X線の線量を表す単位には、グレイ(Gy)やシーベルト(Sv)などがあります。
どちらも放射線に関係する単位ですが、何を表しているのかは異なります。
また、吸収線量やカーマ、照射線量など、放射線の量を表す物理量にもいくつかの種類があります。
それぞれ何を対象として、何を測定・評価しているのでしょうか。
今回は、X線の線量に関係する5つの物理量について、その意味と単位の違いを見ていきましょう。
X線の線量と単位
X線の量を表す物理量には、吸収線量、カーマ、照射線量、等価線量、実効線量の5つがあります。
これらはすべて放射線に関係する物理量ですが、何を対象として、何を表しているのかが異なります。
まずは、それぞれの特徴を一覧表でザックリと確認してみましょう。
| 名称 | 文字 | 対象放射線 | 対象物質 | 単位 |
|---|---|---|---|---|
| 吸収線量 | D | 全放射線 | 全物質 | Gy、J/kg |
| カーマ | K | 非荷電粒子 | 全物質 | Gy、J/kg |
| 照射線量 | X | 光子 | 乾燥空気 | C/kg |
| 等価線量 | H | 全放射線 | 人体 | Sv、J/kg |
| 実効線量 | E | 全放射線 | 人体 | Sv、J/kg |
線量を表す5つの物理量
放射線の線量には、測定や評価する目的に応じて、いくつかの種類があります。
吸収線量とカーマは、放射線によるエネルギーの移動に関係する物理量です。
一方、照射線量は、X線やγ線によって空気中に発生した電離を表す物理量です。
さらに、人体への放射線の影響を考えるときには、等価線量や実効線量が用いられます。
この2つは、放射線の種類や人体の組織による影響の違いを考慮した、放射線防護のための物理量です。
それぞれの線量には決められた文字があり、次のように表します。
- 吸収線量:D
- カーマ:K
- 照射線量:X
- 等価線量:H
- 実効線量:E
これらの文字は、放射線に関する計算式でも使用するので、線量の名称とセットで覚えておきましょう。
ちなみに、文字の上にドットが付くと〇〇率を表すことになります。
例えば $ D $ は吸収線量ですが $\dot{D}$ だと吸収線量率となります。

〇〇率ってなんやったっけ?

