C29 減弱係数、転移係数、吸収係数

X線が物質に入射すると、相互作用によって光子のエネルギーが二次電子へと受け渡されます。
しかし、二次電子が受け取ったエネルギーのすべてが、その物質に吸収されるとは限りません。

このエネルギーの受け渡しを考えるうえで重要なのが、「減弱係数」「転移係数」「吸収係数」の3つです。
それぞれが何を表しているのか、エネルギーの流れに注目しながら見ていきましょう。

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減弱係数・転移係数・吸収係数

X線が物質にエネルギーを付与するとき、そのエネルギーを実際に物質へ与えるのは、相互作用によって発生した二次電子です。
二次電子は物質中を移動しながら、電離や励起によって周囲の原子にエネルギーを与えていきます。

では、X線が持っていたエネルギーは、どのようにして二次電子へと受け渡されるのでしょうか。

このエネルギーの流れを考えるうえで重要なのが、「減弱係数」「転移係数」「吸収係数」の3つです。
まずは、それぞれの係数が何を表しているのかを確認していきましょう。

線減弱係数とは

線減弱係数とは、光子が物質中を単位長さ進む間に、相互作用によって光子が減少する割合を表す係数です。
記号には μ(ミュー)を用い、単位は m-1 です。

例えば、X線が物質を通過するとき、一部の光子は光電効果によって吸収され、別の光子はコンプトン効果によって進行方向が変化します。
このように、相互作用によって元のX線束から光子が取り除かれる現象を「減弱」と呼びます。

つまり、線減弱係数は「物質中で光子がどれだけ相互作用を起こしやすいか」を表しているのです。

「断面積」も起こりやすさだったような・・・

よく覚えてたね。
光子束ってのがポイントなんだ。
光子1つと標的1つの1対1のときは「断面積」になるんだよ。

詳しくはコッチに載っているわよ。
C13:相互作用の起こりやすさ(光子)

線エネルギー転移係数とは

X線が物質と相互作用すると、光電子やコンプトン電子などの二次電子が発生します。
このとき、入射光子が持っていたエネルギーの一部、または大部分が二次電子の運動エネルギーへと受け渡されます。

例えば、コンプトン効果では、入射光子のエネルギーの一部がコンプトン電子の運動エネルギーに転換され、残りは散乱光子のエネルギーとして持ち去られます。
つまり、入射光子が持っていたエネルギーのすべてが、二次電子に受け渡されるとは限らないのです。

そこで、入射光子のエネルギー E のうち、どれだけ二次電子の運動エネルギー Etr に転換したかを表すのが 線エネルギー転移係数 μtr です。
単位は m-1 です。

つまり、線減弱係数が「相互作用の起こりやすさ」に注目するのに対し、線エネルギー転移係数は「二次電子に転換されたエネルギーの割合」に注目した係数なのです。

相互作用が起きた後の話やな!

線エネルギー吸収係数とは

二次電子は物質中を移動しながら、周囲の原子を電離したり励起したりすることで、運動エネルギーを失っていきます。
しかし、二次電子の運動エネルギーがすべて電離や励起に費やされるとは限らず、ときには制動放射線として物質外に放出される場合もあります。

そこで、二次電子の運動エネルギーがどれだけ物質に付与されたかを表すのが 線エネルギー吸収係数 μen です。
単位は m-1 です。

つまり、線エネルギー転移係数が「光子から二次電子へ転移したエネルギー」に注目するのに対し、線エネルギー吸収係数は「制動放射線による損失を除いたエネルギー」に注目しているのです。
数では、二次電子へ転移したエネルギーから、制動放射線による損失分を差し引いて考えます。

最終的に吸収された分ってことやろ?

その通りだよ。
ここまでは大丈夫そうだね。

光子から二次電子へのエネルギーの受け渡し

X線による物質へのエネルギー付与は、相互作用の結果生じる二次電子によるといえます。
つまり、X線が直接エネルギーを与えるのではなく、相互作用によって発生した二次電子が、周囲の物質にエネルギーを付与しているのです。

また、X線によって二次電子にエネルギーが付与された場所と、二次電子が物質にエネルギーを付与する場所は異なります。
これは、二次電子が物質中を移動しながら、周囲の原子を電離したり励起したりするためです。

