D13 内部転換

励起した原子核は、γ線を放出することでエネルギーの低い状態へ遷移します。
しかし、γ線を放出する代わりに、軌道電子へ直接エネルギーを渡すこともあります。

今回は、この現象を「内部転換」といい、その仕組みや内部転換電子の特徴、γ線放出との関係について見ていきましょう。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

内部転換の仕組み

励起した原子核は、γ線を放出することでエネルギーの低い状態へ遷移します。
しかし、γ線を放出する代わりに、そのエネルギーを軌道電子へ直接渡すこともあります。
まずは、この現象がどのような仕組みで起こるのかを見ていきましょう。

内部転換とは

励起した原子核が、γ線の代わりに軌道電子へ直接エネルギーを渡し、その電子を原子外へ放出して安定になろうとする現象を内部転換といいます。
また、このとき放出される電子を内部転換電子といいます。

内部転換では、原子核の励起エネルギーが軌道電子へ直接渡されるため、γ線は放出されません。
つまり、γ線放出と内部転換は、励起した原子核がエネルギーの低い状態へ遷移するための異なる方法なのです。

どちらの場合も原子核のエネルギーは減少しますが、原子番号と質量数は変化しません。

軌道電子がエネルギーを受け取る仕組み

では、原子核と軌道電子は、どのようにしてエネルギーを受け渡しているのでしょうか。

原子核の周囲を回る電子を考えると、電子は原子核の外側にあるため、直接エネルギーを受け取ることが不思議に感じられるかもしれません。

実際の軌道電子は、惑星のように決まった軌道を回っているわけではありません。
電子の状態は波動関数で表され、電子がどこに存在する可能性があるのかを考えることができます。

特に原子核に近い軌道では、電子が原子核の内部に存在する確率もあります。

この図は、軌道電子が原子核の内部にも存在することをイメージしたものです。

原子核と軌道電子の波動関数が重なり合うことで、励起した原子核から軌道電子へ直接エネルギーが渡され、内部転換電子として放出されることがあります。

このように、内部転換は原子核と軌道電子の相互作用によって起こる現象なのです。

なんや?そのなんちゃら関数って。
覚えなアカンの?

覚えなくても大丈夫だよ。
軌道電子はたまに原子核の中を通過するって感じでいいよ。

通過するときにエネルギーをもらうのね。

内部転換電子の特徴

内部転換によって放出される電子には、運動エネルギーやエネルギースペクトルに特徴があります。
ここでは、γ線放出との関係に注目しながら、内部転換電子の性質を見ていきましょう。

内部転換電子の運動エネルギー

内部転換では、励起した原子核のエネルギーが軌道電子へ直接渡されます。
しかし、受け取ったエネルギーのすべてが電子の運動エネルギーになるわけではありません。

軌道電子は原子核に引きつけられているため、原子の外へ飛び出すには、電子を原子から取り出すための「結合エネルギー」が必要です。

そのため、内部転換電子の運動エネルギーは、γ線のエネルギーより軌道電子の結合エネルギー分だけ低くなります。

例えば、原子核の励起エネルギーが100 keV、軌道電子の結合エネルギーが20 keVであれば、内部転換電子の運動エネルギーは80 keVとなります。

また、K殻とL殻では電子の結合エネルギーが異なるため、同じ原子核の遷移でも、どの電子殻から放出されるかによって内部転換電子の運動エネルギーは異なります。

内部転換電子の線スペクトル

内部転換電子は、線スペクトルを示します。

線スペクトルとは、放出される粒子のエネルギーが連続的に分布するのではなく、特定のエネルギーに集中するスペクトルのことです。

原子核のエネルギー準位は決まっており、軌道電子の結合エネルギーも電子殻ごとに決まっています。
したがって、内部転換電子の運動エネルギーも決まった値になります。

例えば、同じ原子核の遷移であっても、K殻から放出された電子とL殻から放出された電子では、それぞれ異なるエネルギーの線が現れます。

ここで注意したいのは、線スペクトルだからといって、エネルギーが1種類だけとは限らないことです。

例えば、K殻から放出された電子が80 keV、L殻から放出された電子が95 keVだった場合、80 keVと95 keVの位置にそれぞれ線が現れます。
このように、複数のエネルギーの線が現れても、それぞれのエネルギーが決まった値であれば線スペクトルといいます。

