光電効果の起こりやすさは、光子エネルギーが高くなるほど小さくなっていきます。
ところが、あるエネルギーを境に光電効果の起こりやすさが急激に大きくなる場所があります。
この不連続な変化を吸収端といいます。
今回は、吸収端がなぜ現れるのか、軌道電子の結合エネルギーとの関係から見ていきましょう。
光電効果の起こりやすさ
光電効果は、物質の種類や光子エネルギーによって起こりやすさが大きく変わります。
まずは、光電効果の起こりやすさを表す原子断面積と質量減弱係数から見ていきましょう。
原子断面積と原子番号・光子エネルギー
原子断面積とは、1個の原子に対して光子が相互作用する起こりやすさを、面積として表したものです。
光電効果の原子断面積を$\sigma_a$とすると、おおよそ次の関係があります。
$\sigma_a \propto \dfrac{Z^{3~5}}{E^{3.5}}$
$Z$は物質の原子番号、$E$は光子エネルギーです。
この式では、原子番号$Z$が分子にあるため、原子番号が大きい物質ほど光電効果が起こりやすくなります。
しかも$Z$の3~5乗に比例するため、原子番号が少し大きくなるだけでも光電効果の起こりやすさは大きく変化します。
一方、光子エネルギー$E$は分母にあります。
そのため、光子エネルギーが高くなるほど光電効果は起こりにくくなります。
つまり光電効果は、「原子番号の大きい物質」と「エネルギーの低い光子」の組み合わせで起こりやすい相互作用です。
質量減弱係数と原子番号・光子エネルギー
光電効果による質量減弱係数$\tau/\rho$にも、原子番号と光子エネルギーが大きく関係します。
$\dfrac{\tau}{\rho} \propto \dfrac{Z^{3~4}}{E^{3.5}}$
原子断面積と同じように、原子番号が大きいほど質量減弱係数は大きくなり、光子エネルギーが高いほど小さくなります。
原子断面積では$Z^{3~5}$、質量減弱係数では$Z^{3~4}$となっている点にも注目しましょう。
質量減弱係数は物質の単位質量あたりで相互作用の起こりやすさを表すため、原子1個について考える原子断面積とは原子番号への依存のしかたが少し異なります。
ただし、光電効果の起こりやすさは光子エネルギーの上昇とともに単純に減少し続けるわけではありません。
ある特定のエネルギーに達すると、急激に大きくなる場所があります。
この不連続な変化が、次に見ていく吸収端です。