〇〇率っていうのは
「単位時間当たりの量」って意味だよ。
時間の概念で除したものなんだ。
線量の対象放射線と対象物質
5つの線量は、対象とする放射線や物質にも違いがあります。
まず、吸収線量は、X線やγ線だけでなく、電子線やα線など、すべての放射線を対象とします。
また、対象物質にも制限がなく、人体や水、空気など、あらゆる物質について考えることができます。
カーマは、X線やγ線、中性子線などの非荷電粒子を対象とする物理量です。
非荷電粒子とは、電荷を持たない粒子のことで、光子や中性子などが該当します。
対象物質には制限がなく、すべての物質について考えることができます。
一方、照射線量は、光子を対象とし、対象物質は乾燥空気に限定されています。
つまり、照射線量は、X線やγ線が乾燥空気に与える電離作用を表すための物理量なのです。
等価線量と実効線量は、すべての放射線を対象としますが、対象物質は人体です。
どちらも人体に対する放射線防護を目的として使用されます。
このように、同じ放射線の線量でも、対象放射線と対象物質には違いがあります。
線量の単位
線量を表す単位には、グレイ(Gy)、クーロン毎キログラム(C/kg)、シーベルト(Sv)があります。
吸収線量とカーマには、グレイ(Gy)が使用されます。
グレイは、質量1 kg当たりのエネルギーを表す単位で、次の関係があります。
1 Gy = 1 J/kg
つまり、1 Gyは、物質1 kg当たり1 Jのエネルギーに相当することを意味しています。
照射線量には、クーロン毎キログラム(C/kg)が使用されます。
クーロン(C)は電荷の単位なので、C/kgは乾燥空気1 kg当たりに発生した電荷の量を表しています。
一方、等価線量と実効線量には、シーベルト(Sv)が使用されます。
シーベルトも、単位としては次の関係があります。
1 Sv = 1 J/kg
ただし、グレイとシーベルトは、同じJ/kgという単位で表せても、意味が異なります。
グレイは放射線によるエネルギーの移動や吸収を表す単位であり、シーベルトは放射線防護のために人体への影響を考慮した線量を表す単位です。
線量を学ぶときには、単位だけを暗記するのではなく、「何を表している単位なのか」までセットで理解しておきましょう。
エネルギーに関する線量
吸収線量とカーマは、どちらも放射線のエネルギーに関係する物理量です。
単位も同じグレイ(Gy)ですが、それぞれ注目しているエネルギーが異なります。
その違いを意識しながら、確認していきましょう。
吸収線量
吸収線量は、単位質量当たりに付与された平均エネルギーです。
「単位質量当たり」とは、物質1 kg当たりという意味です。
つまり、吸収線量は、放射線によって物質1 kgに平均してどれだけのエネルギーが付与されたのかを表しています。
例えば、放射線によって物質1 kgに平均1 Jのエネルギーが付与された場合、吸収線量は1 Gyとなります。
吸収線量は、X線やγ線だけでなく、電子線やα線など、すべての放射線を対象としています。
また、人体はもちろん、水や空気など、あらゆる物質に対して使用できる物理量です。
カーマ
カーマは、単位質量当たりに、非荷電粒子によって遊離したすべての荷電電離粒子の初期運動エネルギーの総和を表す物理量です。
少し難しい定義ですが、X線が物質に入射したときの様子をイメージすると理解しやすくなります。
例えば、X線が物質に入射すると、光電効果やコンプトン散乱などの相互作用によって電子が放出されます。
この電子は、X線から受け取ったエネルギーの一部を運動エネルギーとして持っています。
カーマは、このように非荷電粒子によって放出された荷電粒子の「初期運動エネルギー」に注目した物理量です。

初期運動エネルギーってなんや?