つまり、線スペクトルとは「エネルギーが1つ」という意味ではなく、「飛び飛びの決まったエネルギーを持つ」という意味なのです。

ここはβ⁻壊変やβ⁺壊変と比較すると覚えやすいところです。
β線は連続スペクトルを示しますが、内部転換電子は線スペクトルを示します。

つまり、同じ電子であっても、放出される仕組みによってエネルギースペクトルが異なるのです。

ん?
ということはβ線のエネルギーとは違うんやな?

そうなんだ。
β線は連続スペクトルだから最大値で表記されるけど、線スペクトルの場合はそれぞれ決まったエネルギーなんだ。

内部転換係数

励起した原子核は、γ線を放出する場合もあれば、内部転換電子を放出する場合もあります。
では、どちらの現象が起こりやすいのかは、何によって決まるのでしょうか。

ここでは、内部転換の起こりやすさを表す「内部転換係数」について見ていきましょう。

内部転換係数とは

内部転換電子の放出数をλe、γ線として放出される光子数をλγとしたとき、その比λe/λγを内部転換係数といいます。

内部転換係数は、γ線放出に対して内部転換がどれくらい起こりやすいのかを表す値です。

例えば、内部転換係数が2であれば、γ線が100個放出される間に、内部転換電子は200個放出される割合になります。

つまり、内部転換係数が大きいほどγ線放出よりも内部転換が起こりやすく、小さいほどγ線放出が起こりやすいということです。

内部転換係数と原子番号・γ線エネルギーの関係

内部転換係数には、原子番号とγ線エネルギーによって変化する特徴があります。

一般に、内部転換係数は原子番号のほぼ3乗に比例するため、原子番号が大きいほど内部転換が起こりやすくなります。

原子番号が大きい原子ほど、内殻電子の波動関数が原子核付近に集中しやすく、原子核と軌道電子の相互作用が強くなるためです。

もしかして、クーロン力関係あるんじゃ?

おっ、するどいな。
クーロン力によって、軌道が引き寄せられるってイメージでいいよ。

また、内部転換係数はγ線のエネルギーが小さいほど大きくなる傾向があります。
つまり、原子核の遷移エネルギーが小さいほど、γ線放出に対して内部転換が起こりやすくなるということです。

こっちは分からんて・・・
エネルギー小さいのに放出させられるんか?

