β⁻壊変は、中性子が過剰な原子核で起こりやすい放射性壊変の一つです。
原子核内の中性子が陽子に変化することで、原子番号が1つ増加します。
では、なぜ中性子が過剰な原子核ではβ⁻壊変が起こりやすいのでしょうか。
今回は、安定核種との関係を踏まえながら、β⁻壊変の仕組みや放出される粒子の特徴を見ていきましょう。
β⁻壊変が起こりやすい原子核
β⁻壊変は、原子核内の中性子が過剰な場合に起こりやすい壊変です。
では、どのようにして中性子が過剰なのかを判断すればよいのでしょうか。
その判断の基準となるのが「安定核種」です。
安定核種と中性子過剰核種
β⁻壊変は、安定核種に対して質量数の大きい核種(中性子過剰核種)で起こりやすい壊変です。
質量数は、原子核を構成する陽子と中性子の合計数のことです。
同じ元素であれば陽子数は変わらないため、質量数が大きいほど中性子の数が多いことになります。
例えば、炭素には安定核種である¹²Cや¹³Cがあります。
一方、放射性核種である¹⁴Cは、¹²Cや¹³Cよりも質量数が大きく、中性子が過剰な状態です。
このような原子核では、中性子が陽子に変化するβ⁻壊変が起こりやすくなります。
安定核種を覚える理由
放射性核種には非常に多くの種類がありますが、そのすべてについて壊変形式を一つずつ暗記するのは大変ですよね。
そこで役立つのが、安定核種を基準に考える方法です。
現在知られている安定核種は約300種類弱なのに対し、放射性核種は約3,000種類もあります。
つまり、放射性核種を片っ端から覚えるよりも、安定核種を覚えておく方が、はるかに少ない暗記量で済むわけです。
例えば、ある元素の安定核種を知っていれば、その元素の放射性核種について次のように考えることができます。
- 安定核種より質量数が大きい場合:中性子が過剰なので、β⁻壊変が起こりやすい。
- 安定核種より質量数が小さい場合:陽子が相対的に過剰なので、β⁺壊変や軌道電子捕獲が起こりやすい。
もちろん、実際の壊変形式は原子核のエネルギー状態などにも左右されるため、すべての核種がこのルールだけで決まるわけではありません。
それでも、安定核種を覚えておけば、未知の放射性核種についても壊変形式を予測する手がかりになります。
丸暗記するだけでなく、覚えた知識を使って考えることが大切ですよ。

300種類も覚えるんかいな~?

大丈夫。
代表的なものをピックアップすれば、もっと少ないよ。
50種類くらいじゃないかな?
β⁻壊変の仕組み
β⁻壊変では、原子核を構成する中性子が陽子に変化し、同時に2種類の粒子が放出されます。
まずは、原子核の内部でどのような変化が起こっているのかを見ていきましょう。

中性子から陽子への変化
β⁻壊変は原子核内の中性子が陽子に変化する壊変です。
※上図では中性子が大きい白丸、陽子が大きいグレーの丸です。
中性子と陽子は、どちらも原子核を構成する粒子ですが、電荷が異なります。
中性子は電荷を持たないのに対し、陽子は正の電荷を持っています。
そのため、中性子が陽子に変化すると、原子核全体の正の電荷が1つ増えることになります。
なお、中性子が陽子に変化する詳しい仕組みについては、クォークの変化に注目して別に紹介します。
β⁻粒子と反ニュートリノの放出
原子核内の中性子が陽子に変化すると、原子核からβ⁻粒子である陰電子と反ニュートリノが放出されます。
陰電子は負の電荷を持つ粒子で、β⁻壊変によって放出される陰電子をβ⁻粒子といいます。
一方、反ニュートリノは電荷を持たず、物質とほとんど相互作用しない粒子です。
つまり、β⁻壊変では中性子が陽子に変化すると同時に、陰電子と反ニュートリノが新たに生成され、原子核から放出されるわけです。
原子番号と質量数の変化
β⁻壊変では、中性子が陽子に変化するため、原子核内の陽子数が1つ増えます。
原子番号は陽子の数で決まるので、β⁻壊変では原子番号が1つ増加し、質量数は変化しません。
質量数は陽子数と中性子数の合計なので、中性子が1つ減って陽子が1つ増えても、合計数は変わらないからです。
例えば、炭素14(¹⁴C)がβ⁻壊変すると、窒素14(¹⁴N)に変化します。
- 壊変前の¹⁴C:陽子6個、中性子8個 → 質量数14
- 壊変後の¹⁴N:陽子7個、中性子7個 → 質量数14
このように、原子番号は6から7に増加しますが、質量数は14のままです。
原子番号が変化するということは、別の元素に変わるということでもあります。
β⁻壊変では、周期表で1つ右隣の元素に変わると覚えておきましょう。

こら、周期表も覚えなアカンわけや!