それでは、次の図を使って、光子から二次電子へエネルギーが受け渡される様子を見ていきましょう。

二次電子へのエネルギー転移

エネルギー E を持つ入射光子が物質と相互作用すると、そのエネルギーの一部、または大部分が二次電子の運動エネルギーへと転移します。

例えば、図のようにコンプトン効果が起こると、入射光子はエネルギーの一部をコンプトン電子に与え、残りのエネルギーを持った散乱光子が別の方向へ進みます。

このとき、二次電子へ転移した運動エネルギーを Etr とすると、入射光子のエネルギー E に対する割合は $ \frac{E_{tr}}{E} $ で表せます。

この割合が、線エネルギー転移係数を考えるうえで重要になります。

二次電子によるエネルギー付与

エネルギーを受け取った二次電子は、物質中を移動しながら、周囲の原子と相互作用します。

その際、原子から電子を電離したり、原子内の電子を励起したりすることで、自分の運動エネルギーを物質に与えていきます。

ここで重要なのは、二次電子が発生した場所と、二次電子がエネルギーを付与する場所が必ずしも一致しないことです。

図でも、コンプトン効果が起こった位置から二次電子が移動し、別の位置で電離や励起を起こしている様子が描かれています。

つまり、光子から二次電子への「エネルギー転移」と、二次電子から物質への「エネルギー付与」は、異なる場所で起こる場合があるのです。

オカンからお小遣いもらった場所と、
買い食いして使った場所が違う!
みたいなもんか?

言われてみれば同じだな。

制動放射線によるエネルギー損失

二次電子が持っている運動エネルギーは、必ずしもすべて電離や励起に使われるわけではありません。

二次電子が原子核の近くを通過すると、原子核の電場によって進行方向が曲げられたり、減速したりすることで、制動放射線が発生する場合があります。

図では、二次電子が持っていた運動エネルギーの一部が、制動放射線として物質外へ放出されています。

このように、二次電子へ転移したエネルギーの一部が制動放射線として失われるため、二次電子へ転移したエネルギーと、物質に付与されたエネルギーは必ずしも等しくなりません。

そこで、二次電子の運動エネルギーのうち、制動放射線として失われる割合を g として考えます。

この g を使うことで、線エネルギー転移係数と線エネルギー吸収係数の関係を表すことができます。

転移係数と吸収係数の関係

ここまで、光子から二次電子へのエネルギー転移と、二次電子から物質へのエネルギー付与について見てきました。

この2つの違いを数式で表すために使うのが、「線エネルギー転移係数」と「線エネルギー吸収係数」です。
それぞれの計算式を確認していきましょう。

線エネルギー転移係数の計算式

線エネルギー転移係数は、入射光子のエネルギーのうち、どれだけ二次電子の運動エネルギーに転換したかを表す係数です。

入射光子のエネルギーを E、二次電子へ転移した運動エネルギーを Etr、線減弱係数を μ とすると、次の式で表されます。

$$
\color{#B22222}{
\mu_{tr}=\mu \frac{E_{tr}}{E}
}
$$

この式では、Etr / E が「入射光子のエネルギーのうち、二次電子の運動エネルギーに転換した割合」を表しています。

例えば、入射光子のエネルギーの80%が二次電子の運動エネルギーに転換された場合、線エネルギー転移係数は線減弱係数の0.8倍になります。

また、Etr / E はエネルギー同士の比なので、単位はありません。
したがって、線エネルギー転移係数の単位は、線減弱係数と同じ m-1 になります。

線エネルギー吸収係数の計算式

線エネルギー吸収係数は、二次電子へ転移したエネルギーのうち、制動放射線による損失を除いたエネルギーに注目した係数です。

ここで、制動放射線として失われるエネルギーの割合を g とすると、線エネルギー吸収係数は次の式で表されます。
※線エネルギー転移係数と線エネルギー吸収係数の関係も併せて把握しましょう。

$$
\color{#B22222}{
\begin{aligned}
\mu_{en}&=\mu_{tr}(1-g) \\[6pt]
&=\mu \frac{E_{tr}}{E} (1-g)
\end{aligned}
}
$$

