C21 光子と物質の相互作用 発生割合

X線が物質に入射すると、光電効果やコンプトン散乱など、いくつかの相互作用が起こります。では、その中でどの相互作用が最も起こりやすいのでしょうか。

実は、相互作用の発生割合は光子エネルギーだけで決まるわけではなく、物質の原子番号によっても変化します。同じ光子エネルギーでも、人体と鉛では主に起こる相互作用が異なることがあります。

今回は、光子エネルギーと原子番号の関係から、光電効果、コンプトン散乱、電子対生成のうち、どの相互作用が主になるのかを見ていきましょう。

相互作用の発生割合を決めるもの

光子が物質に入射すると、光電効果、コンプトン散乱、電子対生成などの相互作用が起こります。
ただし、これらが同じ割合で起こるわけではありません。

どの相互作用が主に起こるのかを考えるときは、「入射する光子のエネルギー」と「物質の原子番号」の2つに注目します。
上のグラフでは、横軸が入射光子エネルギー、縦軸が物質の原子番号を表しています。

光子エネルギーによる変化

まず、横軸の入射光子エネルギーに注目してみましょう。

光子エネルギーが低い領域では、光電効果が主に起こります。
そこから光子エネルギーが高くなると、コンプトン散乱が主に起こる領域へ移っていきます。
さらに高エネルギーになると、電子対生成が主に起こるようになります。

つまり、光子エネルギーだけに注目すると、

「光電効果 → コンプトン散乱 → 電子対生成」

という順番で、主になる相互作用が変化していきます。

ただし、「何keVからコンプトン散乱になる」と一つの値で決めることはできません。
その境界は、相互作用する物質によって変わるからです。

原子番号による変化

次に、縦軸の原子番号に注目してみましょう。

同じ光子エネルギーであっても、物質の原子番号が異なれば、主に起こる相互作用も変わります。
特に光電効果は原子番号の影響を強く受けるため、鉛のような原子番号の大きい物質では、人体や水よりも高い光子エネルギーまで光電効果が主になります。

一方、コンプトン散乱は光電効果ほど原子番号の影響を強く受けません。
そのため、人体や水のような原子番号の小さい物質では、診断領域の広い範囲でコンプトン散乱が主になります。

このグラフを見るときは、「光子エネルギーだけ」または「原子番号だけ」で判断するのではなく、横軸と縦軸の両方から位置を確認することがポイントです。

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油断しないでな。

3つの相互作用が主になる領域

光電効果、コンプトン散乱、電子対生成は、それぞれ主になりやすい領域が異なります。
ここでは、グラフを3つの領域に分けて見ていきましょう。

光電効果が主になる領域

光電効果は、光子エネルギーが低く、物質の原子番号が大きいほど起こりやすい相互作用です。

そのため、グラフでは左上の領域ほど光電効果が主になります。
鉛のように原子番号の大きい物質では、人体や水よりも高い光子エネルギーまで光電効果が主になります。

一方、人体や水のように原子番号の小さい物質では、光子エネルギーが少し高くなるだけでコンプトン散乱の割合が大きくなります。

コンプトン散乱が主になる領域

コンプトン散乱は、光電効果と電子対生成の間に広く分布しています。

特に人体や水のような原子番号の小さい物質では、診断領域のX線でコンプトン散乱が主になる範囲が広くなります。
胸部X線撮影などで人体にX線を照射したときも、主に起こる相互作用はコンプトン散乱です。

また、1 MeV程度の光子では、物質の原子番号による違いが小さく、多くの物質でコンプトン散乱が主になります。

電子対生成が主になる領域

電子対生成は、光子エネルギーが高く、物質の原子番号が大きいほど起こりやすくなります。

電子対生成が起こるためには、少なくとも1.022 MeVの光子エネルギーが必要です。
ただし、1.022 MeVを超えた直後から電子対生成が主になるわけではありません。

グラフを見ると、人体や水のような原子番号の小さい物質では、かなり高い光子エネルギーまでコンプトン散乱が主になります。
一方、鉛のような原子番号の大きい物質では、より低い光子エネルギーから電子対生成の割合が大きくなります。

グラフから発生割合を読み取ろう

ここからは、実際にグラフを使って、どの相互作用が主になるのかを読み取ってみましょう。

ポイントは、横軸の「入射光子エネルギー」と縦軸の「物質の原子番号」の交わる位置を見ることです。
境界線のどちら側にあるかによって、主に起こる相互作用を判断できます。