非荷電粒子から貰った瞬間のエネルギーだよ。
オカンからお小遣いもらうだろ?
そのもらった額って感じ。
どう使ったかとかは後からの話なんだ。

この図では、入射光子が相互作用によって荷電粒子へエネルギーを与え、その後、荷電粒子が物質中で電離や励起を起こしながらエネルギーを付与していく様子を表しています。
ここで重要なのは、カーマが表しているのは、荷電粒子に与えられた初期運動エネルギーであって、その場所で吸収されたエネルギーとは限らないということです。
放出された電子は、物質中を移動しながら周囲の原子や分子にエネルギーを与えていきます。
そのため、電子が発生した場所と、実際にエネルギーが付与される場所は必ずしも一致しません。
最後に、吸収線量とカーマの違いを確認しておきましょう。
- 吸収線量:物質に付与された平均エネルギーに注目する物理量
- カーマ:非荷電粒子によって遊離した荷電粒子の初期運動エネルギーに注目する物理量
どちらも単位はグレイ(Gy)ですが、吸収線量は「物質に付与されたエネルギー」、カーマは「荷電粒子が最初に受け取った運動エネルギー」に注目している点が大きな違いです。
電離に関する線量
吸収線量とカーマは、放射線のエネルギーに注目した物理量でした。
一方、照射線量は、放射線によって空気中に発生する電離に注目した物理量です。
それでは、照射線量について確認していきましょう。
照射線量
照射線量は、単位質量の乾燥空気中で、光子によって放出されたすべての電子(陰電子と陽電子)が完全に停止するまでに発生させた一方の符号(+か-)のイオンの全電荷の総和の絶対値です。
少し長い定義ですが、順番に考えてみましょう。
まず、照射線量の対象となる放射線は、X線やγ線などの「光子」です。
また、対象となる物質は乾燥した「空気」に限定されています。
光子が乾燥空気に入射すると、光電効果やコンプトン散乱などによって電子が放出されます。
この電子が空気中を移動すると、周囲の原子や分子を電離させ、陽イオンと電子を発生させます。
照射線量は、このような電離によって生じた電荷の量に注目しています。
ここで重要なのが、「放出された電子が完全に停止するまで」という部分です。
光子によって放出された電子は、発生した場所にとどまるわけではありません。
空気中を移動しながら電離を繰り返し、運動エネルギーを失って停止します。
照射線量では、この過程で発生した電荷を考えるのです。
また、電離によって生じる陽イオンと電子の電荷は、符号が反対で、大きさは等しくなります。
そのため、両方の電荷を足し合わせるのではなく、どちらか一方の符号の電荷の絶対値を使用します。
照射線量の単位は、クーロン毎キログラム(C/kg)です。
つまり、照射線量は、乾燥空気1 kg当たりに、光子によってどれだけの電荷が発生したのかを表す物理量なのです。
放射線防護に関する線量
ここまで紹介した吸収線量、カーマ、照射線量は、放射線のエネルギーや電離に注目した物理量でした。
一方、放射線が人体に与える影響を考えるときには、等価線量と実効線量が用いられます。
この2つは、放射線防護を目的として使用される物理量で、単位にはシーベルト(Sv)が使われます。
それぞれの違いを確認していきましょう。
等価線量
等価線量は、吸収線量に放射線加重係数(係数:wR)を乗じることで算出され、放射線防護に用いられます。
放射線加重係数とは、放射線の種類による人体への影響の違いを考慮するための係数です。
例えば、X線とα線では、同じ吸収線量であっても人体への影響は異なります。
そこで、放射線の種類に応じた放射線加重係数を使って、吸収線量を補正するのです。
代表的な放射線加重係数は、次のとおりです。
- X線・γ線:1
- 電子線:1
- 陽子線:2
- α線:20
- 中性子線:エネルギーによって異なる
例えば、吸収線量が1 Gyの場合、X線では等価線量が1 Svとなりますが、α線では20 Svとなります。
なお、複数の種類の放射線を受けた場合には、放射線ごとに求めた値を合計して等価線量を算出します。
このように、等価線量は、放射線の種類による影響の違いを考慮した物理量です。

つまりどういうこっちゃ?

なんの放射線によって被ばくしたかってことだよ。
ちなみに、以前は等価線量ではなく「線量当量」というものが使われていました。
現在の等価線量と線量当量は区別される概念ですので、概念の変遷として捉えて下さい。
実効線量
実効線量は、等価線量に組織加重係数(係数:wT)を乗じることで算出され、放射線防護に用いられます。
組織加重係数とは、人体の組織や臓器による放射線への感受性の違いを考慮するための係数です。
人体には、肺、胃、肝臓、甲状腺など、さまざまな臓器があります。
これらは、同じ等価線量を受けた場合でも、放射線による確率的影響のリスクが同じとは限りません。
そこで、組織や臓器ごとに決められた組織加重係数を使って、等価線量を補正するのです。
例えば、代表的な組織加重係数は、次のとおりです。
- 赤色骨髄:0.12
- 肺:0.12
- 胃:0.12
- 乳房:0.12
- 生殖腺:0.08
- 甲状腺:0.04
ちなみに、組織加重係数は、放射線の人体への影響に関する新しい知見によって見直されることがあります。
例えば、ICRPの1990年勧告では、生殖腺の組織加重係数が0.20と最も高く、乳房は0.05でした。
ところが、2007年勧告では、生殖腺が0.08に引き下げられ、乳房は0.12に引き上げられました。
このように、組織加重係数は科学的な知見の蓄積によって変わることがあります。

私が学生の頃は生殖腺がヤバいって覚えたな~

年代がバレるわね。
また、実効線量は、それぞれの組織や臓器について、等価線量に組織加重係数を乗じた値を合計して求めます。
つまり、等価線量が「放射線の種類」に注目するのに対し、実効線量は「人体の組織や臓器」に注目しているのです。
最後に、2つの線量の違いを確認しておきましょう。
- 等価線量:吸収線量に放射線加重係数を乗じて求める線量
- 実効線量:等価線量に組織加重係数を乗じ、組織や臓器について合計して求める線量
どちらも放射線防護に用いられる物理量ですが、使用する加重係数が異なります。
「放射線の種類なら放射線加重係数」「人体の組織や臓器なら組織加重係数」という対応を覚えておきましょう。

こっちは分かったで!
「どこを被ばくしたか」やろ?

