D12 γ線放出

α壊変やβ壊変では、原子核の原子番号や質量数が変化します。
一方、原子番号も質量数も変化せず、原子核が余分なエネルギーだけを放出する現象もあります。
これが「γ線放出」です。

今回は、γ線放出の仕組みや特徴に加え、核異性体転移、メスバウアー効果、原子核の反跳について見ていきましょう。

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γ線放出の仕組み

α壊変やβ壊変では、原子核から粒子が放出され、別の核種へと変化します。
一方、γ線放出では原子番号も質量数も変化せず、原子核が余分なエネルギーを放出します。

まずは、γ線が放出される仕組みと、その特徴について見ていきましょう。

γ線放出とエネルギー準位

一般に、γ線のみを放出する核は存在せず、他の壊変で生じた娘核種の余分なエネルギーがγ線となって核外に放出されます。

例えば、α壊変やβ壊変によって生じた娘核種が、エネルギーの高い状態である「励起状態」になることがあります。
この原子核が、より低いエネルギー状態へ遷移するときに、余分なエネルギーがγ線として放出されるのです。

γ線放出では、原子番号も質量数も変化せず、核のエネルギー準位だけが減少します。

つまり、γ線放出は原子核の種類が変わる現象ではなく、原子核のエネルギー状態が変わる現象ということですね。

γ線の線スペクトル

原子核が持つエネルギーは、どんな値でも自由に取れるわけではありません。
原子核には決められたエネルギー準位があり、その値は核種によって異なります。

そして、γ線放出によって原子核が低いエネルギー準位へ遷移すると、その準位差に対応するエネルギーがγ線として放出されます。

核のエネルギー準位は核種によって固有の値であるため、エネルギー準位差によるγ線は線スペクトルを示します。

線スペクトルとは、特定のエネルギーの位置に線状のピークが現れるスペクトルのことです。

そのため、放出されたγ線のエネルギーを調べることで、どの核種から放出されたγ線なのかを判断する手がかりになります。

γ線放出と壊変図

放射性核種がどのように壊変し、どのような放射線を放出するのかを表した図を「壊変図」といいます。

壊変図では、原子核のエネルギー準位を横線で表し、準位間の遷移を矢印で示します。

γ線放出では、原子核が高いエネルギー準位から低いエネルギー準位へ遷移するため、壊変図では真下への矢印で示されます。

α壊変やβ壊変とは異なり、γ線放出では原子番号も質量数も変化しません。
そのため、壊変図でも同じ核種のまま、エネルギー準位だけが変化する様子が描かれるのです。

壊変図に関してはD04:壊変図をご参照ください。

γ線放出に関係する現象

γ線放出には、原子核のエネルギー状態に関係する特徴的な現象があります。
ここでは、γ線の共鳴吸収に関係する「メスバウアー効果」と、励起状態の原子核が比較的長い時間をかけて遷移する「核異性体転移」について見ていきましょう。

メスバウアー効果

原子核には決められたエネルギー準位があり、その準位差に対応するエネルギーを持つγ線を吸収すると、原子核は励起状態へ遷移できます。
このように、特定のエネルギーを持つγ線が原子核に吸収される現象を「共鳴吸収」といいます。

ところが、γ線を放出するときには原子核が反対方向へ反跳し、エネルギーの一部が原子核の運動エネルギーになります。
γ線を吸収するときにも反跳が起こるため、放出されたγ線のエネルギーと、共鳴吸収に必要なエネルギーとの間に差が生じます。

この問題を解決するのが、固体中の原子核です。

固体中では原子核が周囲の原子と結びついているため、γ線の放出や吸収に伴う運動量を固体全体で受け持つことができます。
その結果、反跳によるエネルギー損失が無視できるほど小さくなり、γ線の共鳴吸収が可能になります。

このような、反跳によるエネルギー損失のないγ線の共鳴吸収を「メスバウアー効果」といいます。

メスバウアー効果は、物質中の鉄などの状態を調べる「メスバウアー分光法」に利用されています。

こんな難しい話、嫌やで!

安心しな。
国試では、「メスバウアー効果はγ線と関係ある」ことさえ押さえておけば大丈夫。

核異性体転移

通常、励起状態になった原子核は、非常に短い時間でγ線を放出し、エネルギーの低い状態へ遷移します。

しかし、励起状態の中には、比較的長い時間にわたってその状態を保つものがあります。
このような原子核を「核異性体」といい、核異性体がγ線あるいは内部転換電子を放出してエネルギーの低い状態へ遷移する現象を「核異性体転移」といいます。

核異性体転移では、原子番号も質量数も変化せず、原子核のエネルギー状態だけが変化します。

一般的なγ線放出と核異性体転移を区別するポイントは、半減期の有無として扱われます。
ただし、物理的には通常の励起状態にも寿命があり、核異性体ではその寿命が比較的長く、半減期として扱えることが特徴です。