70 keVでは人体と鉛で主な相互作用が異なる

まず、入射光子エネルギーが70 keVの場合を考えてみましょう。

人体や水のように原子番号の小さい物質では、70 keVはコンプトン散乱が主になる領域に入ります。
そのため、人体に70 keV程度のX線が照射されると、主にコンプトン散乱が起こります。

胸部レントゲン写真を撮影するときも、人体ではコンプトン散乱が主に起こります。
診断領域のX線と人体という組み合わせでは、コンプトン散乱が重要な相互作用になることを押さえておきましょう。

一方、鉛では同じ70 keVでも光電効果が主になる領域に入ります。
そのため、70 keV程度のX線を鉛で遮蔽するときには、主に光電効果が起こります。

このように、同じ光子エネルギーであっても、物質の原子番号が違えば主に起こる相互作用も変化します。

1 MeV程度ではコンプトン散乱が主になる

グラフを見ると、1 MeV付近では原子番号の小さい物質から大きい物質まで、広い範囲がコンプトン散乱の領域に入っています。

そのため、1 MeV程度の光子では、物質の原子番号にかかわらずコンプトン散乱が主になることが多くなります。

コンプトン散乱は、低エネルギー側の光電効果と高エネルギー側の電子対生成の間に広く存在する相互作用です。
グラフでは、この「コンプトン散乱の領域が広い」という特徴も押さえておきましょう。

境界の目安は人体で30 keV、鉛で8 MeV

グラフの境界線は、2つの相互作用が同じ程度の割合で起こる場所を表しています。

人体や水では、約30 keVで光電効果とコンプトン散乱が同じ程度になります。
30 keVより低い側では光電効果の割合が大きくなり、高い側ではコンプトン散乱の割合が大きくなります。

一方、鉛では約8 MeVでコンプトン散乱と電子対生成が同じ程度になります。
8 MeVより低い側ではコンプトン散乱、高い側では電子対生成の割合が大きくなります。

境界のエネルギーは物質によって異なるため、数値だけを切り離して覚えるのではなく、「どの物質で、どの相互作用どうしの境界なのか」までセットで確認しておきましょう。

実際の過去問を見てみよう

古い問題ですが、このジャンルにぴったりな出題があります。
2012年に実施された第64回国家試験から問46のご紹介。

第64回 2012年 問46

30keVの光子が水に入射した場合の相互作用はどれか。2つ選べ。

  1. 光電吸収
  2. 光核反応
  3. 三対子生成
  4. 電子対生成
  5. コンプトン散乱
答えを確認する。


正解は 1と5 です。

できましたか?

記事内に何度も出てきているグラフから読み取れるはずですね。

医療現場でのかかわり

光子と物質の相互作用の発生割合は、X線画像がどのように作られるのかを考えるうえでも重要です。

診断領域のX線が人体に入射すると、主にコンプトン散乱が起こります。
コンプトン散乱によって生じた散乱線が画像に混ざると、画像のコントラストが低下する原因になります。そのため、胸部や腹部などのX線撮影では、グリッドなどを利用して散乱線の影響を減らします。

一方、光電効果では入射光子のエネルギーが物質に吸収されます。
光電効果は原子番号の影響を強く受けるため、骨や造影剤などと周囲の組織とのX線吸収の違いにも関係しています。

このように、光電効果とコンプトン散乱のどちらがどの程度起こるのかは、単なる物理現象の話ではありません。
実際のX線画像のコントラストや散乱線の発生にもつながる知識です。

まとめ

今回は、光子と物質の相互作用について、光子エネルギーと物質の原子番号による発生割合の違いを見てきました。
最後に、重要なポイントを振り返ってまとめていきましょう。

  • 光子と物質の相互作用の発生割合は、光子エネルギーと物質の原子番号によって変化する
  • 低エネルギー側では光電効果、中間のエネルギー領域ではコンプトン散乱、高エネルギー側では電子対生成が主になりやすい
  • 光電効果は原子番号の影響を強く受ける
  • 人体や水に70 keV程度のX線が入射すると、主にコンプトン散乱が起こる
  • 鉛に70 keV程度のX線が入射すると、主に光電効果が起こる
  • 胸部レントゲン写真を撮影するとき、人体ではコンプトン散乱が主に起こる
  • 1 MeV程度の光子では、多くの物質でコンプトン散乱が主になる
  • 人体や水では約30 keVで光電効果とコンプトン散乱が同じ程度になる
  • 鉛では約8 MeVでコンプトン散乱と電子対生成が同じ程度になる
  • グラフを見るときは、横軸の光子エネルギーと縦軸の原子番号をセットで確認する

どの相互作用が起こるかは、エネルギーだけじゃなく原子番号も一緒に見るんだぞ。

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次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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