これは相対的にγ線が放出されにくくなるからなんだ。
原子核の励起エネルギーが低いとγ線が出にくくなるから、相対的に内部転換が目立つんだ。

博士、そのくらいで。
それ以上は国試では問われませんから。

このように、内部転換は原子番号が大きく、γ線エネルギーが小さい場合に起こりやすいという特徴があります。

原子核の励起時間と内部転換の関係

内部転換の起こりやすさには、原子核が励起状態にとどまっている時間も関係しています。

一般に、原子核の励起時間が長いほど内部転換が生じやすい傾向があります。

励起状態が長く続く遷移では、γ線放出が起こりにくく、内部転換が相対的に起こりやすくなる場合があるためです。

ただし、励起時間が長いこと自体が内部転換を引き起こすわけではありません。
内部転換の起こりやすさは、原子核の遷移の性質などによっても変化します。

ここでは、内部転換が起こりやすい条件として、原子番号が大きいこと、γ線エネルギーが小さいこと、原子核の励起時間が長いことを押さえておきましょう。

内部転換に伴う特性X線とオージェ電子

内部転換では、原子核からエネルギーを受け取った軌道電子が、内部転換電子として原子の外へ放出されます。

このとき、電子が抜けた軌道には空位が生じます。
すると、外側の軌道から電子が遷移して空位を埋めるため、特性X線またはオージェ電子の放出が続いて起こります。

つまり、内部転換では、内部転換電子だけでなく、特性X線やオージェ電子が放出されることもあるのです。

なお、特性X線やオージェ電子が発生する仕組みについては、C02:特性X線の発生原理と種類で紹介しています。

実際の過去問を見てみよう

2023年に実施された第75回国家試験からPM70のご紹介。

原子核の内部転換で正しいのはどれか。

  1. 原子番号が変化する。
  2. 最外殻の軌道電子が放出されやすい。
  3. 内部転換電子は線スペクトルである。
  4. 内部転換係数は核種に依存しない値である。
  5. 内部転換電子の放出に続いてニュートリノが放出される。
答えを確認する。


正解は 3 です。

できましたか?

  1. 誤り
    内部転換では原子核の励起エネルギーが軌道電子へ渡されるため、原子番号も質量数も変化しない。
  2. 誤り
    原子核に近い内殻電子ほど内部転換が起こりやすい。
  3. 正解
    内部転換電子の運動エネルギーは決まった値をとるため、線スペクトルを示す。
  4. 誤り
    内部転換係数は原子番号や原子核の遷移エネルギーなどによって変化する。
  5. 誤り
    内部転換ではニュートリノは放出されない。軌道電子が放出された後には、特性X線やオージェ電子が放出されることがある。ニュートリノはβ壊変系で放出される。

医療現場でのかかわり

内部転換によって放出される電子は、将来のがん治療にも役立つ可能性があります。

その一例が、放射性核種のテルビウム161(¹⁶¹Tb)を利用した治療法の研究です。

テルビウム161はβ⁻壊変する核種で、壊変後の原子核では内部転換も起こります。
その際に放出される内部転換電子や、内部転換によって生じた空位から放出されるオージェ電子は、飛程が短く、狭い範囲にエネルギーを与えるという特徴があります。

この性質を利用して、放射性医薬品をがん細胞へ集め、がん細胞に集中的に放射線を照射する治療法が研究されています。

実際に、テルビウム161を用いた前立腺がん治療の臨床試験も行われています。

現時点では標準的な治療法として普及していませんが、今後の研究によって新たながん治療の選択肢となることが期待されています。

このように、内部転換は原子核で起こる現象の一つですが、その特徴を利用することで、将来の医療に役立つ可能性があるのです。

参考資料
・¹⁶¹Tbを用いた前立腺がん治療の臨床試験
・¹⁶¹Tb標識放射性医薬品の可能性と実用化に向けた課題

海外論文だから訳して読んでね。

AIに要約してもらうと分かりやすいよ。

まとめ

今回は、内部転換の仕組みと内部転換電子の特徴、内部転換係数について学びました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。

  • 内部転換とは、励起した原子核がγ線の代わりに軌道電子へ直接エネルギーを渡し、その電子を原子外へ放出する現象。
  • 内部転換では、原子番号も質量数も変化しない。
  • 内部転換電子の運動エネルギーは、γ線のエネルギーより軌道電子の結合エネルギー分だけ低い。
  • 内部転換電子は線スペクトルを示す。
  • 内部転換係数とは、γ線の放出数に対する内部転換電子の放出数の比。
  • 内部転換係数は、原子番号のほぼ3乗に比例し、γ線エネルギーが小さいほど大きくなる。
  • 原子核に近い軌道電子ほど、また原子核の励起時間が長いほど内部転換が起こりやすい。
  • 内部転換によって空位が生じると、特性X線やオージェ電子の放出が続いて起こることがある。

γ線放出と内部転換は、原子核がエネルギーを失うための異なる方法なんだ。
特に、内部転換電子の線スペクトルと内部転換係数の特徴はしっかり覚えておこう!

次に読むならコレ!レントゲン博士のおすすめ内部リンク

次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

コメント