不連続やて?
一筋縄にはいかないんやな~

ちゃんと不連続になるには理由があるのよ
光電効果の吸収端

光電効果の起こりやすさは、基本的には光子エネルギーが高くなるほど小さくなります。
しかし、光子エネルギーを少しずつ高くしていくと、途中で光電効果の起こりやすさが急激に大きくなる場所があります。
この変化には、軌道電子の結合エネルギーが関係しています。
吸収端とは
光子エネルギーに対する光電吸収断面積の変化を見ると、全体としては右下がりになります。
ところが、特定の光子エネルギーで光電吸収断面積が不連続に大きくなる部分があります。
この不連続な部分を吸収端といいます。
吸収端はどこにでも現れるわけではありません。
ある軌道電子の結合エネルギーと光子エネルギーが関係する、決まった位置に現れます。
つまり、グラフ問題では単に「ギザギザしているところ」と覚えるのではなく、吸収端は軌道電子の結合エネルギーと対応していると考えることが大切です。
吸収端が生じる理由
光電効果によって軌道電子を電離するためには、光子がその電子の結合エネルギー以上のエネルギーをもっている必要があります。
たとえば、ある軌道電子の結合エネルギーより光子エネルギーが低ければ、その軌道の電子に対して光電効果を起こすことはできません。
ところが、光子エネルギーが結合エネルギー以上になると、その軌道の電子にも光電効果を起こせるようになります。
すると、光電効果の相手となる電子が増えるため、光電吸収断面積が急激に大きくなります。
この急激な変化によって吸収端が現れます。
吸収端を越えたあとは、再び光子エネルギーが高くなるほど光電吸収断面積は小さくなっていきます。
そして、さらに別の軌道電子の結合エネルギーに達すると、再び光電吸収断面積が急激に大きくなります。
このように、軌道電子の結合エネルギーを境に光電効果を起こせる電子が増えることが、吸収端が生じる理由です。
吸収端と結合エネルギー
吸収端が現れる光子エネルギーは、軌道電子の結合エネルギーと対応しています。
どの電子殻の結合エネルギーに対応するかによって、K吸収端やL吸収端などと呼び分けます。
K吸収端
K殻電子の結合エネルギーに対応する吸収端をK吸収端といいます。
K殻は原子核に最も近く、軌道電子の中で最も結合エネルギーが大きい電子殻です。
そのため、K吸収端は複数ある吸収端の中で最も高い光子エネルギー側に現れます。
グラフでは光子エネルギーが横軸にとられることが多いため、最も右側にある吸収端がK吸収端と判断できます。
国家試験で吸収端のグラフが出たときは、まず「最も右側がK吸収端」と判断できるようにしておきましょう。
L吸収端
L殻の結合エネルギーに対応する吸収端をL吸収端といいます。
L殻には複数の副殻があり、それぞれの軌道電子で結合エネルギーが異なります。
そのため、L吸収端は1か所だけではなく、近いエネルギー領域に複数の吸収端として現れます。
グラフでは、この部分が細かくギザギザした形に見えます。
つまり、L吸収端が複数に分かれるのは、副殻ごとに軌道電子の結合エネルギーが異なるためです。
吸収端の位置を見るときは、「吸収端のエネルギー=軌道電子の結合エネルギー」という関係を基準に考えましょう。
実際の過去問を見てみよう
2016年に実施された第68回国家試験からAM72のご紹介。
第68回 2016年 AM72
- 軌道電子との弾性散乱である。
- 断面積は吸収端で急激に変化する。
- 光電子の反跳角は原子に固有の値となる。
- L吸収端のエネルギーはK殻吸収端より高い。
- 入射光子と光電子の運動エネルギーは等しい。
答えを確認する。
正解は 2 です。
できましたか?
- 誤り
光電効果は運動エネルギー保存則が成り立ちませんから、非弾性散乱になります。 - 正解
- 誤り
光電子の反跳角は入射光子のエネルギーに依存します。
高エネルギーであれば0°方向、低エネルギーであれば90°方向に近付きます。 - 誤り
吸収端のエネルギーはK殻吸収端が一番大きい。 - 誤り
光電子の運動エネルギーは入射光子から光電子(軌道電子)の結合エネルギーを差し引いた値になる。
医療現場でのかかわり
吸収端は、診断用X線を利用する検査でも重要な性質です。
代表的な例が、造影検査で使用されるヨードやバリウムです。
ヨードやバリウムは原子番号が大きいため、光電効果が起こりやすい物質です。
さらに、光子エネルギーがK殻電子の結合エネルギーを超えると、K吸収端によって光電吸収が急激に増加します。
この性質を利用すると、造影剤を含む部分と周囲の組織とのX線吸収の差を大きくすることができます。
その結果、血管や消化管などを画像上で観察しやすくなります。
吸収端は単なるグラフ上のギザギザではなく、X線画像のコントラストにも関係する性質として医療現場で利用されています。
まとめ
今回は、光電効果の起こりやすさと吸収端について見てきました。
最後に、重要なポイントを振り返ってまとめていきましょう。
- 光電効果の原子断面積は、$\sigma_a \propto \dfrac{Z^{3~5}}{E^{3.5}}$の関係をもつ
- 光電効果の質量減弱係数は、$\dfrac{\tau}{\rho} \propto \dfrac{Z^{3~4}}{E^{3.5}}$の関係をもつ
- 光電効果は、原子番号が大きいほど起こりやすく、光子エネルギーが高いほど起こりにくい
- 光電吸収断面積が不連続に大きくなる部分を吸収端という
- 吸収端のエネルギーは、軌道電子の結合エネルギーに対応する
- 最も高い光子エネルギー側に現れる吸収端がK吸収端
- L吸収端が複数に分かれるのは、副殻ごとに軌道電子の結合エネルギーが異なるため
- ヨードやバリウムなどでは、吸収端の性質がX線画像のコントラストにも関係する

吸収端は、結合エネルギーを境に光電効果を起こせる電子が増える、と考えれば理解しやすいですよ。
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次はこの辺りも参考になるかもよ。
この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら
診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。
都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。
国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。
保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有


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