C20 電子対生成

光子は物質に入射すると、散乱したり吸収されたりするだけではありません。
光子エネルギーが十分に高くなると、原子核近傍で光子そのものが消滅し、電子と陽電子を生み出すことがあります。これが電子対生成です。

電子対生成が起こるためには、なぜ1.022 MeV以上の光子エネルギーが必要なのでしょうか。
電子と陽電子が生成されたあとのエネルギーの分かれ方とあわせて見ていきましょう。

電子対生成とは

電子対生成は、光子と物質との相互作用のひとつです。
光子エネルギーが十分に高くなると、光子そのものが消滅し、電子と陽電子が生成されます。

光電効果やコンプトン散乱では、もともと物質中に存在していた電子が相互作用に関わっていました。
一方、電子対生成では、光子のエネルギーから新たに電子と陽電子がつくられるところが大きな特徴です。

光子から電子と陽電子が生成される

電子対生成は、原子核の近くを高エネルギーの光子が通過したときに起こります。
このとき入射した光子は消滅し、そのエネルギーによって電子と陽電子が1個ずつ生成されます。

陽電子は、電子と同じ質量をもち、電荷の符号だけが反対の粒子です。
電子の電荷が負であるのに対して、陽電子は正の電荷をもちます。

電子対生成が原子核の近くで起こるのは、エネルギーだけでなく運動量も保存する必要があるためです。
原子核が反跳することで運動量の保存が成り立ち、電子と陽電子を生成できるようになります。

電子対生成のしきい値は1.022 MeV

電子対生成は、どのような光子でも起こるわけではありません。
電子と陽電子をつくるためには、それぞれの質量に相当するエネルギーが必要です。

電子1個の質量エネルギーは0.511 MeVです。
陽電子も電子と同じ質量をもつため、質量エネルギーは0.511 MeVです。

したがって、電子と陽電子を1個ずつ生成するために必要な最低限のエネルギーは、

$0.511 + 0.511=1.022 \mathrm{MeV}$

となります。

このように、ある現象が起こるために必要な最小のエネルギーを「しきい値」といいます。
電子対生成のしきい値は1.022 MeVです。

したがって、入射光子エネルギーが1.022 MeV未満では電子対生成は起こりません。
1.022 MeVを超えた分のエネルギーは、生成された電子と陽電子の運動エネルギーになります。

電子2個だから1.022MeVやったんか。

ラーメン屋行って、
たまごのトッピングが200円だと高いと思うだろ?
でも、2個入ったら納得するだろ?
そんな感じだよ。

光子エネルギーの物質化

電子対生成では、入射した光子が消滅し、そのエネルギーから電子と陽電子が生成されます。
つまり、光子がもっていたエネルギーが、電子と陽電子という粒子の質量エネルギーへ変換されています。

このように、エネルギーから質量をもつ粒子が生成されることを、光子エネルギーの物質化と考えることができます。

電子対生成は、

エネルギー → 質量

という質量とエネルギーの関係を実際の現象として見ることができる相互作用です。

電子対生成のエネルギー

電子対生成では、入射した光子のエネルギーのうち、まず電子と陽電子を生成するために1.022 MeVが使われます。
そして、1.022 MeVを超えた分が、生成された電子と陽電子の運動エネルギーになります。

電子と陽電子の運動エネルギー

入射光子エネルギーを $E_γ$、生成された電子と陽電子の運動エネルギーをそれぞれ $E_{e^-}$、$E_{e^+}$ とすると、エネルギーの関係は次のようになります。

$E_γ = 1.022 + E_{e^-} + E_{e^+}$

つまり、入射光子エネルギーから電子対生成のしきい値である1.022 MeVを引いた残りが、電子と陽電子の運動エネルギーとして分配されます。

たとえば、入射光子エネルギーが3.0 MeVの場合、電子と陽電子の運動エネルギーの合計は、

$3.0 – 1.022 = 1.978\ \mathrm{MeV}$

となります。

運動エネルギーは連続スペクトル

電子と陽電子に分配される運動エネルギーの割合は、毎回同じではありません。
電子が多くの運動エネルギーを受け取り、陽電子が少なく受け取る場合もあれば、その逆の場合もあります。