その通りだよ!
実際の過去問を見てみよう
2003年に実施された第55回国家試験から問13をご紹介しましょう。
誤っているのはどれか。
- 吸収線量はあらゆる電離放射線に用いられる。
- 照射線量はX線、γ線に用いられる。
- カーマは直接電離放射線に用いられる。
- 物質が異なれば同じ照射線量でも吸収線量は異なる。
- 空気のW値は荷電粒子線の種類にそれほど関係しない。
答えを確認する。
正解は 3 です。
できましたか?
- 正しい
吸収線量は放射線の種類による制限はありません。
すべての放射線に対して適応できます。 - 正しい
照射線量は光子にのみ適応できます。 - 誤り
カーマは直接電離放射線(荷電粒子線)ではなく、間接電離放射線(非荷電粒子線)に対して適応されます。 - 正しい
照射線量から吸収線量を求める際には、空気と対象物質の質量エネルギー吸収係数の比が関係します。
物質が変われば、この係数も変わるため、同じ照射線量でも吸収線量は異なります。 - 正しい
W値は荷電粒子が気体原子中に1イオン対を生成するのに必要な平均エネルギーです。
その値は気体の種類に大きく影響され、放射線の種類やエネルギーの影響は小さくなります。
それは、1イオン対を生成するのに必要な平均エネルギーが各軌道電子の結合エネルギーに依存するからです。結合エネルギーは核種に固有のものですので、W値は荷電粒子の種類ではなく、気体原子側に強く依存することになります。
医療現場でのかかわり
医療現場では、X線撮影やCT検査、放射線治療など、さまざまな場面で放射線の線量を扱います。
しかし、目的によって使用する線量の種類は異なります。
例えば、放射線治療では、腫瘍や正常組織にどれだけのエネルギーが付与されたのかを評価するため、吸収線量(Gy)が使用されます。
一方、一般撮影では、空気カーマ(Gy)がX線の出力測定や患者の入射表面線量の評価などに利用されています。
また、CT検査で使用するCTDIも、空気中で測定した線量を基に算出される指標です。
さらに、放射線業務に従事する診療放射線技師の被ばく管理では、実効線量(Sv)が重要になります。
実効線量は、放射線による人体への確率的影響を考慮した防護量であり、職業被ばくの線量限度などにも使用されています。
このように、同じ放射線の線量でも、何を評価したいのかによって使用する物理量が変わります。
医療現場で線量を扱う際には、数値や単位だけを見るのではなく、「何を表している線量なのか」を意識することが大切ですよ。
まとめ
今回は、X線の線量に関係する5つの物理量について、それぞれの定義や単位、対象となる放射線と物質の違いを学びました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。
- 吸収線量(D):単位質量当たりに付与された平均エネルギー。すべての放射線と物質が対象。単位はGy。
- カーマ(K):非荷電粒子によって遊離した荷電粒子の初期運動エネルギーに注目する物理量。単位はGy。
- 照射線量(X):光子によって乾燥空気中に発生した電離を表す物理量。単位はC/kg。
- 等価線量(H):吸収線量に放射線加重係数を乗じて求める、放射線防護のための物理量。単位はSv。
- 実効線量(E):各組織・臓器の等価線量に組織加重係数を乗じ、合計して求める物理量。単位はSv。
- 放射線加重係数:放射線の種類による影響の違いを考慮する係数。
- 組織加重係数:人体の組織や臓器による影響の違いを考慮する係数。
同じ線量でも、対象となる放射線や物質、評価する目的によって意味が異なります。
線量の名称と単位をセットで覚えるだけでなく、「何を評価しているのか」を意識することが大切です。

線量は名前も単位もいろいろあるけれど、それぞれの役割を押さえておけば区別できるよ!
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有


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