D08 β⁺壊変

β⁻壊変では、原子核内の中性子が陽子に変化しました。
では、反対に陽子が中性子に変化することはあるのでしょうか?

実は、そのような現象も存在します。
それがβ⁺壊変です。

今回は、β⁺壊変の仕組みや放出される粒子、壊変が起こるためのエネルギー条件について見ていきましょう。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

β⁺壊変の仕組み

β⁻壊変では原子核内の中性子が陽子に変化しましたが、β⁺壊変では反対の現象が起こります。
具体的にどのような核種で起こり、何が放出されるのかを見ていきましょう。

※上図では中性子が大きい白丸、陽子が大きいグレーの丸です。

β⁺壊変が起こりやすい核種

β⁺壊変は、安定核種に対して、質量数の小さい核種で起こりやすい壊変です。

同じ元素で比較すると、質量数が小さい核種ほど中性子の数が少なく、陽子が相対的に過剰になりやすくなります。

原子核は、陽子と中性子のバランスによって安定性が変わります。
そのため、陽子が過剰な原子核では、陽子を中性子に変化させることで、より安定な状態に近づこうとするのです。

陽子から中性子への変化

β⁺壊変は、原子核内の陽子が中性子に変化する現象です。

β⁻壊変では中性子が陽子に変化したので、ちょうど反対の変化ですね。

陽子が中性子に変化すると、原子核内の陽子が1個減少するため、原子番号は1つ減少します。
一方、陽子と中性子の合計数は変わらないので、質量数は変化しません。

つまり、β⁺壊変では質量数を変えずに、原子番号が1つ小さい別の元素へと変化するのです。

陽電子とニュートリノの放出

β⁺壊変では、原子外にβ⁺粒子である陽電子とニュートリノが放出されます。

陽電子とは、電子と同じ質量を持ちながら、正の電荷を持つ粒子のことです。
電子が負の電荷を持つのに対し、陽電子は正の電荷を持っています。

一方、ニュートリノは電荷を持たず、質量が非常に小さい粒子です。

このように、β⁺壊変では陽子が中性子に変化すると同時に、陽電子とニュートリノが放出されます。

なお、陽子が中性子に変化する仕組みを素粒子のレベルで考えると、クォークやウィークボソンが関係しています。
この仕組みについては、次の記事で詳しく紹介します。

D09:クォークで考えるβ壊変

ニュートリノと反ニュートリノって何が違うんや?

レプトン数が違うんだよ。
電荷は0だし、質量もほぼ0で違いが見えにくいんだけどね。

国試にはレプトン数なんて出てきたことないからスルーして大丈夫だよ。

β⁺壊変の特徴

β⁺壊変では、陽電子とニュートリノが放出されることがわかりました。
ここでは、放出される粒子のエネルギーや壊変図での表し方など、β⁺壊変の特徴を見ていきましょう。

エネルギースペクトル

β⁺壊変では、同時に2種類の粒子が放出されるので、それぞれのエネルギースペクトルは連続スペクトルとなります。

これはβ⁻壊変と同じ特徴ですね。

β⁺壊変では、壊変によって放出されるエネルギーを陽電子とニュートリノなどで分け合います。
そのため、陽電子が受け取るエネルギーは壊変ごとに異なり、一定の値にはなりません。