代表例が、核医学検査で使用されるテクネチウム99m(⁹⁹ᵐTc)です。

⁹⁹Moがβ⁻壊変すると、励起状態の⁹⁹ᵐTcが生成されます。
⁹⁹ᵐTcは約6時間の半減期で核異性体転移し、⁹⁹Tcへ変化します。

このとき放出される約140 keVのγ線は、シンチレーションカメラなどを用いた核医学検査に利用されています。

γ線放出と原子核の反跳

原子核がγ線を放出すると、γ線が飛んでいく方向とは反対方向に原子核が動きます。
この現象を「反跳」といいます。

ここでは、γ線放出に伴う運動量の関係と、反跳した原子核が持つ運動エネルギーについて見ていきましょう。

冒頭の図でもう一度状況を確認しておきましょう。

γ線と原子核の運動量

γ線は質量を持たない電磁波ですが、エネルギーだけでなく運動量も持っています。

静止していた原子核がγ線を放出すると、運動量保存則によって、原子核はγ線と反対方向へ反跳します。

このとき、γ線と反跳した原子核の運動量は、大きさが等しく、向きが反対になります。

つまり、γ線の運動量を $p_γ$ 、反跳した原子核の運動量を $p_m$ とすると、両者の運動量の大きさには次の関係が成り立ちます。

$$
p_m = p_γ = \frac{E_γ}{c}
$$

ここで、$E_γ$ はγ線のエネルギー、cは真空中の光速度です。

この関係から、γ線のエネルギーが大きいほど、反跳する原子核の運動量も大きくなることがわかります。

原子核の反跳エネルギー

γ線を放出した原子核は、反跳によって運動エネルギーを持ちます。
この運動エネルギーを「反跳エネルギー」といいます。

γ線放出に伴う原子核の反跳エネルギーをEₘ、γ線のエネルギーをEγ、原子核の質量をm、真空中の光速度をcとすると、反跳エネルギーは次の式で表されます。

$$
E_m=\frac{{E_γ}^2}{2mc^2}
$$

この式を見ると、反跳エネルギーには次の特徴があることがわかります。

  • γ線のエネルギーの2乗に比例する。
  • 原子核の質量に反比例する。

つまり、γ線のエネルギーが大きいほど反跳エネルギーは大きくなり、原子核の質量が大きいほど反跳エネルギーは小さくなるのです。

また、原子核が高いエネルギー準位から低いエネルギー準位へ遷移するとき、そのエネルギー差のすべてがγ線になるわけではありません。

エネルギーの一部が原子核の反跳に使われるため、放出されるγ線のエネルギーは、原子核のエネルギー準位差よりもわずかに小さくなります。

この反跳によるエネルギー損失が、先ほど紹介したメスバウアー効果にも関係しているのです。

先ほどの式で、質量は分母側にあるよね?
つまり、質量が大きい状態では反跳エネルギーが無視できるほど小さくなるんだ。

この式は国試では問われたことはないね。
主任者試験では見かけることがあります。

実際の過去問を見てみよう

2025年に実施された第77回国家試験からPM60のご紹介。

放射性壊変で正しいのはどれか。

  1. α壊変は質量数が2減る。
  2. β⁺壊変は質量数が1減る。
  3. β⁻壊変は原子番号が1減る。
  4. γ壊変は原子番号が変化しない。
  5. 軌道電子捕獲は質量数が1増える。
答えを確認する。


正解は 4 です。

できましたか?

  1. 誤り
    α壊変では原子番号が2減少し、質量数が4減少する。
  2. 誤り
    β⁺壊変では原子番号が1減少するが、質量数は変化しない。
  3. 誤り
    β⁻壊変では原子番号が1増加するが、質量数は変化しない。
  4. 正解
    γ壊変では原子番号も質量数も変化せず、原子核のエネルギー準位だけが減少する。
  5. 誤り
    軌道電子捕獲では原子番号が1減少するが、質量数は変化しない。

医療現場でのかかわり

γ線は、医療現場では主に「核医学検査」で利用されています。

核医学検査では、放射性核種を含む放射性医薬品を患者さんに投与し、体内から放出されるγ線をシンチレーションカメラで検出します。
これにより、放射性医薬品が体内のどこに集まっているのかを画像にすることができます。

代表的な放射性核種が「テクネチウム99m(⁹⁹ᵐTc)」です。

⁹⁹ᵐTcは、約6時間の半減期で核異性体転移を起こし、約140 keVのγ線を放出します。
このγ線は、骨シンチグラフィや心筋血流シンチグラフィなど、さまざまな核医学検査で利用されています。

また、γ線のエネルギーは核種によって異なるため、シンチレーションカメラでは検出するγ線のエネルギーに応じて、収集するエネルギー範囲を設定します。

このように、γ線放出の仕組みやエネルギーの特徴を理解することは、核医学検査の原理や撮影条件を学ぶうえでも大切なのです。

まとめ

今回は、γ線放出の仕組みや特徴に加え、メスバウアー効果、核異性体転移、原子核の反跳について学びました。
最後に、重要なポイントを振り返っておきましょう。

  • γ線放出では、原子番号も質量数も変化せず、原子核のエネルギー準位だけが減少する。
  • 原子核のエネルギー準位は核種によって固有の値を持つため、γ線は線スペクトルを示す。
  • γ線放出は、壊変図では真下への矢印で示される。
  • メスバウアー効果は、反跳によるエネルギー損失を伴わないγ線の共鳴吸収である。
  • 核異性体転移は、比較的長い半減期を持つ励起状態の原子核が、γ線や内部転換電子を放出してエネルギーの低い状態へ遷移する現象である。
  • γ線を放出した原子核は、運動量保存則によってγ線と反対方向へ反跳する。
  • 原子核の反跳エネルギーは、γ線のエネルギーの2乗に比例し、原子核の質量に反比例する。

γ線放出では、原子番号も質量数も変わらないことが大切だよ!
反跳エネルギーの式も、γ線のエネルギーと原子核の質量に注目して理解しよう!

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次はこの辺りも参考になるかもよ。

この記事を書いた人

たなまる
詳しいプロフィールはこちら

診療放射線技師・医療系専門学校専任教員。

都内大学病院で9年間勤務後、
2015年より医療系専門学校の専任教員として
放射線物理学・核医学・医用工学・放射線計測学・放射化学
などの講義を担当しています。

国家試験対策用ワークブックの制作や学習支援サイト「勉強嫌いの放物」の運営を行っています。

保有資格:
・診療放射線技師
・第1種放射線取扱主任者
・作業環境測定士
・衛生工学衛生管理者
ほか、放射線関連国家資格を保有

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