギーが最大になる場合を計算してみましょう。

コンプトン散乱では、散乱角が大きくなるほど散乱X線のエネルギーは小さくなり、その分だけ電子に与えられるエネルギーは大きくなります。

したがって、電子に与えられるエネルギーが最大になる条件を確認してから計算を始めます。

最大エネルギーでは散乱角180°を使う

電子に与えられるエネルギーが最大になるのは、散乱角が180°のときです。

つまり、「電子に与えられる最大エネルギー」を求める問題では、

$φ=180^\circ$

として計算します。

今回は、1 MeVのX線が静止している電子とコンプトン散乱を起こした場合を考えます。

使用する値は、

$E_γ=1\ \mathrm{MeV}$

$mc^2=0.5\ \mathrm{MeV}$

$φ=180^\circ$

です。

散乱X線のエネルギーから電子のエネルギーを求める

まず、180°散乱したあとのX線のエネルギーを求めます。

$\begin{aligned}
E’_γ
&=\frac{E_γ}{1+\frac{E_γ}{mc^2}(1-\cos φ)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}(1-\cos180^\circ)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}(1-(-1))}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}(1+1)}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+\frac{1}{0.5}\times2}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+2\times2}\\[6pt]
&=\frac{1}{1+4}\\[6pt]
&=\frac{1}{5}\\[6pt]
&=0.2\ \mathrm{MeV}
\end{aligned}$

180°散乱したあとのX線のエネルギーは0.2 MeVです。

次に、入射X線のエネルギーから散乱X線のエネルギーを引きます。

$\begin{aligned}
E_e
&=E_γ-E’_γ\\[6pt]
&=1-0.2\\[6pt]
&=0.8\ \mathrm{MeV}
\end{aligned}$

したがって、1 MeVのX線がコンプトン散乱を起こした場合、電子に与えられる最大エネルギーは0.8 MeVです。

「最大エネルギー」と書かれていたら、まず散乱角180°を使うことを思い出しましょう。

実際の過去問を見てみよう

2021年に実施された第73回国家試験からPM72のご紹介。

第73回 2021年 PM72

511keVのγ線がコンプトン散乱するときの散乱角90度の散乱エネルギー[keV]に最も近いのはどれか。

  1.  128
  2.  170
  3.  256
  4.  341
  5.  511
答えを確認する。


正解は 3 です。

できましたか?

$\begin{aligned}
E’_γ
&=\frac{E_γ}{1+\frac{E_γ}{mc^2}(1-\cos φ)}\\[6pt]
&=\frac{0.511}{1+\frac{0.511}{0.511}(1-\cos90^\circ)}\\[6pt]
&=\frac{0.511}{1+\frac{0.511}{0.511}(1-0)}\\[6pt]
&=\frac{0.511}{1+\frac{0.511}{0.511}}\\[6pt]
&=\frac{0.511}{1+1}\\[6pt]
&=\frac{0.511}{2}\\[6pt]
&=0.256\ \mathrm{MeV}\\[6pt]
&=256\ \mathrm{keV}
\end{aligned}$

医療現場でのかかわり

コンプトン散乱によって、散乱した光子のエネルギーは入射時よりも小さくなります。

この性質は、核医学検査でも利用されています。

ガンマカメラでは、体内から放出されたγ線をすべて同じように計測するわけではありません。
目的とするγ線のエネルギーを中心に「エネルギーウインドウ」を設定し、その範囲に入ったγ線を主に画像として利用します。

患者さんの体内でコンプトン散乱したγ線は、電子へエネルギーの一部を与えているため、もとのγ線よりもエネルギーが小さくなっています。

そのため、エネルギーを測定することで、散乱していないγ線とコンプトン散乱したγ線をある程度区別できます。

今回の計算で求めてきた「散乱後の光子がどれだけのエネルギーを持つのか」という考え方は、核医学検査で散乱γ線を見分ける仕組みにもつながっているんですね。

まとめ

今回は、コンプトン散乱で散乱X線や電子のエネルギーを求める計算を行いました。
計算式を丸暗記するのではなく、「何を求める問題なのか」を確認してから、式変形を1つずつ追っていくことが大切です。

  • 散乱X線のエネルギーを求めるときは、入射X線のエネルギーと散乱角を確認する
  • 電子に与えられるエネルギーは、入射X線のエネルギーから散乱X線のエネルギーを引いて求めることができる
  • 電子に与えられるエネルギーは、専用の式から直接求めることもできる
  • 電子に与えられるエネルギーが最大になるのは、散乱角が180°のとき
  • 複雑な式でも、数値の代入とかっこの中の計算を順番に進めれば答えまでたどり着ける
  • 散乱によるエネルギーの変化は、核医学検査で散乱γ線を見分ける考え方にもつながる

計算問題は、途中式を飛ばさず1段ずつ進めれば大丈夫。まずは自分で手を動かして計算してみよう!

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次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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