私だって学生時代には110番まで覚えたぜ~。
今は忘れたけどな。
β⁻壊変の特徴
β⁻壊変の仕組みがわかったところで、次はβ⁻粒子のエネルギーや壊変図の特徴を見ていきましょう。
また、代表的なβ⁻放出核種についても紹介します。
β⁻粒子の連続エネルギースペクトル
β⁻壊変では、陰電子と反ニュートリノの2種類の粒子が放出されます。
このとき、壊変によって放出されるエネルギーは、陰電子と反ニュートリノなどに分配されます。
そのため、陰電子が受け取るエネルギーは壊変ごとに異なります。
つまり、β⁻粒子のエネルギースペクトルは連続スペクトルになります。
この特徴については、β壊変の総論で紹介したとおりです。
壊変図の矢印の向き

壊変図とは、放射性核種が壊変するときのエネルギーの変化や、壊変後の核種などを示した図のことです。
壊変図では、一般的に横方向に原子番号、縦方向にエネルギーを表します。
β⁻壊変では原子番号が1つ増加するため、壊変図では右方向に移動します。
また、壊変によってエネルギーが放出されるため、エネルギーの低い方向へ移動します。
したがって、β⁻壊変は壊変図で右下への矢印で示されます。
※図中の赤矢印がβ⁻壊変を示しています。
代表的なβ⁻放出核種
β⁻壊変を起こす放射性核種は数多くありますが、ここでは代表的な核種とβ⁻粒子の最大エネルギーを紹介します。
| 暗記ゴロ | 核種 | 最大エネルギー |
|---|---|---|
| イ | ⁹⁰Y | 2.28 MeV |
| リ | ³²P | 1.71 MeV |
| タ | ²⁰⁴Tl | 0.763 MeV |
| ク | ⁸⁵Kr | 0.672 MeV |
| ス | ⁹⁰Sr | 0.540 MeV |
| カ | ⁴⁵Ca | 0.257 MeV |
| プ | ¹⁴⁷Pm | 0.225 MeV |
| イ | ³⁵S | 0.167 MeV |
| タ | ¹⁴C | 0.156 MeV |
| ニ | ⁶³Ni | 0.0669 MeV |
| ト | ³H | 0.0186 MeV |
β⁻粒子は連続エネルギースペクトルを持つため、すべてのβ⁻粒子がこのエネルギーを持っているわけではありません。
ちなみに、表の核種は最大エネルギーの大きい順に並べてあります。
そこで、覚えるためのゴロがこちら!
「イリタクスカプイタニト」
ちょっと不思議な言葉ですが、順番を覚えておけば、代表的なβ⁻放出核種のエネルギーの大小関係を思い出す手がかりになります。
まずは核種の順番を覚えて、余裕があれば最大エネルギーも確認しておきましょう。

イリタクス~ってなんなん?
キッショイわ~。

私が学生時代に先生が言ってたんですがね・・・
意外とこのゴロが覚えられるのよ。

このゴロは物理的に正確というより、
試験問題を解くうえの正誤判定から作られたものなんだ。
だから、実施には少量のγ線放出をするものも含まれているよ。
実際の過去問を見てみよう
今回は趣向を変えて・・・
2010年に実施された第55回第一種放射線取扱主任者試験から問8のご紹介。
次のうち、純β線放出核種でないものはどれか。
- ¹⁴C
- ³⁵S
- ⁴⁷Ca
- ⁹⁰Sr
- ⁹⁰Y
答えを確認する。
正解は 3 です。
できましたか?
謎の呪文「イリタクスカプイタニト」を覚えていれば簡単に仲間はずれがあぶり出せますね。
まず、代表的な純β線放出核種を覚えるゴロ「イリタクスカプイタニト」を思い出しましょう。
このゴロには、¹⁴C、³⁵S、⁹⁰Sr、⁹⁰Yが含まれています。
一方、Caについては⁴⁵Caだったはずです。選択肢にあるのは⁴⁷Caなので、ここに注目します。
⁴⁷Caもβ⁻壊変を起こしますが、壊変に伴ってγ線も放出されるため、純β線放出核種ではありません。
ちなみに、⁹⁰Yも内部電子対生成という現象を起こしますが、その確率は非常に低いので、一般的には純β線源として扱われています。
医療現場でのかかわり
β⁻壊変を起こす放射性核種は、病気の治療だけでなく、体内で物質がどのように移動し、変化するのかを調べる研究にも利用されています。
例えば、³H(トリチウム)や¹⁴C(炭素14)は、医薬品や生体内の物質に目印を付けるために使用されることがあります。
このように、放射性核種を目印として物質の動きを追跡する方法を「トレーサ法」といいます。
放射性核種を含む物質が体内でどのように吸収され、分布し、排泄されるのかを調べることで、医薬品の働きや体内での動きを知ることができます。
また、³Hや¹⁴Cが放出するβ⁻粒子はエネルギーが低いため、測定には液体シンチレーション計数装置などが利用されます。
このように、β⁻壊変の仕組みや放出される粒子の性質は、医療に関連する研究や医薬品の開発にも役立っているんですよ。
まとめ
今回は、β⁻壊変の仕組みや特徴について学びました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。
- β⁻壊変は、安定核種に対して質量数の大きい核種(中性子過剰核種)で起こりやすい。
- 原子核内の中性子が陽子に変化する。
- β⁻壊変では、陰電子と反ニュートリノが放出される。
- β⁻粒子のエネルギースペクトルは連続スペクトルとなる。
- β⁻壊変では、原子番号が1つ増加し、質量数は変化しない。
- 壊変図では、右下への矢印で表される。
- 代表的なβ⁻放出核種は「イリタクスカプイタニト」のゴロで覚える。

β⁻壊変は、中性子が陽子に変化することを覚えれば、原子番号や質量数の変化も自分で判断できるようになりますよ!
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有



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