そのため、それぞれの粒子の運動エネルギーは一定の値にはならず、さまざまな値をとります。
このようなエネルギー分布を連続スペクトルといいます。

ただし、電子と陽電子の運動エネルギーを合計すると、入射光子エネルギーから1.022 MeVを引いた値になります。ギーから1.022 MeVを引いた値になります。

この電子対が連続スペクトルっていうのは
必ず覚えておいてな。

電子対生成の起こりやすさ

電子対生成の起こりやすさは、物質の原子番号と入射光子エネルギーに大きく左右されます。
ここでは、原子断面積と質量減弱係数の関係を見ていきましょう。

原子断面積

電子対生成の原子断面積は、原子番号 $Z$ の2乗と、しきい値1.022 MeVを超えた光子エネルギーに比例します。

${}_aσ \propto Z^2(E_γ-1.022)$

つまり、原子番号が大きい物質ほど電子対生成が起こりやすくなります。
また、入射光子エネルギーが1.022 MeVを超えて高くなるほど、電子対生成の起こる確率も大きくなります。

特に原子番号については $Z^2$ に比例するため、原子番号の大きな物質ほど電子対生成が起こりやすいことを押さえておきましょう。

質量減弱係数

電子対生成の質量減弱係数は、原子番号 $Z$ と、しきい値1.022 MeVを超えた光子エネルギーに比例します。

$\frac{\mu}{\rho} \propto Z(E_γ-1.022)$

原子断面積では $Z^2$ に比例していたのに対して、質量減弱係数では $Z$ に比例しています。

質量減弱係数は、単位質量あたりで相互作用の起こりやすさを表したものです。
単位質量あたりに含まれる原子数は、原子量が大きくなるほど少なくなります。

原子量はおおよそ原子番号 $Z$ に比例すると考えられるため、単位質量あたりの原子数はおおよそ $1/Z$ に比例します。

したがって、

$Z^2 \times \frac{1}{Z}=Z$

となり、質量減弱係数は $Z$ に比例します。

電子と陽電子の放出方向

電子対生成によって生成された電子と陽電子は、入射光子エネルギーが高くなるほど、入射光子の進行方向に近い前方へ放出されやすくなります。

つまり、光子エネルギーが高くなるほど、電子と陽電子の放出方向は前方にそろっていく傾向があります。

電子対生成では「エネルギーが高いほど前方方向へ放出されやすい」という特徴も押さえておきましょう。

実際の過去問を見てみよう

2017年に実施された第69回国家試験からAM72のご紹介。

第69回 2017年 AM72

電子対生成で生じた電子と陽電子の全運動エネルギーが5MeVのとき、
入射光子のエネルギー[MeV]に最も近いのはどれか。
ただし、光子のエネルギーは単色とする。

  1.  5
  2.  6
  3.  8
  4.  10
  5.  11
答えを確認する。


正解は 2 です。

できましたか?

電子対生成は入射光子のエネルギーで電子対を作り出さなければいけません。
それに1.022MeVを費やすんでしたね。
そして残った分を電子対の運動エネルギーとして分配する。

今回は分配する量が5MeVですから、そこに1.022MeVを足せば入射光子のエネルギーになりますね。

数式でも表してみましょう。

$\begin{aligned}
E_γ&=1.022+5\\[6pt]
&=6.022 \mathrm{MeV}
\end{aligned}$

医療現場でのかかわり

電子対生成は、入射光子エネルギーが1.022 MeV以上でなければ起こりません。
そのため、一般撮影やCTで使用するX線では、電子対生成はほとんど問題になりません。

一方、放射線治療ではMeV領域の高エネルギーX線が使用されるため、電子対生成が起こる可能性があります。
特に光子エネルギーが高く、原子番号の大きな物質ほど電子対生成が起こりやすくなります。

診療放射線技師としては、「電子対生成は高エネルギー光子で起こる相互作用」であり、1.022 MeVというしきい値をもつことを押さえておきましょう。

まとめ

今回は、電子対生成のしくみと、しきい値、エネルギーの関係について見てきました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。

  • 電子対生成では、光子が消滅して電子と陽電子が1個ずつ生成される。
  • 電子対生成のしきい値は1.022 MeVである。
  • 1.022 MeVは、電子と陽電子それぞれの質量エネルギー0.511 MeVを合わせた値である。
  • 1.022 MeVを超えた分のエネルギーは、電子と陽電子の運動エネルギーとして分配される。
  • 電子と陽電子の運動エネルギーは一定ではなく、連続スペクトルとなる。
  • 電子対生成は、光子エネルギーの物質化を示す現象である。
  • 原子断面積は $Z^2(E_γ-1.022)$ に比例する。
  • 質量減弱係数は $Z(E_γ-1.022)$ に比例する。
  • 入射光子エネルギーが高いほど、電子と陽電子は前方方向へ放出されやすい。

1.022 MeVは、電子対生成を考えるうえで絶対に外せない数字だよ。しきい値とエネルギーの分配をセットで覚えておこう!

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この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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