ニュートリノも同様に、さまざまなエネルギーを持って放出されます。

壊変図の矢印

β⁺壊変は、壊変図では一旦真下への矢印のあと、左下への矢印で示されます。
単に左下への直線で示されることもあります。

壊変図では、一般的に横方向に原子番号、縦方向にエネルギーを表します。

β⁺壊変では原子番号が1つ減少するため、壊変図では左方向に移動します。
また、壊変によってエネルギーが放出されるため、エネルギーの低い方向へ移動します。

したがって、β⁺壊変は壊変図で最終的に左下への矢印で示されるのです。

上の図は、²²Naがβ⁺壊変によって²²Neへ変化する様子を示しています。
赤色の矢印がβ⁺壊変、黒色の斜め矢印が軌道電子捕獲(EC)を表しています。

どちらも原子番号が1つ減少するため、左下方向に示されています。

なお、軌道電子捕獲については、D11:軌道電子捕獲 で紹介します。

原子番号と質量数の変化

β⁺壊変では原子番号が1つ減少し、質量数は変化しません。

原子番号が減少するのは、陽子が中性子に変化するためでしたね。

例えば、²²Naは原子番号11、質量数22の核種です。
β⁺壊変によって陽子が1個減少すると、原子番号10の²²Neへ変化します。

このとき、陽子と中性子の合計数は変わらないため、質量数は22のままです。

β⁻壊変では原子番号が1つ増加し、β⁺壊変では1つ減少するという違いを覚えておきましょう。

β⁺壊変の成立条件

β⁻壊変とβ⁺壊変では、原子核内で起こる変化が反対になるだけでなく、壊変が起こるためのエネルギー条件にも違いがあります。

β⁺壊変には、一定以上のエネルギーが必要になるのです。

β⁺壊変に必要な1.022 MeV

β⁺壊変は、質量の軽い陽子が質量の重い中性子に変わる現象であり、不自然な変化です。

さらに、β⁺壊変では陽電子も生成されるため、その質量に相当するエネルギーも必要になります。

このため、壊変前後の原子の質量差をエネルギーに換算した値が1.022 MeV以上ないとβ⁺壊変は起こりません。

この1.022 MeVは、電子2個分の質量エネルギーに相当します。

電子1個の質量エネルギーは0.511 MeVなので、次のようになります。

0.511 MeV × 2 = 1.022 MeV

つまり、β⁺壊変が起こるかどうかを判断するときは、壊変前後の原子の質量差が電子2個分の質量に相当するエネルギーを超えているかが重要なのです。

壊変エネルギーと質量差

β⁺壊変では、壊変前の原子が壊変後の原子よりも十分に大きな質量を持っている必要があります。

この質量差に相当するエネルギーのうち、1.022 MeVを差し引いた分が、壊変によって放出されるエネルギーになります。

例えば、壊変前後の原子の質量差をエネルギーに換算した値が2.000 MeVだったとしましょう。

この場合、β⁺壊変によって放出されるエネルギーは、

2.000 MeV − 1.022 MeV = 0.978 MeV

となります。

このエネルギーは、主に陽電子とニュートリノの運動エネルギーとして分配されます。

ここで大切なのは、1.022 MeVを外部から吸収する必要があるわけではないということです。

β⁺壊変では、壊変前後の質量差に相当するエネルギーを利用して、陽子から中性子への変化や陽電子の生成が起こるのです。

β⁺壊変で放出される陽電子

β⁺壊変によって放出された陽電子は、その後どうなるのでしょうか?
ここでは、陽電子の行方と代表的なβ⁺放出核種について見ていきましょう。

陽電子と消滅放射線

β⁺壊変によって放出された陽電子は、物質中で周囲の原子と相互作用しながらエネルギーを失っていきます。

そして、最終的に電子と出会うと、互いの質量がエネルギーに変換され、消滅放射線と呼ばれる光子を放出します。

通常、このときには511 keVの光子が2個、ほぼ反対方向に放出されます。

この現象は、PET検査にも利用されています。

陽電子と電子が消滅する仕組みや消滅放射線の特徴については、別の記事で詳しく紹介します。

D10:陽電子のその後

代表的なβ⁺放出核種

β⁺壊変を起こす代表的な放射性核種には、次のようなものがあります。

核種半減期
¹¹C約20分
¹³N約10分
¹⁵O約2分
¹⁸F約110分
²²Na約2.6年
⁶⁸Ga約68分

このうち、¹¹C、¹³N、¹⁵O、¹⁸F、⁶⁸Gaなどは、PET検査に利用される核種です。

また、²²Naは半減期が比較的長く、陽電子だけでなくγ線も放出するため、放射線計測などにも利用されています。

なお、β⁺壊変を起こす核種の中には、軌道電子捕獲も起こすものがあります。
そのため、β⁺放出核種が必ずしもβ⁺壊変だけを起こすわけではありません。

実際の過去問を見てみよう

2025年に実施された第70回の第一種放射線取扱主任者試験から問8のご紹介。

β⁺壊変における壊変前後の全質量変化を式として適切なものはどれか。ただし、原子番号が Z、中性子数が N の原子の質量を M(Z, N) と表すものとし、電子の質量を mₑ とする。

  1. M(Z, N) − M(Z − 1, N + 1)
  2. M(Z, N) − M(Z + 1, N − 1)
  3. M(Z, N) − M(Z − 1, N + 1) − mₑ
  4. M(Z, N) − M(Z − 1, N + 1) − 2mₑ
  5. M(Z, N) − M(Z + 1, N − 1) − mₑ
答えを確認する。


正解は 4 です。

できましたか?

β⁺壊変をするので、原子番号は-1、中性子数は+1されないといけません。
さらに、壊変の前後で1.022MeV以上のエネルギー差も必要です。
両方の条件を満たすのは4番ですね。

医療現場でのかかわり

β⁺壊変を起こす放射性核種は、核医学検査の一つであるPET検査に利用されています。

PET検査では、β⁺放出核種を含む放射性医薬品を体内に投与し、その分布を画像にすることで、臓器や組織の働きを調べます。

代表的な放射性医薬品が、¹⁸Fを用いたFDG(フルオロデオキシグルコース)です。
FDGはブドウ糖に似た性質を持っており、糖の取り込みが活発な組織に集まりやすい特徴があります。
この性質を利用して、がんの診断などに役立てられています。

また、PET検査には¹¹C、¹³N、¹⁵Oなどのβ⁺放出核種も利用されており、目的に応じてさまざまな臓器の機能を調べることができます。

では、体内で放出された陽電子を、どのようにして画像に利用しているのでしょうか?

その鍵を握るのが、陽電子から生じる消滅放射線です。
詳しい仕組みについては、D10:陽電子のその後 で見ていきましょう。

まとめ

今回は、β⁺壊変の仕組みや放出される粒子、壊変が起こるためのエネルギー条件について学びました。
最後に、重要なポイントを振り返ってまとめていきましょう。

  • β⁺壊変は、安定核種に対して質量数の小さい核種で起こりやすい。
  • β⁺壊変では、原子核内の陽子が中性子に変化する。
  • 原子外にβ⁺粒子である陽電子とニュートリノが放出される。
  • 陽電子とニュートリノのエネルギースペクトルは、どちらも連続スペクトルとなる。
  • β⁺壊変は、壊変図では一旦真下への矢印のあと、左下への矢印で示される。
  • β⁺壊変では原子番号が1つ減少し、質量数は変化しない。
  • β⁺壊変が起こるには、壊変前後の原子の質量差に相当するエネルギーが1.022 MeVを超える必要がある。
  • 放出された陽電子は、最終的に電子と対消滅して消滅放射線を放出する。

β⁻壊変とβ⁺壊変は、陽子と中性子の変化が反対になるだけでなく、放出される粒子やエネルギー条件にも違いがあります。
それぞれの特徴を比較しながら覚えておきましょう。

β⁺壊変のポイントは、陽子が中性子に変わることと、1.022 MeVの条件だね!

次に読むならコレ!レントゲン博士のおすすめ内部リンク

次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

コメント