この式の (1-g) は、二次電子へ転移したエネルギーのうち、制動放射線として失われなかった割合を表しています。

例えば、二次電子の運動エネルギーの10%が制動放射線として失われた場合、g=0.1 となるため、線エネルギー吸収係数は線エネルギー転移係数の0.9倍になります。

また、g はエネルギーの割合なので、単位はありません。
したがって、線エネルギー吸収係数の単位も m-1 になります。

つまり、線エネルギー吸収係数は、線エネルギー転移係数から制動放射線による損失分を差し引いた係数なのです。

なお、制動放射線によるエネルギー損失が無視できる場合は g=0 と考えられるため、線エネルギー転移係数と線エネルギー吸収係数は等しくなります。

実際の過去問を見てみよう

出題年すら追えないくらい古い問題ですがご紹介しましょう。

光子と物質の相互作用について誤っているのはどれか。

  1. 光電効果は光電子と特性X線の放出を伴う。
  2. 1MeVのγ線と生体との相互作用のうち、主なものはコンプトン散乱である。
  3. 電子対生成は光子のエネルギーが1.02MeV以上で起こる。
  4. 線減弱係数は光子が単位長さを通過するとき、その物質と相互作用を起こす確率である。
  5. 質量エネルギー吸収係数と質量エネルギー転移係数とは等しい。
答えを確認する。


正解は 5 です。

できましたか?

  1. 正しい
    光電子として放出された軌道電子が元々あったところは空位になります。
    空位があれば特性X線もしくはオージェ電子の放出が起こります。
  2. 正しい
    これは覚えてしまいましょう。
    1MeVは物質に寄らずコンプトン散乱が最も生じやすくなります。
  3. 正しい
    電子対生成は質量エネルギー0.511MeVの陰電子と陽電子を生成する反応です。
    0.511MeVが2つなので1.022MeV以上のときでないと起こりません。
  4. 正しい
    線減弱係数の定義そのものです。
    覚えましょう。
  5. 誤り
    質量エネルギー吸収係数と質量エネルギー転移係数は必ずしも一致しません。
    一致する場合は二次電子が制動放射を起こさなかった場合のみです。

医療現場でのかかわり

診療放射線技師が扱う放射線の線量には、「空気カーマ」や「吸収線量」など、さまざまな物理量があります。
これらを理解するうえで重要になるのが、今回学んだエネルギー転移係数とエネルギー吸収係数です。

例えば、X線撮影装置の出力を測定するときには、空気カーマという物理量が使われます。
空気カーマとは、X線などの間接電離放射線によって、空気中の二次電子に転移した運動エネルギーを単位質量あたりで表したものです。

一方、吸収線量は、放射線によって物質に付与されたエネルギーを単位質量あたりで表したものです。

つまり、空気カーマは「二次電子に転移したエネルギー」、吸収線量は「物質に付与されたエネルギー」に注目しているのです。

ここで、エネルギー転移係数とエネルギー吸収係数の違いが関係してきます。

光子から二次電子に転移したエネルギーの一部は、制動放射線として失われる場合があります。
そのため、二次電子に転移したエネルギーと、実際に物質に付与されたエネルギーは必ずしも一致しません。

なお、荷電粒子平衡が成立し、制動放射線によるエネルギー損失が無視できる条件では、カーマと吸収線量は等しくなります。

このように、エネルギー転移係数とエネルギー吸収係数は、単なる計算式ではなく、診療放射線技師が線量測定の結果を正しく理解するためにも重要な係数なのです。

まとめ

今回は、減弱係数・転移係数・吸収係数について学びました。
それぞれの係数が何を表しているのか、重要なポイントを振り返ってまとめていきましょう。

  • 線減弱係数は、光子が物質中を単位長さ進む間に相互作用を起こす確率を表す係数である。
  • X線による物質へのエネルギー付与は、相互作用によって発生した二次電子による。
  • 線エネルギー転移係数は、入射光子のエネルギーのうち、どれだけ二次電子の運動エネルギーに転換したかを表す係数である。
  • 二次電子にエネルギーが転移した場所と、二次電子が物質にエネルギーを付与する場所は異なる場合がある。
  • 線エネルギー吸収係数は、二次電子の運動エネルギーがどれだけ物質に付与されたかを表す係数である。
  • 二次電子の運動エネルギーの一部は、制動放射線として失われる場合がある。
  • 線エネルギー転移係数と線エネルギー吸収係数の関係は、$ \mu_{en}=\mu_{tr}(1-g)$ で表される。

相互作用の起こりやすさ、二次電子へのエネルギー転移、物質へのエネルギー付与。
この3つの違いをしっかり覚えておこう!

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次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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